奉和幸長安故城未央宮応制(宋之問)
奉和幸長安故城未央宮應制
「長安故城の未央宮に幸す」に和し奉る 応制
「長安故城の未央宮に幸す」に和し奉る 応制
- 五言排律。宮・空・公・中・風・通(平声東韻)。
- 『全唐詩』巻53所収。ウィキソース「奉和幸長安故城未央宮應制 (宋之問)」参照。
- 長安故城 … 漢の長安城。唐の長安城の北西10キロの地にあった。主に長楽宮・未央宮・建章宮の三宮からなっていた。
- 未央宮 … 漢の高祖の九年(前198)、丞相の蕭何によって建てられた宮殿。ウィキペディア【未央宮】参照。
- 幸 … 「幸す」とも読む。天子が出かけることをいう敬語。行幸。
- 奉和 … 唱和して作ること。
- 応制 … 天子の命令によって作られた詩文。
- 景龍二年(708)十二月三十日、中宗皇帝は長安故城へ行幸し、詩を作られた。この詩は、作者が勅命によって中宗皇帝の御製に和して詠じたもの。中宗については、ウィキペディア【中宗 (唐)】参照。
- 宋之問 … 656?~712。初唐の詩人。字は延清。汾州(山西省汾陽市)の人。一説に虢州弘農県(河南省霊宝市)の人。上元二年(675)、進士に及第。則天武后に召されて楊炯とともに習芸館の学士となる。尚方監丞、左奉宸内供奉などを歴任した。玄宗の先天元年(712)、自殺を命じられて死んだ。沈佺期とともに七言律詩の定型を作り出し、「沈宋」と呼ばれた。『宋之問集』二巻がある。ウィキペディア【宋之問】参照。
漢王未息戰
漢王 未だ戦いを息めざるに
- 漢王 … 前漢の初代皇帝、劉邦を指す。前247~前195。在位は前206~前195。字は季。廟号は高祖。沛(江蘇省)の人。項羽らとともに秦を滅ぼした。のちに項羽を破り、帝位について漢王朝をたて、長安を都とした。沛公とも。ウィキペディア【劉邦】参照。
- 未息戦 … まだ戦いをやめていない時に。まだ戦い続けている時に。
蕭相乃營宮
蕭相 乃ち宮を営む
- 蕭相 … 前漢の丞相、蕭何(?~前193)のこと。沛(江蘇省)の人。高祖の功臣。張良・韓信と並んで漢の三傑の一人。ウィキペディア【蕭何】参照。
- 乃 … 「すなわち」と読み、「それなのに」と訳す。前節の結果を受けて、それとは逆の行為が後節に起こる意を示す。
- 営宮 … 蕭何が未央宮を造営したこと。当時、漢の高祖が天下を統一したばかりで、各地でまだ反乱が勃発していた。蕭何が造営した未央宮があまりに豪勢だったので高祖がびっくりして怒った。蕭何は「天下が安定していないからこそ、宮殿を造営する必要があるのです。天子は四海をもって家となすものですから、壮麗でなければ天子の威光を重くすることができません」と言った。これを聞いて高祖は納得し、喜んだという。『史記』高祖本紀に「蕭丞相、未央宮を営作す。東闕・北闕・前殿・武庫・太倉を立つ。高祖還り、宮闕の壮んなること甚だしきを見、怒りて蕭何に謂いて曰く、天下匈匈として、戦いに苦しむこと数歳、成敗未だ知る可からず。是れ何ぞ宮室を治むること度に過ぎたるや、と。蕭何曰く、天下方に未だ定まらず。故に因りて遂に宮室を就す可し。且つ夫れ天子は四海を以て家と為す。壮麗に非ざれば、以て威を重くする無し。且つ後世をして以て加うる有らしむる無からん、と。高祖乃ち説ぶ」(蕭丞相營作未央宮。立東闕、北闕、前殿、武庫、太倉。高祖還、見宮闕壯甚、怒謂蕭何曰、天下匈匈苦戰數歲、成敗未可知。是何治宮室過度也。蕭何曰、天下方未定。故可因遂就宮室。且夫天子以四海爲家。非壯麗、無以重威。且無令後世有以加也。高祖乃說)とあるのに基づく。ウィキソース「史記/卷008」参照。
壯麗一朝盡
壮麗 一朝に尽き
- 壮麗 … 大きく立派で美しいこと。
- 一朝 … たちまちに。わずかの間。
- 尽 … 亡んで跡形もない。
威靈千載空
威霊 千載に空し
- 威霊 … 高祖の威力ある神霊。威光のある神霊。
- 千載 … 千年。
皇明悵前跡
皇明 前跡を悵み
- 皇明 … 天子のすぐれた徳。ここでは中宗を指す。
- 前跡 … 前代の遺跡。
- 悵 … いたむ。悲しみを感じる。
置酒宴羣公
置酒して群公を宴す
- 置酒 … 酒席を設けること。
- 宴群公 … 群臣に酒を賜る。
寒輕綵仗外
寒さは軽し 綵仗の外
- 寒軽 … 寒気も薄らいでいる。
- 綵仗 … 五色の絹で飾った儀仗兵。
- 外 … 儀仗兵が守っている外。
春發幔城中
春は発す 幔城の中
- 春発 … 春の気がわき立っている。
- 幔城 … 幔幕を城壁のように張って作った仮の御座所。
樂思廻斜日
楽思 斜日を廻らし
- 楽思 … 楽しい思い。
- 廻斜日 … 傾く太陽を引き返させる。
- 廻 … 『全唐詩』では「回」に作る。
歌詞繼大風
歌詞 大風を継ぐ
- 歌詞 … 天子の御製。
- 継大風 … 高祖の「大風の歌」を継ぐほどの傑作である。
今朝天子貴
今朝 天子の貴きこと
- 今朝 … ここでは今日の意。
- 天子貴 … わが天子の貴さは。
不假叔孫通
叔孫通を仮らず
- 不仮叔孫通 … 叔孫通の手を借りるまでもない。
- 叔孫通 … 前漢の学者。生没年不詳。薛(山東省滕県)の人。姓は叔孫。名は通。高祖に仕えて奉常(儀礼を司る長官)となり、のち太子太傅となった。ウィキペディア【叔孫通】参照。
- 不仮 … 手を借りるまでもない。漢初の朝廷では礼儀も何もなく、宮中の宴席は無礼講のようであった。学者の叔孫通が儒学に基づいて儀礼を定め、それからの宴席は整然たるものになった。高祖は「私は今日皇帝という身分の貴さを実感した」と言ったという。『史記』叔孫通伝に「群臣は酒を飲み功を争い、酔いて或いは妄りに呼び、剣を抜き柱を撃つ。高帝之を患う。……漢の七年、長楽宮成り、諸侯群臣皆朝す。……朝を竟え酒を罷め、敢えて讙譁して礼を失する者無し。是に於いて高帝曰く、吾迺ち今日皇帝たるの貴きを知るなり、と」(群臣飲酒爭功、醉或妄呼、拔劍擊柱。高帝患之。……漢七年、長樂宮成、諸侯羣臣皆朝。……竟朝罷酒、無敢讙譁失禮者。於是高帝曰、吾迺今日知爲皇帝之貴也)とあるのに基づく。ウィキソース「史記/卷099」参照。ここではこの昔の故事を引き合いに出し、わが天子の尊厳さを褒め称えている。
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