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送魏十六還蘇州(皇甫冉)

送魏十六還蘇州
魏(ぎ)十(じゅう)六(ろく)の蘇(そ)州(しゅう)に還(かえ)るを送(おく)る
皇(こう)甫(ほ)冉(ぜん)
  • 七言絶句。君・聞・雲(上平声文韻)。
  • ウィキソース「送魏十六還蘇州」参照。
  • 底本では、これ以下を巻八として独立させている。
  • 詩題 … 『三体詩』『唐詩別裁集』では「送魏十六」に作る。
  • 魏十六 … 魏は姓。十六は排行(一族中の兄弟やいとこなどの年齢による序列)。人物については不詳。『唐人行第録』(中華書局)に「名未詳」とある。
  • 蘇州 … 江蘇省南東部、太湖の東岸にある都市。春秋時代の呉の都。隋・唐代に州が置かれた。『隋書』地理志、呉郡の条に「陳、呉州を置く。陳を平らげ、改めて蘇州と曰う。大(たい)業(ぎょう)の初め、復た呉州と曰う」(陳置吳州。平陳、改曰蘇州。大業初復曰吳州)とある。ウィキソース「隋書/卷31」参照。ウィキペディア【蘇州市】参照。
  • 還 … 帰っていく。
  • 送 … 見送る。
  • この詩は、魏某が蘇州に帰っていくのを見送った時に作ったもの。作者が故郷の潤州丹陽(江蘇省丹陽市)にいた頃の作と思われる。
  • 皇甫冉 … 716?~770?。中唐の詩人。姓は皇甫(二字姓)。潤州丹陽(江蘇省丹陽市)の人。字(あざな)は茂政。天宝十五載(756)、進士に及第。無錫(江蘇省無錫市)の尉に任命され、最後は右補闕に至った。弟は皇甫曾(そう)。『唐皇甫冉詩集』七巻がある。ウィキペディア【皇甫冉】参照。
秋夜沈沈此送君
秋(しゅう)夜(や)沈沈(ちんちん)として此(ここ)に君(きみ)を送(おく)る
  • 秋夜 … 秋の夜。
  • 沈沈 … 夜が静かにふけていくさま。畳韻(二字が同じ母音で終わる)の語。司馬相如「上林の賦」(『文選』巻八)に「沈沈(ちんちん)隠隠(いんいん)として、砰磅(ほうほう)訇磕(こうかい)たり」(沈沈隱隱、砰磅訇磕)とあり、その李善注に「沈沈(ちんちん)は、深(ふか)き貌(さま)なり」(沈沈、深貌也)とある。砰磅と訇磕は、どちらも水が激しく流れるときの大きな音の形容。砰磅は、双声(二字の語頭子音が同じ)の語。ウィキソース「昭明文選/卷8」参照。
  • 沈沈此 … 『全唐詩』では「深深北」に作り、「一作沈沈此」と注する。北は、丹陽を指す。
  • 此送君 … 今ここで君を見送る。
  • 此 … 『四部叢刊本』では「北」に作り、「一作此」と注する。
陰蟲切切不堪聞
陰(いん)虫(ちゅう)切切(せつせつ)として聞(き)くに堪(た)えず
  • 陰虫 … 秋になってから鳴く虫。鈴虫・こおろぎなど。劉宋の顔延之「夏(なつ)の夜(よ)、従(じゅう)兄(けい)なる散(さん)騎(き)車(しゃ)長(ちょう)沙(さ)に呈(てい)す」詩(『文選』巻二十六)に「夜(や)蟬(ぜん)は夏(なつ)に当(あた)りて急(きゅう)にして、陰(いん)虫(ちゅう)は秋(あき)に先(さき)だちて聞(き)こゆ」(夜蟬當夏急、陰蟲先秋聞)とある。ウィキソース「昭明文選/卷26」参照。
  • 蟲 … 『三体詩』では「蛩」に作る。コオロギのこと。
  • 切切 … 虫がしきりに鳴く擬声語で、細く悲しく急迫した音の形容。南朝斉の謝朓「郡内登望」詩(『文選』巻三十)に「切切(せつせつ)として陰風(いんぷう)暮(く)れ、桑柘(そうしゃ)に寒煙(かんえん)起(おこ)る」(切切陰風暮、桑柘起寒煙)とある。桑柘は、山桑。ウィキソース「昭明文選/卷30」参照。
  • 不堪聞 … 聞いていられない。
歸舟明日毘陵道
帰(き)舟(しゅう) 明(みょう)日(にち) 毘(び)陵(りょう)の道(みち)
  • 帰舟 … 蘇州へと帰ってゆく君の舟。
  • 歸 … 『全唐詩』『四部叢刊本』には「一作孤」と注する。
  • 明日毘陵道 … 明日にはもう毘陵の道を通り過ぎることだろう。
  • 日 … 『全唐詩』には「一作月」と注する。『四部叢刊本』では「月」に作り、「一作日」と注する。
  • 毘陵 … 郡名。晋代に置かれた。今の江蘇省常州市武進区。丹陽と蘇州の中間にある町。『読史方輿紀要』江南、常州府に「禹(う)貢(こう)揚(よう)州(しゅう)の域(いき)、春秋(しゅんじゅう)の時(とき)呉地(ごち)、後(のち)越(えつ)に属(ぞく)す。戦国(せんごく)は楚(そ)に属(ぞく)す。秦(しん)、会稽郡(かいけいぐん)の地(ち)と為(な)し、漢(かん)、之(これ)に因(よ)る。……晋(しん)の太康(たいこう)の初(はじ)め、校(こう)尉(い)を省(はぶ)き、呉(ご)郡(ぐん)を分(わか)ちて毘(び)陵(りょう)郡(ぐん)を置(お)く。永(えい)嘉(か)五(ご)年(ねん)、改(あらた)めて晋(しん)陵(りょう)郡(ぐん)と曰(い)う」(禹貢揚州之域、春秋時吳地、後屬越。戰國屬楚。秦爲會稽郡地、漢因之。……晉太康初、省校尉、分吳郡置毘陵郡。永嘉五年、改曰晉陵郡)とある。ウィキソース「讀史方輿紀要/卷二十五」参照。ウィキペディア【武進区】参照。
囘首姑蘇是白雲
首(こうべ)を回(めぐ)らせば姑蘇(こそ)是(こ)れ白雲(はくうん)ならん
  • 回首 … 振り返って眺めれば。
  • 姑蘇是白雲 … 蘇州の空は、白い雲に包まれていることであろう。
  • 姑蘇 … 蘇州を指す。姑蘇山があるからいう。『大明一統志』に「蘇(そ)州(しゅう)府(ふ)……秦(しん)、会稽郡(かいけいぐん)を置(お)く。……晋(しん)・宋(そう)・斉(せい)・梁(りょう)、皆(みな)呉(ご)郡(ぐん)と為(な)す。陳(ちん)、呉(ご)州(しゅう)を置(お)く。隋(ずい)の開皇(かいこう)中(ちゅう)、改(あらた)めて蘇(そ)州(しゅう)と曰(い)う。姑蘇(こそ)山(ざん)に因(よ)りて名(な)と為(な)す」(蘇州府……秦置會稽郡。……晉宋齊梁皆爲吳郡。陳置吳州。隋開皇中、改曰蘇州。因姑蘇山爲名)とある。ウィキソース「明一統志 (四庫全書本)/卷08」参照。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻七(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻二百四十九(排印本、中華書局、1960年)
  • 『増註三体詩』巻一・七言絶句・実接(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)
  • 『唐皇甫冉詩集』巻七(『四部叢刊 三編集部』所収)
  • 『皇甫冉集』巻下(明銅活字本、『唐五十家詩集』所収、上海古籍出版社、1989年)
  • 趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十五(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩品彙』巻四十九([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
  • 『唐詩別裁集』巻二十([清]沈徳潜編、乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『唐百家詩選』巻十([北宋]王安石編、世界書局、1979年)
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