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戯贈趙使君美人(杜審言)

戲贈趙使君美人
たわむれにちょう使くんじんおく
審言しんげん
  • 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻六十二、『杜審言集』巻下(『前唐十二家詩』所収)、『杜審言集』巻下(『唐五十家詩集』所収)、『文苑英華』巻二百十三、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十一(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、他
  • 七言絶句。雲・裙・君(平声文韻)。
  • ウィキソース「戲贈趙使君美人」参照。
  • 趙使君 … 趙は姓。使君は刺史(州の長官)に対する敬称。また、太守(郡の長官)に対する敬称は府君という。趙使君の人物については不明。
  • 美人 … 他人の愛妾を呼ぶときに用いる。『文苑英華』では「羙人」に作る。羙は、こひつじの俗字で、美とは別字。
  • 贈 … 詩を直接手渡すこと。「寄」は、詩を人に託して送り届けること。
  • この詩は、刺史の趙使君の愛妾に贈ったもの。全体は、漢代の楽府「はくじょうそう」(『王台新詠』では「日は東南の隅に出ずるの行」)を踏まえて作られている。羅敷らふという美しい女性が城の南隅で桑を摘んでいると、使君が通りかかって羅敷を見初め、自分の屋敷に誘った。羅敷は、私には夫があって、東方千余騎の軍隊の先頭で活躍している、と誇らしげに言い、誘いを拒否したという。ウィキソース「日出東南隅行 (豔歌羅敷行)」参照。ここでは、使君に趙使君を、羅敷に趙使君の愛妾をかけている。
  • 杜審言 … 645?~708。初唐の詩人。じょうよう(湖北省)の人。あざなは必簡。杜甫の祖父。咸亨元年(670)、進士に及第。李嶠、崔融、蘇味道とともに「文章四友」と呼ばれる。ウィキペディア【杜審言】参照。
紅粉靑娥映楚雲
紅粉こうふんせい うんえい
  • 紅粉 … べに白粉おしろい
  • 青娥 … まゆずみで描いた美しいまゆ。青は、黛の青黒色。一説に、若い美人に解する。
  • 娥 … 『唐詩選』『唐五十家詩集本』『万首唐人絶句』では「蛾」に作る。
  • 楚雲 … 楚の国の雲。そうぎょくの「高唐の賦」(『文選』巻十九)に見える故事を踏まえる。楚の襄王が宋玉と雲夢うんぼうの離宮に遊び、高唐の楼観を眺めた。楼観の上にだけ雲が湧き起こっており、襄王は宋玉に「あれはどういう気であるか」と尋ね、宋玉は説明して、「これがいわゆる朝雲です。先王の懐王が高唐の楼観に遊ばれた時、疲れて昼寝をされていると、夢の中で神女が現れ、契りを結ばれました。神女は帰りがけに、『自分はざんの神女で、朝は雲に、夕方は雨になります』と告げました。懐王が朝起きて巫山を見ると言葉通りに雲が湧き起こっていました。そこで懐王は神女のために廟を建て、朝雲廟と名付けられました」と言ったという。ウィキソース「高唐賦」参照。
  • 映 … える。べに白粉おしろいをつけた若い女性の姿が、楚の雲に照り映えて一段と美しい様子。
桃花馬上石橊裙
とうじょう せきりゅうくん
  • 桃花馬 … 大宛国産の名馬で、白い毛並みに紅の刺し毛のある馬。月毛馬。『爾雅』釈畜篇に「黄白の雑毛は」(黃白雜毛、駓)とあり、郭璞かくはくの注に「今の桃華馬なり」(今之桃華馬)とある。駓は、しらかげ。茶色の毛に白い毛のまじった馬の毛色のこと。ウィキソース「爾雅註疏/卷10」参照。
  • 石榴裙 … ざくの花のような紅色のもすそ
羅敷獨向東方去
羅敷らふ ひと東方とうほうむかって
  • 羅敷 … 漢代の楽府「はくじょうそう」に出てくる美しい女性。趙使君の美人をなぞらえたもの。
  • 独向東方去 … ひとりで夫君のいる東の方へ馬を進めている。東方は、夫のいる方角。「はくじょうそう」に「東方とうほうせん余騎よきせいじょうとうる」(東方千餘騎、夫壻居上頭)とあるのを踏まえる。夫壻は、妻が夫を呼ぶ言葉。壻は婿の異体字。上頭は、軍隊の先頭。ウィキソース「日出東南隅行 (豔歌羅敷行)」参照。
謾學他家作使君
まん他家たかまなんで使くんらん
  • 謾 … みだりに。よいかげんに。おこがましくも。ふざけて。漫に同じ。
  • 他家 … 俗語。あの人。羅敷を誘った使君と、趙使君とをかけている。
  • 他 … 『唐詩選』では「佗」に作る。同義。
  • 学 … 真似をする。
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