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峴山懐古(陳子昂)

峴山懷古
峴山けんざんかい
ちんごう
  • 五言排律。都・圖・呉・枯・孤・躕(平声虞韻)。
  • 『全唐詩』巻84所収。ウィキソース「峴山懷古 (陳子昂)」参照。
  • 峴山 … 今の湖北省襄陽市の南にある山。三国時代の英雄、劉表(142~208)の根拠地であった。
  • 懐古 … 歴史上のことを思い起こして懐かしむこと。
  • 陳子昂 … 661~702。初唐の詩人。しゅう射洪しゃこう(四川省遂寧すいねい市射洪県)の人。あざなは伯玉。『陳伯玉文集』十巻がある。ウィキペディア【陳子昂】参照。
秣馬臨荒甸
うままぐさかい 荒甸こうでんのぞ
  • 秣馬 … 馬を一休みさせて、まぐさをやる。草を食べさす。
  • 荒甸 … 都から遠く離れた郊外の野原。『漢語大詞典』には「泛指郊野和辺僻地区」とある。
登高覽舊都
たかきにのぼりて きゅう
  • 旧都 … 元の都。襄陽の町を指す。
  • 覧 … 高い所から下を見回す。
猶悲墮涙碣
かなしむ るいけつ
  • 猶悲 … 今もなお悲しみを催す。
  • 堕涙碣 … 晋のよう(221~278)は襄陽の長官となり、地元の人々に慕われた。あるとき峴山けんざんに登り、「昔からこの山に登った賢者は多くいたが、その名を知られている者はいない。死後、わが魂魄こんぱくが必ずこの山に登るだろう」と言った。彼の死後、人々は彼の徳を慕い、山頂に碑を立てた。その碑を見た者はみな彼を思い出して涙を流したので、杜預が「堕涙碑」と名付けたという。『晋書しんじょ』羊祜伝に「宇宙有りてより、便ち此の山有り。由来賢達の勝士、此に登り遠望すること、我と卿とが如き者多し。皆湮滅して聞ゆる無し。人をして悲傷せしむ。如し百歳の後知る有らば、魂魄猶お応に此に登るべしと。……襄陽の百姓、峴山の祜が平生遊憩の所に於いて、碑を建て廟を立て、歳時に饗祭す。其の碑を望む者、流涕せざるは莫く、杜預因りて名づけて堕涙の碑と為す」(自有宇宙、便有此山。由來賢達勝士、登此遠望、如我與卿者多矣。皆湮滅無聞。使人悲傷。如百歲後有知、魂魄猶應登此也。……襄陽百姓、於峴山祜平生遊憩之所、建碑立廟、歳時饗祭焉。望其碑者、莫不流涕、杜預因名爲墮涙碑)とある。ウィキソース「晉書/卷034」参照。「碣」は石碑で丸いもの。四角いのは「碑」。平仄を合わせるため「碣」と言い換えている。
尚想臥龍圖
おもう りょう
  • 尚想 … さらに思い起こされる。
  • 臥竜図 … 「臥竜」は諸葛孔明のこと。「図」は孔明が軍略を示すため、石を並べて陣形を表した八陣図のこと。
城邑遙分楚
じょうゆう はるかにかち
  • 城邑 … 城壁に囲まれた町。襄陽を指す。また、「はるか彼方に点在して見える町や村」という解釈もある。
  • 分楚 … 楚の領域を他の地域と区分している。
山川半入呉
山川さんせん なか
  • 山川 … 山や川。
  • 呉 … 三国時代に孫権が建てた呉の国を指す。都は今の江蘇省南京市。ウィキペディア【呉 (三国)】参照。
  • 入 … 領域に入っている。
丘陵徒自出
丘陵きゅうりょう いたずらにおのずから
  • 丘陵 … 小高い丘。
  • 徒 … 無駄に。むなしく。
  • 自出 … それぞれ突き出ている。
賢聖幾凋枯
賢聖けんせい いくばくちょう
  • 賢聖 … 賢人と聖人。この辺りで活躍した劉表、羊祜、諸葛孔明などを指す。
  • 幾 … どれくらいか。幾人か。
  • 凋枯 … 草木がしぼみ枯れること。転じて人が死ぬこと。
野樹蒼煙斷
じゅ 蒼煙そうえん
  • 野樹 … 野原に立ち並ぶ木々。
  • 蒼煙 … 薄暗く立ち込めるもや
  • 煙 … 底本では「烟」に作るが、諸本に従い改めた。異体字。
  • 断 … 切れ切れに見える。途絶える。
津樓晩氣孤
津楼しんろう ばんなり
  • 津楼 … 渡し場にある高い建物。渡し場にあるやぐら
  • 晩気 … 夕暮れの気配。
  • 孤 … ぽつねんと立っている。
誰知萬里客
たれらん ばんかく
  • 誰知 … 誰が知ってくれよう、誰も知るまい。反語。
  • 万里客 … 長い旅路を行く旅人。作者自身を指す。
懷古正踟躕
いにしえおもうてまさちゅうするを
  • 懐古 … 昔のことをしのびつつ。
  • 正 … 今ここに。ここでこうして。
  • 踟躕 … 行きつ戻りつしている。『全唐詩』では「躊躕ちゅうちゅう」に作る。「躊躕」は、迷ってぐずぐずすること。
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