早発始興江口至虚氏村作(宋之問)
早發始興江口至虛氏村作
早に始興の江口を発して虚氏村に至る作
早に始興の江口を発して虚氏村に至る作
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻四、『全唐詩』巻五十三、他
- 五言排律。臺・開・苔・回・來・哉・灰・萊(平声灰韻)。
- ウィキソース「早發始興江口至虛氏村作」参照。
- 早 … 朝早く。
- 始興江 … 川の名。広東省韶関市曲江区を流れ、北江に合流するという。『箋註唐詩選』(『漢文大系』冨山房)に「一統志に曰く、曲江一名は相江。城を抱きて回曲して流るるを以て、故に名づく。又た始興江と名づく」(一統志曰。曲江一名相江。以抱城囘曲而流。故名。又名始興江)とある。
- 江口 … 川のほとり。または、川と川の合流点。
- 虚氏村 … 今の位置は不明。虛氏は、『全唐詩』には「一作靈長」とある。
- 宋之問 … 656?~712。初唐の詩人。字は延清。汾州(山西省汾陽市)の人。一説に虢州弘農県(河南省霊宝市)の人。上元二年(675)、進士に及第。則天武后に召されて楊炯とともに習芸館の学士となる。尚方監丞、左奉宸内供奉などを歴任した。玄宗の先天元年(712)、自殺を命じられて死んだ。沈佺期とともに七言律詩の定型を作り出し、「沈宋」と呼ばれた。『宋之問集』二巻がある。ウィキペディア【宋之問】参照。
候曉踰閩嶂
暁を候って閩嶂を踰え
- 候暁 … 夜明けを待って。候は、待つ。
- 閩 … 福建省の古名。
- 嶂 … 高く険しい峰。『全唐詩』では「嶠」に作り、「一作障」とある。
- 踰 … 越える。
乘春望越臺
春に乗じて越台を望む
- 春 … 春の好季節。
- 越台 … 越王台のこと。漢初の頃、今の広東省広州市の越秀山に南越王の趙佗が築いたといわれる高台。趙佗については、ウィキペディア【趙佗】参照。
宿雲鵬際落
宿雲 鵬際に落ち
- 宿雲 … 夜来の雲。
- 鵬際 … 鵬の飛び行くはるかな空。遠く南海の彼方。『荘子』逍遥遊篇に「鳥有り、其の名を鵬と為す。背は泰山の若く、翼は垂天の雲の若し。扶揺を摶ち羊角して上る者九万里。雲気を絶ち青天を負い、然る後に南を図し、且に南冥に適かんとす」(有鳥焉、其名爲鵬。背若泰山、翼若垂天之雲。摶扶搖羊角而上者九萬里。絕雲氣負靑天、然後圖南、且適南冥也)とある。ウィキソース「莊子/逍遙遊」参照。
- 落 … 沈んでゆく。消え失せる。
殘月蚌中開
残月 蚌中に開く
- 残月 … 明け方の空に消えずに残っている月。有明の月。名残の月。残んの月。
- 蚌 … 大蛤。『史記』亀策伝に「明月の珠は江海に出でて、蚌中に蔵す」(明月之珠出於江海、藏於蚌中)とある。ウィキソース「史記/卷128」参照。
薜荔搖靑氣
薜荔 青気を揺がし
- 薜荔 … つたかずらの類の総称。ウィキペディア(中文)【薜荔】参照。
- 青気 … 山中の緑一色の大気。
桄榔翳碧苔
桄榔 碧苔を翳う
- 桄榔 … 南方に自生するヤシ科の常緑低木。和名くろつぐ。ウィキペディア【クロツグ】参照。
- 碧苔 … 緑の苔の上。
- 翳 … 覆いかぶさる。
桂香多露裛
桂香しくして多露裛し
- 桂香 … 桂の花がよい香りを放つこと。
- 多露 … 露にしとど濡れている様子。
- 裛 … 濡らす。潤す。
石響細泉回
石響いて細泉回る
- 石響 … 谷の石が音を立てるのは。
- 細泉回 … 湧き出た泉が細かく分かれて流れるからである。
抱葉玄猿嘯
葉を抱いて玄猿嘯き
- 抱葉 … 木の葉を抱えて。
- 玄猿嘯 … 黒い猿が鳴き叫ぶ。玄猿は、黒い猿。悲痛な鳴き声を立てるという。司馬相如「長門の賦」(『文選』巻十六)に「玄猨嘯きて長く吟ず」(玄猨嘯而長吟)とある。猨は、猿の異体字。ウィキソース「長門賦」参照。
銜花翡翠來
花を銜んで翡翠来る
- 銜 … 銜える。
- 翡翠 … 翡翠。川や池などの近くに住む小鳥。くちばしが長く、魚を捕らえて食べる。ウィキペディア【カワセミ】参照。
南中雖可悅
南中 悦ぶ可しと雖も
- 南中 … 南方の地方。嶺南地方(今の広東省)のこと。
- 雖可悦 … 私の心を楽しませてくれるが。
北思日悠哉
北思 日に悠なる哉
鬒髮俄成素
鬒髪 俄かに素と成り
丹心已作灰
丹心 已に灰と作る
- 丹心 … 熱情のこもった真心。赤誠。赤心。
- 作灰 … 灰のように冷え切ってしまうこと。『荘子』斉物論篇に「形は固より槁木の如くならしむ可く、心は固より死灰の如くならしむ可きか」(形固可使如槁木、心固可使如死灰乎)とある。ウィキソース「莊子/齊物論」参照。槁木は、枯れた木。死灰は、冷えた灰。
何當首歸路
何か当に帰路に首かって
- 何当 … 「いつかまさに~すべし」と読み、「いつ~するであろうか」「~するのはいつのことであろうか」と訳す。
- 首帰路 … 故郷への帰路に向かって。首は、向かう。
行剪故園萊
行くゆく故園の萊を剪るべき
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