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憲問第十四 4 子曰邦有道章

336(14-04)
子曰、邦有道、危言危行。邦無道、危行言孫。
いわく、くにみちれば、げんたかくしおこないをたかくす。くにみちければ、おこないをたかくしげんしたがう。
現代語訳
  • 先生 ――「よい時代には、ズバズバいい、バリバリやる。よくない時代には、バリバリやるが、ひかえめにいう。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • 孔子様がおっしゃるよう、「国が治まって道が行われている場合には、正しいと信ずるところを遠慮えんりょなく言いだんとして行う。国が乱れて道が行われない場合には、正しきを行うべきは少しも変りがないが、言葉は当りさわりないよう注意せねばならぬ。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 先師がいわれた。――
    「国に道が行なわれている時には、信ずるところを大胆に言い、大胆に行なうべきである。国に道が行なわれていない時には、行いはむろん大胆でなければならないが、言葉は多少ひかえて、婉曲であるがいい」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 邦 … 国。
  • 有道 … 道徳にかなった政治が行われている。
  • 危 … 高い見地に立って主張する。はげしい主張や行動をする。正しいことを主張する。
  • 無道 … 道徳に反する政治が行われている。
  • 孫 … 「ゆずる」とも読む。譲歩する。言葉を控え目にする。
補説
  • 『注疏』に「此の章は人に言・行の法を教うるなり」(此章教人言行之法也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 邦有道、危言危行 … 『集解』に引く包咸の注に「危は、厲なり。邦に道有れば、以て言行をはげしくす可きなり」(危、厲也。邦有道、可以厲言行也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「危は、厲なり。君若し道有れば、必ず正理を以て人を処す。故に民以て其の言行を厳厲にするを得可きなり」(危、厲也。君若有道、必以正理處人。故民可以得嚴厲其言行也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「危は、厲なり」(危、厲也)とある。また『集注』に「危は、高峻なり」(危、高峻也)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 邦無道、危行言孫 … 『集解』の何晏の注に「遜は、順なり。行を厲しくして俗に随わず、言を順にして以て害を遠ざくるなり」(遜、順也。厲行不隨俗、順言以遠害也)とある。また『義疏』に「君若し道無くんば、必ず非理を以て人を罪す。故に民下の行う所、乃ち厳厲なれども乱俗を同じうせず。而して言は厲しくす可からず、厲は必ず罪を。当に遜順は時に随うべきなり。江熙云う、仁者は豈に歳寒を以て貞松の高志をかんや。言語に於いて以て害を免る可し。志知愈〻深し。孔子曰く、諾、吾将に仕えんとす、と。此れ皆遜辞して以て害を遠ざくるなり、と」(君若無道、必以非理罪人。故民下所行、乃嚴厲不同亂俗。而言不可厲、厲必獲罪。當遜順隨時也。江熙云、仁者豈以歳寒虧貞松之高志。於言語可以免害。志知愈深。孔子曰、諾、吾將仕矣。此皆遜辭以遠害也)とある。また『注疏』に「孫は、順なり。言うこころは邦に道有れば、以て言・行を厲しくす可し。邦に道無ければ、則ち其の行いを厲しくして、ぞくに随わず、言辞を順にして、以て当時の害を避くるなり」(孫、順也。言邦有道、可以厲言行。邦無道、則厲其行、不隨汙俗、順言辭、以避當時之害也)とある。汙俗は、よくない風習。また『集注』に「孫は、卑順なり」(孫、卑順也)とある。
  • 孫 … 『義疏』では「遜」に作る。
  • 『集注』に引く尹焞の注に「君子の身を持するや、変ず可からざるなり。言に至りては、則ち時有りて敢えて尽くさず、以て禍いを避くるなり。然らば則ち国をおさむる者、士をして言したがわしむ、豈にあやうからずや」(君子之持身、不可變也。至於言、則有時而不敢盡、以避禍也。然則為國者、使士言孫、豈不殆哉)とある。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「此れ君子身を持するの法を言う。其の有道に処るときは、則ち当に言を直くし行いを励まして、以て正道を明らかにし、士風を範すべし。若し無道に処るときは、則ち行いは固にしたがう可からざるなり。其の言に至りては、則ち稍〻やや鋒刃ほうじんを収めて、以て其の禍いを避けざる可からず。君子は固より当に道をぐべからず。亦た尽言じんげんを好みて以て禍いを取る可からず。唯だ有道の者は能くす」(此言君子持身之法。其處有道、則當直言勵行、以明正道、範士風。若處無道、則行固不可遜也。至于其言、則不可不収稍鋒刅、以避其禍焉。君子固不當枉道。亦不可好盡言以取禍。唯有道者能焉)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』には、この章の注なし。
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