秋夜寄丘二十二員外(韋応物)
秋夜寄丘二十二員外
秋夜、丘二十二員外に寄す
秋夜、丘二十二員外に寄す
- ウィキソース「秋夜寄丘二十二員外」参照。
- この詩は、秋の夜、作者がひとり散歩しながら、親友で隠棲中の丘丹に思いを寄せて詠んだもの。貞元五年(789)秋、蘇州刺史の任にあった時の作。
- 詩題 … 『唐詩三百首』『万首唐人絶句』では「秋夜寄丘員外」に作る。ウィキソース「秋夜寄丘員外」参照。
- 丘二十二 … 丘は姓、丘丹。蘇州嘉興県(現在の浙江省嘉興市)の人。丘為(「左掖の梨花」の作者)の弟。二十二は排行(一族中の兄弟やいとこなどの年齢による序列)。諸曁県(現在の浙江省諸曁市)の県令(県知事)、尚書郎(尚書省の部課長級の官吏)を歴任し、臨平山(現在の浙江省杭州市臨平区)に隠棲した。『唐詩紀事』巻四十七に「丹、臨平山に隠れて、韋蘇州と往還す」(丹隱臨平山、與韋蘇州往還)とある。往還は、人と交際すること。ウィキソース「唐詩紀事 (四庫全書本)/卷47」参照。
- 員外 … 官名。員外郎。尚書省の六部(吏・戸・礼・兵・刑・工の各部)がそれぞれ四司に分かれ、その二十四司の長(郎中)の補佐役。隋代に始まり、本来は定員外の官。郎に欠員が出たとき補充された。なお、隠棲している丘丹を過去に就いた最高位の官名で呼ぶのは、当時の一般的な表現。
- 寄 … 詩を人に託して送り届けること。ちなみに「贈」は、詩を直接手渡すこと。
- 韋応物 … 736~791?。中唐の詩人。長安(陝西省西安市)の人。滁州(安徽省)刺史や江州(江西省)刺史等を歴任したが、最後の官が蘇州刺史だったので、韋蘇州と呼ばれた。自然を対象とした詩が多く、自然詩人といわれた。『韋江州集』十巻、『韋蘇州集』十巻がある。ウィキペディア【韋応物】参照。
懷君屬秋夜
君を懐いて 秋夜に属す
- 懐 … 懐かしく思う。『説文解字』巻十下、心部に「念じ思うなり」(念思也)とあり、その段玉裁の注に「念思なる者は、忘れざるの思なり」(念思者、不忘之思也)とある。ウィキソース「說文解字/10」、「說文解字第十篇下」(漢字データベース)参照。
- 秋夜 … 秋の夜。古楽府「子夜四時歌七十五首 秋歌十八首」(『楽府詩集』巻四十四)の第七首に「秋夜に涼風は起こり、天は高く星月は明らかなり」(秋夜涼風起、天高星月明)とある。ウィキソース「樂府詩集/044卷」参照。また、西晋の張協「雑詩十首」(『文選』巻二十九、『玉台新詠』巻三では第一首のみ)の第一首に「秋夜に涼風起こり、清気は暄濁を蕩う」(秋夜涼風起、清氣蕩暄濁)とある。暄濁は、生温かく濁った気。蕩うとは、払い除くこと。ウィキソース「雜詩 (張協)」参照。
- 属 … ちょうど~にあたる。今ちょうど~である。初唐の宋之問「途中寒食、黄梅臨江駅にて題し、崔融に寄す」詩に「馬上 寒食に逢い、愁中 暮春に属す」(馬上逢寒食、愁中屬暮春)とある。途中は、旅の途中。寒食は、寒食節。冬至の日から数えて百五日目の日。陽暦で、四月四日か五日にあたる。この日の前後三日間は火を使うことを禁じ、煮炊きした食事をしない風習があった。愁中は、わびしい思い。愁心に同じ。ウィキソース「途中寒食題黃梅臨江驛寄崔融」参照。
散歩詠涼天
散歩して 涼天に詠ず
- 散歩 … ぶらぶら歩く。散策する。南朝梁の劉孝威「六月壬午に和し奉る 応令」詩(『古詩紀』巻九十八)に「神心は邱壑を重んじ、散歩して漁樵を懐う」(神心重邱壑、散歩懷漁樵)とある。応令は、皇太子の命令によって作った詩文。天子の命令の場合は、応制。神心は、天子(皇太子)の考え・気持ちを尊んでいうことば。邱壑は、丘と谷。転じて、世俗を離れた隠者の住む所。丘壑に同じ。漁樵は、漁師と樵。転じて、名利を忘れて世俗から離れて暮らすこと。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷098」参照。
- 涼天 … 秋の涼しい夜空。李商隠「月」詩(『全唐詩』巻五百三十九)に「簾を開く 最明の夜、簟を巻く 已に涼天」(簾開最明夜、簟卷已涼天)とある。簟は、竹で編んだむしろ。ウィキソース「全唐詩/卷539」参照。
- 詠 … 詩を口ずさむ。『論語』先進篇に「沂に浴し、舞雩に風し、詠じて帰らん」(浴乎沂、風乎舞雩、詠而歸)とある。沂に浴すとは、沂水のほとりの温泉に入浴すること。舞雩に風すとは、舞雩の雨乞い台でひと涼みすること。ウィキソース「論語/先進第十一」参照。
山空松子落
山空しくして 松子落つ
- 山空 … 山は人気がなくて、ひっそりしている様子。南朝陳の後主「江僕射の『摂山棲霞寺に遊ぶ』に同ず」詩(『古詩紀』巻一百八)に「天迥かにして浮雲細く、山空しくして明月深し」(天迥浮雲細、山空明月深)とある。江僕射は、江総(519~594)のこと。僕射は、官名。尚書僕射(尚書省の次官)。唐・宋では尚書令(尚書省の長官)は任命されなかったので、実質的な宰相とされた。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷108」参照。『唐詩三百首』では「空山」に作る。
- 松子 … 松かさ。松ぼっくり。また、松の実のこともいう。偓佺という道士が松の実を食べるのが好きで、帝の堯にも松の実を贈ったが、堯は食べる暇がなかった。松の実を食べた人は、みな二、三百歳まで生きたという。『列仙伝』に「偓佺は、槐山の採薬の父なり。好んで松実を食らい、形体に毛を生じ、長さ数寸、両目は更〻方なり。能く飛行し、走馬を逐う。松子を以て堯に遺るも、堯は服するに暇あらざるなり也。松とは簡松なり。時人受けて服すれば、皆な二三百歳に至る」(偓佺者、槐山採藥父也。好食松實、形體生毛、長數寸、兩目更方。能飛行、逐走馬。以松子遺堯、堯不暇服也。松者簡松也。時人受服者、皆至二三百歳焉)とある。方は、まぶたが四角いこと。ウィキソース「列仙傳」参照。ここでは、丘丹が隠棲中なので、あえて道士の故事のある松子を取り上げている。
- 落 … 落ちる音が聞こえる。
幽人應未眠
幽人 応に未だ眠らざるべし
- 幽人 … 俗世間を離れてひっそり暮らしている人。隠者。ここでは、丘丹を指す。『易経』履卦に「道を履むこと坦坦たり。幽人なれば貞にして吉」(履道坦坦。幽人貞吉)とある。ウィキソース「周易/履」参照。また、東晋の陶潜「子に命く」詩(『陶淵明集』巻一)に「鳳は林に隠れ、幽人は丘に在り」(鳳隱於林、幽人在丘)とある。ウィキソース「命子」参照。
- 応未眠 … きっとまだ眠らずにいることだろう。南朝陳の徐陵の楽府「関山月二首」(『楽府詩集』巻二十三)の第一首に「思婦 高楼の上、窓に当たりて応に未だ眠らざるべし」(思婦高樓上、當窗應未眠)とある。思婦は、旅に出た夫を思う妻。窓に当たるとは、窓と向かう合う。窓に向かったまま。ウィキソース「樂府詩集/023卷」参照。
- 応 … 「まさに~すべし」と読み、「きっと~であろう」と訳す。再読文字。強い推量の意を示す。
- 未 … 通常は「いまだ~(せ)ず」と読み、「まだ~しない」と訳す。再読文字。ここでは「いまだ~ざる」と読む。
余説
丘丹が作者に答えた詩は次の通りである。ウィキソース「全唐詩/卷307」参照。
和韋使君秋夜見寄 韋使君の秋夜寄せらるるに和す
露滴梧葉鳴 露滴りて梧葉鳴り
秋風桂花發 秋風 桂花発く
中有學仙侶 中に仙を学ぶ侶有り
吹簫弄山月 簫を吹いて山月を弄す
和韋使君秋夜見寄 韋使君の秋夜寄せらるるに和す
露滴梧葉鳴 露滴りて梧葉鳴り
秋風桂花發 秋風 桂花発く
中有學仙侶 中に仙を学ぶ侶有り
吹簫弄山月 簫を吹いて山月を弄す
詩型・韻字
- 五言絶句。
- 天・眠(下平声先韻)。
テキスト
- 『箋註唐詩選』巻六(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
- 『全唐詩』巻一百八十八(排印本、中華書局、1960年)
- 『唐詩三百首注疏』巻六上・五言絶句(廣文書局、1980年)
- 『韋江州集』巻三(『四部叢刊 初編集部』所収)
- 『韋蘇州集』巻十(明銅活字本、『唐五十家詩集』所収、上海古籍出版社、1989年)
- 『(須溪先生校本)韋蘇州集』巻三(宝永三年刊、『和刻本漢詩集成 唐詩8』所収、汲古書院)
- 『文苑英華』巻二百五十五(影印本、中華書局、1966年)
- 『万首唐人絶句』五言・巻七(明嘉靖本影印、文学古籍刊行社、1955年)
- 『唐詩解』巻二十三(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
- 『唐詩品彙』巻四十一([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
- 『唐詩別裁集』巻十九([清]沈徳潜編、乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
- 『古今詩刪』巻二十(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
- 孫望編著『韋應物詩集繋年校箋』巻九(中国古典文学基本叢書、中華書局、2002年)
- 陶敏/王友勝校注『韋應物集校注』巻三(中國古典文學叢書、上海古籍出版社、1998年)
こちらもオススメ!
| 歴代詩選 | |
| 古代 | 前漢 |
| 後漢 | 魏 |
| 晋 | 南北朝 |
| 初唐 | 盛唐 |
| 中唐 | 晩唐 |
| 北宋 | 南宋 |
| 金 | 元 |
| 明 | 清 |
| 唐詩選 | |
| 巻一 五言古詩 | 巻二 七言古詩 |
| 巻三 五言律詩 | 巻四 五言排律 |
| 巻五 七言律詩 | 巻六 五言絶句 |
| 巻七 七言絶句 | |
| 詩人別 | ||
| あ行 | か行 | さ行 |
| た行 | は行 | ま行 |
| や行 | ら行 | |