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陽貨第十七 23 子路曰君子尚勇乎章

457(17-23)
子路曰、君子尚勇乎。子曰、君子義以爲上。君子有勇而無義爲亂。小人有勇而無義爲盜。
子路しろいわく、くんゆうたっとぶか。いわく、くんもっじょうす。くんゆうりてければらんす。しょうじんゆうりてければとうす。
現代語訳
  • 子路 ――「上の人も元気なのがいいですか。」先生 ――「上の人は、公正なのがいいんじゃ。上の人が元気なだけで公正でないと、反乱をする。下の者が元気なだけで公正でないと、ドロボウをやる。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • 子路しろが、「君子は勇をたっとぶものでござりますか。」とおたずねした。孔子様がおっしゃるよう、「君子は勇をたっとぶが、勇よりもさらに義をたっとぶ。すなわちすべきところと為すべからざるところの判別はんべつに重きをおくのじゃ。上級者に勇があって義がないと反乱を起し、下級者に勇があって義がないとぬすみをするぞ。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 子路がたずねた。
    「君子は勇をたっとぶものでございますか」
    先師がこたえられた。――
    「君子にとって何より大事なのは義だ。上に立つ人に勇があって義がないと、反乱を起し、下に居る人民に勇があって義がないと盗みをする」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 子路 … 前542~前480。姓はちゅう、名は由。あざなは子路、または季路。魯のべんの人。孔門十哲のひとり。孔子より九歳年下。門人中最年長者。政治的才能があり、また正義感が強く武勇にも優れていた。ウィキペディア【子路】参照。
  • 君子 … 初めの二つは徳のある人。後の一つは位にある人。
  • 勇 … 勇気。
  • 尚 … たっとぶ。
  • 義 … 正義。
  • 上 … 最も大切なこと。最上なもの。第一義。
  • 乱 … 反乱。混乱。
  • 盗 … 盗み。盗賊。
補説
  • 『注疏』に「此の章は子路を抑うるなり」(此章抑子路也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 『集解』には、この章の注なし。
  • 子路 … 『孔子家語』七十二弟子解に「仲由は卞人べんひと、字は子路。いつの字は季路。孔子よりわかきこと九歳。勇力ゆうりき才芸有り。政事を以て名を著す。人と為り果烈にして剛直。性、にして変通に達せず。衛に仕えて大夫と為る。蒯聵かいがいと其の子ちょうと国を争うに遇う。子路遂に輒の難に死す。孔子之を痛む。曰く、吾、由有りてより、悪言耳に入らず、と」(仲由卞人、字子路。一字季路。少孔子九歳。有勇力才藝。以政事著名。爲人果烈而剛直。性鄙而不達於變通。仕衞爲大夫。遇蒯聵與其子輒爭國。子路遂死輒難。孔子痛之。曰、自吾有由、而惡言不入於耳)とある。ウィキソース「家語 (四庫全書本)/卷09」参照。また『史記』仲尼弟子列伝に「仲由、字は子路、べんの人なり。孔子よりもわかきこと九歳。子路性いやしく、勇力を好み、志こうちょくにして、雄鶏を冠し、とんび、孔子を陵暴す。孔子、礼を設け、ようやく子路をいざなう。子路、後に儒服してし、門人に因りて弟子たるを請う」(仲由字子路、卞人也。少孔子九歳。子路性鄙、好勇力、志伉直、冠雄鷄、佩豭豚、陵暴孔子。孔子設禮、稍誘子路。子路後儒服委質、因門人請爲弟子)とある。伉直は、心が強くて素直なこと。豭豚は、オスの豚の皮を剣の飾りにしたもの。委質は、はじめて仕官すること。ここでは孔子に弟子入りすること。ウィキソース「史記/卷067」参照。
  • 君子尚勇乎 … 『義疏』に「子路は既に勇有れば、常に勇のすうしょうす可きと言う。故に孔子に問う。君子の人常に勇を尚ぶか。袁氏曰く、世の尚ぶを見るに須らく勇なるべし。故に尚ぶ可きかと謂う、と」(子路既有勇、常言勇可崇尚。故問於孔子。君子之人常尚勇乎。袁氏曰、見世尚須勇。故謂可尚乎)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「子路は勇有れば、意は勇の崇尚す可きを謂う。故に夫子に問いて曰く、君子は当に勇を尚ぶべきか、と」(子路有勇、意謂勇可崇尚。故問於夫子曰、君子當尚勇乎)とある。また『集注』に「尚は、之を上とするなり」(尚、上之也)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 君子義以為上 … 『義疏』に「孔子答えて云う、君子は唯だ尚ぶ所義に於いて以て上と為すなり、と」(孔子答云、君子唯所尚於義以爲上也)とある。また『注疏』に「君子は勇を尚ばずして義を上とするを言うなり。上は即ち尚なり」(言君子不尚勇而上義也。上即尚也)とある。
  • 君子有勇而無義為乱 … 『義疏』に「君子既に義を尚ぶ。若し義無くんば必ず乱を作すなり。李充曰く、既に君子を称す。又た職として乱階を為すを謂うなり。若し君みずから道を失い国家昏乱するに遇えば、其れ患に赴き命を致すに於いて、正に居り義を顧みるを知らざる者は、則ち亦た平を蹈むを畏れて乱を為す。而して不義の責を受くるなり、と」(君子既尚義。若無義必作亂也。李充曰、既稱君子。又謂職爲亂階也。若遇君親失道國家昏亂、其於赴患致命、而不知居正顧義者、則亦畏蹈平爲亂。而受不義之責也)とある。また『注疏』に「君子は位に在る者を指す。宜に合するを義と為す。言うこころは在位の人、勇有れども義無くんば、則ち乱逆を為す」(君子指在位者。合宜爲義。言在位之人、有勇而無義、則爲亂逆)とある。
  • 小人有勇而無義為盗 … 『義疏』に「君子は敢えて乱を作さざるを畏る。乃ち盗窃を為すのみ」(畏於君子不敢作亂。乃爲盜竊而已)とある。また『注疏』に「在下の小人、勇有れども義無くんば、則ち盗賊を為す」(在下小人、有勇而無義、則爲盜賊)とある。また『集注』に「君子は乱を為し、小人は盗を為す。皆位を以てして言う者なり」(君子爲亂、小人爲盜。皆以位而言者也)とある。
  • 『集注』に引く尹焞の注に「義以て尚ぶと為せば、則ち其の勇たるや大なり。子路勇を好む。故に夫子此を以て其の失を救うなり」(義以爲尚、則其爲勇也大矣。子路好勇。故夫子以此救其失也)とある。
  • 『集注』に引く胡寅の注に「疑うらくは此れ子路初めて孔子にまみゆる時の問答ならん」(疑此子路初見孔子時問答也)とある。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「義なる者は聖人の大用なり。大にして死生存亡、小にして進退取捨、必ず是れに由りて決す。故に義以て上と為せば、則ち志立つ所有りて、気ひきいる所有り、勇に依らずして自ら裕如ゆうじょたり。……蓋し義と之れ勇とは、其のおもむき相似たるも、実は甚だ殊なり。此れ子路勇を尚ぶの問い有りて、而して夫子義以て上と為すの説有る所以なり」(義者聖人之大用也。大而死生存兦、小而進退取捨、必由是而決。故義以爲上、則志有所立、而氣有所帥、不依勇而自裕如也。……蓋義之與勇、其趣相似、而實甚殊矣。此子路所以有尚勇之問、而夫子有義以爲上之説也)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「仁斎曰く、義なる者は聖人の大用なり。……気ひきいる所有り、と。此れ孟子の浩然こうぜんきて以て此の章を解す。殊に知らず孟子は義以て勇を生ずることを言い、自ずから此の章と同じからざることを。……仁斎は乃ち義と勇と相似たりと謂う。あやまりと謂う可きのみ。勇は徳なり。義は道なり。豈に似たりと為す可けんや。皆古言にくらきの過ちなり」(仁齋曰、義者聖人之大用也。……而氣有所帥。此援孟子浩然以解此章。殊不知孟子言義以生勇、自與此章不同矣。……仁齋乃謂義與勇相似。可謂謬已。勇德也。義道也。豈可爲似乎。皆昧乎古言之過也)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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