酬柳郎中春日帰揚州南郭見別之作(韋応物)
酬柳郎中春日歸揚州南郭見別之作
柳郎中が春日揚州に帰らんとし、南郭にて別れらるるの作に酬ゆ
柳郎中が春日揚州に帰らんとし、南郭にて別れらるるの作に酬ゆ
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻一百九十、『韋江州集』巻五(『四部叢刊 初編集部』所収)、『韋蘇州集』巻十(『唐五十家詩集』所収)、『韋蘇州集』巻五(『四部備要 集部』所収)、『(須溪先生校本)韋蘇州集』巻五・宝永三年刊(『和刻本漢詩集成 唐詩8』所収、281頁)、『万首唐人絶句』七言・巻四(明嘉靖刊本影印、文学古籍刊行社、1955年)、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十六(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『唐詩品彙拾遺』巻四、他
- 七言絶句。開・迴・來(平声灰韻)。
- ウィキソース「酬柳郎中春日歸揚州南郭見別之作」参照。
- 詩題 … 『万首唐人絶句』(嘉靖刊本)では「酬栁郎中春日歸揚州」に作る。『万首唐人絶句』(万暦刊本)では「酬柳郎中春日歸揚南郭見別之作」に作る。
- 柳 … 柳某。人物については不明。『韋應物集校注』(上海古籍出版社、1998年)には、柳識のことかもしれないとある。柳識の字は方明。襄州襄陽(今の湖北省襄陽市)の人。柳渾の兄。『新唐書』柳渾伝に「渾の母兄識、字は方明、知名の士なり。文章に工なり。蕭穎士、元徳秀、劉迅と相上下す」(渾母兄識、字方明、知名士也。工文章。與蕭穎士、元德秀、劉迅相上下)とある。母兄は、同じ母から生まれた兄。知名は、世間にその名がよく知られていること。ウィキソース「新唐書/卷142」参照。
- 郎中 … 官名。周代は近侍の通称。隋唐代以後、尚書省の六部がそれぞれ四司に分かれ、その各司の長。
- 春日 … 春の日。春ののどかな日。『詩経』豳風・七月の詩に「春日遅遅たり、蘩を采ること祁祁たり」(春日遲遲、采蘩祁祁)とある。遅遅は、日が長くてのどかなさま。蘩は、しろよもぎ。祁祁は、数の多いさま。ウィキソース「詩經/七月」参照。
- 揚州 … 今の江蘇省揚州市一帯。ウィキペディア【揚州市】参照。
- 南郭 … 町の城郭の南側。『箋註唐詩選』『唐詩品彙拾遺』では「南國」に作る。こちらは「南の国で」の意となる。
- 見別 … 柳某が寄せてきた詩は「春日、揚州に帰らんとし、南郭にて韋蘇州に別る」というような詩題になっていたと思われるが、受けた方はこう表現する。
- 見 … 「る」「らる」と読み、「~される」と訳す。受身の意を示す。
- 酬 … お返しをする。ここでは柳某が詩を作って作者に贈ったのに対し、作者が答えたもの。『四部備要本』では「詶」に作る。同義。
- 作者が蘇州(江蘇省蘇州市)の刺史であったとき、揚州(江蘇省揚州市)にいた柳某がたまたま蘇州に来て、揚州に帰っていく際、花の咲く頃、ぜひ揚州に遊びに来て下さいという意味の詩を作って作者に贈った。この詩は、それに答えたもの。蘇州刺史であった貞元五年(789)から貞元六年(790)頃の作と思われるというのが、わが国における従来からの解釈である。一方、『韋應物詩集繋年校箋』(中華書局、2002年)には、大暦九年(774)春、広陵(揚州)での作とあり、作者はこの頃、大暦八年(773)から大暦九年(774)まで、淮海(淮水と海のほとりの地方、現在の江蘇省揚州市付近一帯)を客遊(他国に旅すること)していたという。また『韋應物集校注』(上海古籍出版社、1998年)には、大暦五年(770)春、揚州での作とある。
- 韋応物 … 736~791?。中唐の詩人。長安(陝西省西安市)の人。滁州(安徽省)刺史や江州(江西省)刺史等を歴任したが、最後の官が蘇州刺史だったので、韋蘇州と呼ばれた。自然を対象とした詩が多く、自然詩人といわれた。『韋江州集』十巻、『韋蘇州集』十巻がある。ウィキペディア【韋応物】参照。
廣陵三月花正開
広陵三月 花正に開く
- 広陵 … 揚州(今の江蘇省揚州市一帯)の古称。ウィキペディア【広陵郡】参照。
- 花正開 … 花がちょうど満開のことでしょう。
- 正 … ちょうど。
花裏逢君醉一廻
花裏 君に逢うて酔うこと一廻せん
- 花裏 … 花のもとで。裏は、場所をあらわす接尾辞。
- 酔一廻 … 心ゆくまで一度酔いたいものだ。
- 一廻 … 一度。「一回」に同じ。
- 廻 … 『万首唐人絶句』(嘉靖刊本)では「回」に作る。同義。『万首唐人絶句』(万暦刊本)では「囘」に作る。「回」の異体字。『宝永刊本』では「
」に作る。この字は「回」の俗字であるが、元は「面」の古字で「回」とは別字。
南北相過殊不遠
南北相過ぎること殊に遠からず
- 南北 … 長江を隔てて南は作者のいる蘇州、北は柳某のいる揚州を指す。
- 相過 … 互いに行き来すること。過は、通り過ぎる。通過する。
- 殊 … とりわけ。特に。
- 不遠 … 遠くはない。
- 不 … 『万首唐人絶句』(嘉靖刊本)では「未」に作る。
暮潮歸去早潮來
暮潮帰り去って早潮来る
- 暮潮 … 夕暮れに満ちてくる潮。夕潮。晩潮。
- 帰去 … (夕暮れの潮が)引いて行けば。暮潮で帰れば。『全唐詩』『四部叢刊本』『唐五十家詩集本』『四部備要本』『宝永刊本』『万首唐人絶句』(両種とも)では「從去」に作る。
- 早潮 … 朝の潮。
- 来 … (朝の潮が)満ちてくる。押し寄せて来る。早潮とともに来ることができる。
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