同餞楊将軍兼原州都督御史中丞(蘇頲)
同餞楊將軍兼原州都督御史中丞
楊将軍が原州都督・御史中丞を兼ねしを餞するに同ず
楊将軍が原州都督・御史中丞を兼ねしを餞するに同ず
- 五言排律。沙・牙・家・華・笳・邪・花(平声麻韻)。
- 『全唐詩』巻74所収。ウィキソース「同餞陽將軍兼源州都督御史中丞」参照。
- 楊将軍 … 人物については不明。『全唐詩』では「陽」に作る。
- 原州 … 今の寧夏回族自治区固原市原州区。ウィキペディア【原州区】参照。『全唐詩』では「源」に作る。
- 都督 … 州の軍事を統轄する官職。ウィキペディア【都督】参照。
- 御史中丞 … 御史台の次官。定員は二名。御史台は、百官の非違を糾弾する役所。ウィキペディア【御史中丞】参照。
- 兼 … 兼任する。ここでは楊将軍が原州都督と御史中丞を兼任すること。
- 同餞 … 誰かが餞の詩を作ったのに対し、作者が唱和したもの。
- 蘇頲 … 670~727。初唐の詩人。雍州武功(陝西省武功県)の人。字は廷碩。監察御史などの官職を歴任後、開元四年(716)に宰相となった。ウィキペディア【蘇テイ】参照。
右地接龜沙
右地 亀沙に接し
- 右地 … 右方の地。匈奴のいた西部の地。ここでは原州地方を指す。
- 亀沙 … 亀茲や流沙。亀茲は、今の新疆ウイグル自治区アクス地区クチャ県付近にあったオアシス都市。ウィキペディア【亀茲】参照。流沙は、砂漠地帯のこと。
中朝任虎牙
中朝 虎牙に任ず
- 中朝 … 中国の朝廷。
- 虎牙 … 漢代の将軍の称号の一つ。虎の牙のように鋭く強い意から。
然明方改俗
然明は方に俗を改め
- 然明 … 後漢の張奐(103~181)の字。敦煌淵泉の人。ウィキペディア【張奐】参照。
- 改俗 … 風俗を改めさせる。張奐が武威の太守となったとき、その地方では迷信が多く、二月と五月に生まれた子や、父母と同じ月に生まれた子は尽く殺すという風習があった。張奐はこれを正し、彼らの悪習を改めさせたという故事に基づく。『後漢書』張奐伝に「其の俗妖忌多く、凡そ二月五月子を産む。及び父母と同月に生まるる者は、悉く之を殺す。奐示すに義方を以てし、厳に賞罰を加う。風俗遂に改まり、百姓生きながら為に祠を立つ」(其俗多妖忌、凡二月五月產子。及與父母同月生者、悉殺之。奐示以義方、嚴加賞罰。風俗遂改、百姓生爲立祠)とある。ウィキソース「後漢書/卷65」参照。
去病不爲家
去病は家を為めず
- 去病 … 前漢の武帝のときの将軍、霍去病。前140~前117。平陽(現在の山西省南西部)の人。衛皇后および将軍衛青の甥。匈奴を討伐して大功をたて、驃騎将軍(前漢以降の官名)となったが若くして病死した。ウィキペディア【霍去病】参照。
- 不為家 … 自分の家のことは顧みない。武帝が霍去病の功に報いるため、邸宅を作ってやろうとしたが、「匈奴がいまだ滅んでいないのに、家を作るなどとんでもないことです」といって断ったという故事に基づく。『史記』霍去病伝(衛将軍驃騎列伝)に「天子為に第を治め、驃騎をして之を視しむ。対えて曰く、匈奴未だ滅びず。家を以て為す無きなり。此に由りて上益〻之を重愛す」(天子爲治第、令驃騎視之。對曰、匈奴未滅。無以家爲也。由此上益重愛之)とある。ウィキソース「史記/卷111」参照。
將禮登壇盛
将礼 壇に登りて盛んに
- 将礼 … 将軍を任命する礼。
- 登壇 … 将軍を任命するとき、任命される人を壇上に立たせて天子が鄭重に宣告すること。漢の高祖が韓信を大将軍に任命するとき、蕭何の勧告に従い、吉日を選んで斎戒し、壇場を設けて鄭重な任命式を行ったという故事に基づく。『史記』淮陰侯列伝に「王、信を召し之を拝せんと欲す。何曰く、王、素より慢にして礼無し。今、大将を拝するに、小児を呼ぶが如きのみ、此れ乃ち信の去る所以なり。王必ず之を拝せんと欲せば、良日を択び、斎戒し、壇場を設け、礼を具えて乃ち可なるのみ、と。王、之を許す」(王欲召信拜之。何曰、王素慢無禮。今拜大將、如呼小兒耳、此乃信所以去也。王必欲拜之、擇良日、齋戒、設壇場、具禮乃可耳。王許之)とある。ウィキソース「史記/卷092」参照。
軍容出塞華
軍容 塞を出でて華やかなり
- 軍容 … 軍隊の威容。
- 出塞華 … 辺境の塞を出ていく様子が華やかである。
朔風搖漢鼓
朔風 漢鼓を揺がし
邊月思胡笳
辺月 胡笳を思う
- 辺月 … 辺境の地を照らす月。
- 月 … 『全唐詩』では「馬」に作る。
- 胡笳 … 北方民族の胡人が吹く葦の葉の笛。物悲しい音色を出す。『文献通考』に「胡笳は觱篥に似て孔無く、後世鹵部に之を用う」(胡笳似觱篥而無孔、後世鹵部用之)とある。觱篥は、管楽器の一つ。竹製の縦笛で前面に七つ、裏面に二つの指孔がある。音色は鋭く、哀調を帯びる。ウィキペディア【篳篥】参照。鹵部は、大駕(天子の乗り物)の儀仗。鹵簿(天子の行列)。ウィキソース「文獻通考 (四庫全書本)/卷138」参照。
旗合無邀正
旗合して正を邀うる無く
- 旗合 … 旗指物が一つに揃う。整然たる隊伍に喩える。
- 無邀正 … 正々堂々と進む軍隊を迎え撃つ敵はない。邀は、迎えること。『孫子』軍争篇に「正々の旗を邀うること無かれ、堂々の陣を撃つこと勿かれ」(無邀正正之旗、勿擊堂堂之陳)とあるのに基づく。
- 正 … 『全唐詩』には「一作整」とある。
冠危有觸邪
冠危くして邪に触るる有り
- 冠危 … 御史中丞の冠を高く峙たせる。冠は、御史中丞の獬豸冠のこと。獬豸は、鹿や羊に似て一本の角があり、善悪を見分けるという神獣の名。危は、高く峙つこと。
- 触邪 … 邪悪な者に向かって、容赦なく彼らを打ち倒すであろう。御史中丞としての任務を立派に果たすであろうことを述べている。
當看勞旋日
当に看るべし 労旋の日
- 当看 … 見ていただきたい。見ていたまえ。
- 労旋日 … 軍隊が凱旋したとき、天子がその労をねぎらうための御宴が開かれる日。『詩経』小雅・出車の詩の小序に「出車は、還率を労するなり」(出車、勞還率也)とあるのに基づく。還率は、凱旋の将軍。還率とも。ウィキソース「詩經/出車」参照。
- 労 … 『全唐詩』には「一作榮」とある。
- 旋 … 『全唐詩』では「還」に作る。
及此御溝花
此の御溝の花に及ばんことを
- 此 … 明春のこの時節。
- 御溝花 … 長安の宮城をめぐって流れる堀川べりに咲きみだれる花。
- 及 … ちょうど間に合うことであろうよ。
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