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和姚給事寓直之作(宋之問)

和姚給事寓直之作
姚(よう)給(きゅう)事(じ)が寓(ぐう)直(ちょく)の作(さく)に和(わ)す
宋(そう)之(し)問(もん)
  • 五言排律。陽・郎・行・霜・芳・長・昌・揚・章(下平声陽韻)。
  • ウィキソース「和姚給事寓直之作」参照。
  • 姚 … 姓。人物については不詳。
  • 給事 … 官名。給事中。門下省に属し、詔勅を検討する役。ウィキペディア【給事中】参照。『漢書』百官公卿表、奉軍都尉の条に「給事中も亦た加官なり。加うる所は或いは大夫・博士・議郎、顧問応対を掌り、位は中常侍に次ぐ」(給事中亦加官。所加或大夫博士議郎、掌顧問應對、位次中常侍)とある。ウィキソース「漢書/卷019」参照。
  • 寓直 … 本来は自分の勤務する官庁以外の役所に宿直することであるが、ここでは単に宿直の意に使っているのかもしれず、はっきりわからない。
  • 和 … ここでは姚が詩を作って贈ってきたのに対し、作者が唱和したもの。
  • 宋之問 … 656?~712。初唐の詩人。字(あざな)は延清。汾(ふん)州(山西省汾陽市)の人。一説に虢(かく)州弘農県(河南省霊宝市)の人。上元二年(675)、進士に及第。則天武后に召されて楊炯(ようけい)とともに習芸館の学士となる。尚(しょう)方(ほう)監(かん)丞(じょう)、左(さ)奉(ほう)宸内(しんない)供奉(ぐぶ)などを歴任した。玄宗の先天元年(712)、自殺を命じられて死んだ。沈佺期とともに七言律詩の定型を作り出し、「沈宋」と呼ばれた。『宋之問集』二巻がある。ウィキペディア【宋之問】参照。
清論滿朝陽
清論(せいろん) 朝(ちょう)陽(よう)に満(み)ち
  • 清論 … 彼を賞賛する朝廷内の清雅な議論。また、姚給事自身の清雅な発言と解釈する説もある。
  • 朝陽 … 本来は山の東側の日の当たる場所をいうが、ここでは、朝廷を指す。『詩経』大雅・巻(けん)阿(あ)に「鳳皇(ほうおう)鳴(な)けり、彼(か)の高岡(こうこう)に。梧(ご)桐(とう)生(しょう)ぜり、彼の朝(ちょう)陽(よう)に」(鳳皇鳴矣、于彼高岡。梧桐生矣、于彼朝陽)とあり、その鄭箋に「梧桐生ずるは、猶お名君出ずるがごときなり。朝陽に生ずは、温仁の気を被る」(梧桐生者、猶名君出也。生於朝陽者、被温仁之氣)とある。ウィキソース「詩經/卷阿」「毛詩正義/卷十七」参照。
高才拜夕郎
高才(こうさい) 夕郎(せきろう)を拝(はい)す
  • 高才 … 優れた才能。また、優れた才能を持っている人。ここでは姚を指す。
  • 夕郎 … 漢代、給事中の前身である給事黄門侍郎は、毎夕、宮中で青(せい)瑣(さ)門(もん)に対して拝礼したことから、夕郎または夕拝と呼ばれた。
  • 拝 … 拝命される。任命される。
還從避馬路
還(ま)た馬(うま)を避(さ)くるの路(みち)より
  • 避馬路 … 昔の人が馬を避けたという御史台の道。御史台は検察官のこと。桓典(かんてん)が侍御史に任じられたとき、その厳正さに権力を握っていた宦官たちは畏れをなした。桓典はいつも驄(そう)馬(ば)(黒毛と白毛のまざった馬)に乗っていたので、京師の人々は「行き行きて且(か)つ止(とど)まれ、驄(そう)馬(ば)御史を避けよ」と言い合ったという、『後漢書』桓典伝に見える故事を踏まえる。ウィキソース「後漢書/卷37」(玄孫典)参照。
  • 従 … 「より」と読み、「~から」と訳す。自に同じ。
來接珥貂行
来(きた)りて貂(てん)を珥(さしはさ)む行(こう)に接(せっ)す
  • 珥貂行 … 貂(てん)の尾を冠に挿す門下省の一員に加わること。珥(じ)貂(ちょう)は、冠を貂(てん)の尾で飾ること。漢代では侍中・中常侍などの高官がこの飾りをつける決まりであったが、唐代では門下省の長官である侍中もつけたという。行は、隊列。仲間。
寵就黃扉日
寵(ちょう)は就(つ)く 黄(こう)扉(ひ)の日(ひ)
  • 寵 … 帝の寵愛。帝の恩寵。
  • 就 … 成就する。完成する。
  • 黄扉 … 黄門。黄閣。唐代では門下省を指す。
威廻白簡霜
威(い)は廻(めぐ)る 白簡(はくかん)の霜(しも)
  • 威 … 君(姚)の威厳。君の威勢。
  • 廻 … 朝廷に行き渡る。
  • 白簡霜 … 白簡は、御史が官吏の不正を弾劾するための上奏文を書き記すのに用いた白い木札。霜は、弾劾の厳しさの喩え。『晋書』傅(ふ)玄(げん)伝に「奏劾(そうがい)有る毎(ごと)に、或いは日暮れに値(あ)えば、白簡を捧げて、簪帯(しんたい)を整え、竦(しょう)踊(よう)し寐(い)ねず、坐して旦を待つ」(每有奏劾、或值日暮、捧白簡、整簪帶、竦踴不寐、坐而待旦)とある。簪帯は、冠をとめるための簪(かんざし)と帯。竦踊は、身体をそびやかして踊り歩くこと。ウィキソース「晉書/卷047」参照。また、底本に「南史に曰く、沈約(しんやく)、中丞(ちゅうじょう)と為る。弾文(だんぶん)皆な白簡(はくかん)を奉じて以て聞す」(南史曰、沈約爲中丞。彈文皆奉白簡以聞)とあるが、『南史』の現行本にこの文章は見当たらない。
柏臺遷鳥茂
柏台(はくだい) 鳥(とり)を遷(うつ)して茂(しげ)り
  • 柏台遷鳥茂 … 御史台の柏並木は君という鳥が移ってきて、いよいよ茂った。柏台は、御史台のこと。御史台には柏並木があったのでこう呼ぶ。鳥は姚、茂は、彼が御史に任命されて業績を上げたことに喩える。柏並木に数千羽の烏が巣くって、朝飛び立って夕方には帰ってきたので「朝夕烏」と呼んだという、『漢書』朱博(しゅはく)伝に見える故事に基づく。ウィキソース「漢書/卷083」参照。
蘭署得人芳
蘭署(らんしょ) 人(ひと)を得(え)て芳(かんば)し
  • 蘭署 … 秘書省のこと。宮中の文書・記録を扱う役所。蘭台ともいう。
  • 得人芳 … 君という人材を得て、蘭の花のように芳(かぐわ)しく香っている。
禁靜鐘初徹
禁(きん)は静(しず)かにして鐘(かね)初(はじ)めて徹(とお)り
  • 禁静 … 禁中は静まりかえって。禁は、禁中。禁裏。宮中。
  • 鐘初徹 … 時を告げる鐘の音がよく響き渡るようになる。
更疎漏更長
更(こう)は疎(そ)にして漏(ろう)更(さら)に長(なが)し
  • 更 … 日没から夜明けまでの時間を五等分した単位の名。初更・二更・三更・四更・五更。
  • 疎 … 更と更との間隔が間遠く感じられること。
  • 漏 … 漏刻。水時計。
  • 更長 … (水時計の音も)一段と長く聞こえてくる。『全唐詩』では「漸(ようや)く長(なが)し」(漸長)に作る。こちらは「次第に長く聞こえてくる」と訳す。
曉河低武庫
暁(ぎょう)河(か) 武庫(ぶこ)に低(た)れ
  • 暁河 … 明け方の天の川。曙(しょ)河(か)。
  • 武庫 …星の名。二十八宿の一つ、西方奎(けい)十六星の別名。『晋書』天文志上、二十八舎の条に「西方の奎十六星は、天の武庫なり」(西方奎十六星、天之武庫也)とある。ウィキソース「晉書/卷011」参照。また、宮中の武器を納める倉庫のこと。ここでは、その両方にかけている。
  • 低 … 低く垂れかかる。
流火度文昌
流(りゅう)火(か) 文(ぶん)昌(しょう)を度(わた)る
  • 流火 … さそり座のアンタレス星のこと。「火」「大火」「心星」ともいう。この星は陰暦七月の黄昏時、西の空に流れるように次第に低くなっていく。『詩経』豳風(ひんぷう)・七月に「七月流火、九月衣を授く」(七月流火、九月授衣)とある。ウィキソース「詩經/七月」参照。
  • 文昌 … 宮殿の名。また、星座の名。文昌星。北斗七星の柄杓の先にある大熊座に属する六つの星。ここではその両方にかけている。
  • 度 … 渡る。
寓直光輝重
寓(ぐう)直(ちょく) 光(こう)輝(き)重(おも)く
  • 寓直 … 本来は自分の勤務する官庁以外の役所に宿直することであるが、ここでは単に宿直の意に使っているのかもしれず、はっきりわからない。
  • 光輝 … 光栄。名誉。栄光。『全唐詩』では「恩(おん)徽(き)」に作り、「一作光輝」と注する。恩徽は、天子の恩寵。
乘秋藻翰揚
秋(あき)に乗(じょう)じて藻翰(そうかん)揚(あ)がる
  • 乗秋 … 秋の季節に乗じて。
  • 藻翰 … 華やかで美しい文章。ここでは姚が寓直して作った詩を指す。
  • 揚 … 空高く舞い上がる。
暗投空欲報
暗投(あんとう) 空(むな)しく報(ほう)ぜんと欲(ほっ)するも
  • 暗投 … 夜光の玉も暗闇の中で人の前に投げれば、人は驚いて警戒する。貴重なものも然るべき相手に示さなければ、何の役にも立たないという喩え。漢の鄒陽(すうよう)が梁の孝王に送った手紙「獄中上梁王書」に「明月の珠(たま)、夜光の璧(たま)も、暗を以て人に道に投ずれば、衆は剣を按(あん)じて相(あい)眄(にら)まざる者莫し。何(なん)となれば則ち因(いん)無くして前に至ればなり」(明月之珠、夜光之璧、以暗投人於道、衆莫不按劍相眄。何則無因而至前也)とある。ウィキソース「獄中上梁王書」参照。ここでは、作者が自分は詩を贈られるに値する者ではないと、謙遜していったもの。なお、何則は、「何(なん)となれば則(すなわ)ち~ばなり」と読み、「なぜならば~だからだ」と訳す。
  • 空欲報 … お返しの詩を作りたいと思うが、どうにも無駄である。
下調不成章
下(か)調(ちょう) 章(しょう)を成(な)さず
  • 下調 … つまらぬ格調の詩。自分の詩を卑下していったもの。
  • 不成章 … 詩があまりにも下手で、文章の体(たい)を成していない。章は、ここでは詩の節・連。『列子』湯問篇に「匏巴(こは)、琴(こと)を鼓(こ)せば、鳥(とり)舞(ま)い魚(うお)躍(おど)る。鄭(てい)の師(し)文(ぶん)之(これ)を聞(き)き、家(いえ)を棄(す)てて師(し)襄(じょう)に従(したが)って游(あそ)ぶ。指(ゆび)を柱(ささ)え弦(げん)を鈞(ととの)うること三年(さんねん)、章(しょう)を成(な)さず」(匏巴鼓琴、而鳥舞魚躍。鄭師文聞之、棄家從師襄游。柱指鈞弦三年、不成章)とある。ウィキソース「列子/湯問篇」(匏巴鼓琴)参照。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻四(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻五十三(排印本、中華書局、1960年)
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