贈蘇味道(杜審言)
贈蘇味道
蘇味道に贈る
蘇味道に贈る
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻四、『全唐詩』巻六十二、『杜審言集』巻下(『前唐十二家詩』所収)、『杜審言集』巻下(『唐五十家詩集』所収)、『文苑英華』巻二百四十九、『唐詩品彙』巻七十二、『唐詩別裁集』巻十七、他
- 五言排律。歸・衣・稀・圍・肥・飛・畿・輝(平声微韻)。
- ウィキソース「贈蘇味道」参照。
- 蘇味道 … 648?~705?。初唐の詩人。趙州欒城(河北省)の人。20歳で進士に及第。突厥征討に書記として参加した。則天武后の朝に宰相となった。李嶠とともに「蘇李」といわれた。また、李嶠・崔融・杜審言とともに「文章四友」と呼ばれる。ウィキペディア【蘇味道】参照。
- 高宗の調露元年(679)、突厥征討の軍を出したとき、総大将の裴行倹(619~682)が蘇味道を招き書記として従軍させた。この詩は、友人である作者が、従軍中の蘇味道に詩を贈って、その労をねぎらい、凱旋の日を期待していることを詠ったもの。
- 杜審言 … 645?~708。初唐の詩人。襄陽(湖北省)の人。字は必簡。杜甫の祖父。咸亨元年(670)、進士に及第。李嶠、崔融、蘇味道とともに「文章四友」と呼ばれる。ウィキペディア【杜審言】参照。
北地寒應苦
北地 寒 応に苦しかるべし
- 北地 … 北の地。蘇味道がいる所。
- 寒 … 寒さ。
- 応 … 「まさに~すべし」と読み、「きっと~であろう」と訳す。再読文字。強い推量の意を示す。
- 苦 … 程度が激しくてひどい様子。
南城戍不歸
南城 戍りて帰らず
- 南城 … 漢の軍営。胡軍の南にあるので、胡軍に対し南城という。
- 城 … 『全唐詩』『前唐十二家詩本』『唐五十家詩集本』『文苑英華』『唐詩別裁集』では「庭」に作る。「南庭」は、南の匈奴の根拠地の意。
- 戍 … 辺地を守ること。または「戍」と読み、守備隊と訳す。
- 不 … 『全唐詩』『文苑英華』では「未」に作る。
邊聲亂羌笛
辺声 羌笛を乱し
- 辺声 … 辺地の歌声。
- 羌笛 … 羌族の吹く笛のこと。羌族は、チベット系異民族。馬融の「長笛の賦」(『文選』巻十八)に「近世の双笛は羌より起る。羌人竹を伐りて未だ已わるに及ばざるに、竜水中に鳴きて己を見さず。竹を截りて之を吹くに声相似たり。其の上孔を剡りて之を通洞し、裁りて以て簻に当て便にして持ち易し。易の京君明音律を識り、故に本四孔にして加うるに一を以てす。君明の加うる所の孔後に出で、是を商声と謂い、五音畢わる」(近世雙笛從羌起。羌人伐竹未及已、龍鳴水中不見己。截竹吹之聲相似。剡其上孔通洞之、裁以當簻便易持。易京君明識音律、故本四孔加以一。君明所加孔後出、是謂商聲、五音畢)とある。ウィキソース「長笛賦」参照。
- 乱 … 乱して響く。入り乱れて聞こえる。
朔氣捲戎衣
朔気 戎衣を捲く
- 朔気 … 北方からの冷たい風。北風。
- 戎衣 … 軍服。
- 捲 … 吹きつけて、捲き上げる。『全唐詩』『前唐十二家詩本』『唐五十家詩集本』『文苑英華』では「巻」に作る。
雨雪關山暗
雨雪 関山暗く
- 雨雪 … 降りしきる雨と雪。
- 関山 … 関所のある山。
風霜草木稀
風霜 草木稀なり
- 風霜 … 風と霜に痛めつけられる。
- 稀 … まばら。
胡兵戰欲盡
胡兵 戦いて尽きんと欲し
- 胡兵 … 敵兵。北方のえびすの国の兵士。西突厥の兵士。
- 欲 … 「~(んと)ほっす」と読み、「今にも~しようとする」「今にも~になりそうだ」と訳す。
漢卒尚重圍
漢卒 尚お囲みを重ぬ
- 漢卒 … 漢の軍隊。「卒」は歩兵。
- 重囲 … 何重にも包囲している。
雲淨妖星落
雲浄くして妖星落ち
- 雲浄 … 雲が清く晴れわたって。
- 浄 … 『文苑英華』では「静」に作る。
- 妖星 … 不吉なことの起こる前兆として現れる星。
- 落 … 姿を隠す。
秋高塞馬肥
秋高くして塞馬肥ゆ
- 秋高 … 秋の空気が澄みわたって、空が高く見えること。
- 高 … 『前唐十二家詩本』『唐五十家詩集本』『文苑英華』では「深」に作る。
- 塞馬 … 辺地の馬。国境地帯の馬。北辺の馬。胡馬。
- 秋高塞馬肥 … 故事名言「秋高く馬肥ゆ」も参照。
據鞍雄劍動
鞍に拠れば雄剣動き
- 拠鞍 … 君が鞍に跨るとき。鞍に跨って身構えれば。
- 雄剣 … すぐれた剣。名剣。
- 動 … 振り下ろされる。
搖筆羽書飛
筆を揺がせば羽書飛ぶ
- 揺筆 … 筆を揮う。筆を走らせる。
- 搖 … 『全唐詩』では「插」に作り、「一作搖」とある。『前唐十二家詩本』『文苑英華』では「挿」に作る。『唐五十家詩集本』では「插」に作る。「插」は「挿」の旧字。
- 羽書 … 急を告げる意味で、鳥の羽をはさんである檄文。羽檄。
- 飛 … 飛ぶように伝達される。
輿駕還京邑
輿駕 京邑に還り
- 輿駕 … 天子の乗り物。
- 京邑 … 都。
- 京 … 『唐五十家詩集本』では「亰」に作る。異体字。
- 還 … 行幸先から帰られる。還御。還幸。
朋遊滿帝畿
朋遊 帝畿に満つ
- 朋遊 … (天子に随行した君の)友だち。朋友。
- 帝畿 … 帝都とその周辺の地。
方期來獻凱
方に期す 来りて凱を献じ
- 方 … 今こそ。今まさに。
- 期 … 期待する。
- 來 … 『文苑英華』では「乘」に作り、「集作來」とある。
- 献凱 … 凱旋して戦利品や捕虜を宗廟に献上する。凱旋して戦勝報告をすること。
歌舞共春輝
歌舞 春輝を共にせんことを
- 歌舞 … 歌い舞うこと。歌舞して戦勝の祝宴を催すこと。
- 春輝 … 春の太陽の光。
- 輝 … 『唐詩品彙』『唐詩別裁集』では「暉」に作る。同義。
- 共 … いっしょに楽しむ。いっしょに満喫する。
余説
- 突厥征討の年代について、森槐南『唐詩選評釋』(文會堂書店、大正七年)は中宗の神龍二年(706)のこととし、張仁愿(?~714)を総大将として従軍したとある。同じく、簡野道明『唐詩選詳説』(明治書院、昭和四年)も「嘗て張仁愿に從つて朔方に參軍となつてゐた時」と記述している。年代が合わず、どちらも誤り。『新唐書』蘇味道伝によると、「吏部侍郎裴行倹、之を才とす。会〻突厥を征するに、引いて書記を管せしむ」(吏部侍郎裴行儉、才之。會征突厥、引管書記)とある。ウィキソース「新唐書/卷114」参照。『旧唐書』巻九十四、蘇味道伝にも同様の記述がある。また、『旧唐書』高宗紀に「調露元年。……九月壬午、吏部侍郎裴行倹、西突厥を討ち、其の十姓可汗阿史那都支、及び別帥李遮匐を擒え、以て帰る」(調露元年。……九月壬午、吏部侍郎裴行儉討西突厥、擒其十姓可汗阿史那都支及別帥李遮匐以歸)とある。ウィキソース「舊唐書/卷5」参照。
- 漢卒尚重圍、雲淨妖星落、秋高塞馬肥 … 『全唐詩』では「虜騎獵猶肥、雁塞何時入、龍城幾度圍」に作り、「一作漢卒尚重圍、雲淨妖星落、秋深塞馬肥」とある。
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