春夜洛城聞笛(李白)
春夜洛城聞笛
春夜 洛城にて笛を聞く
春夜 洛城にて笛を聞く
- 七言絶句。聲・城・情(平声庚韻)。
- ウィキソース「春夜洛城聞笛」参照。
- 春夜 … 春の夜。
- 洛城 … 洛陽の町。洛陽城。現在の河南省洛陽市。城は、城壁で囲まれた町全体を指す。城市。長安を西都と呼ぶのに対し、洛陽は東都と呼ばれた。ウィキペディア【洛陽市】参照。
- 洛 … 『唐詩別裁集』では「雒」に作る。同義。
- 聞笛 … 笛の音を聞く。
- この詩は、作者が春の夜、洛陽の町で笛の音を聞き、郷愁をおこして詠んだもの。安旗主編『新版 李白全集編年注釋』(巴蜀書社、2000年)によると、開元二十年(732)、三十二歳の作。
- 李白 … 701~762。盛唐の詩人。字は太白。蜀の隆昌県青蓮郷(四川省江油市青蓮鎮)の人。青蓮居士と号した。科挙を受験せず、各地を遊歴。天宝元年(742)、玄宗に召されて翰林供奉(天子側近の文学侍従)となった。しかし、玄宗の側近で宦官の高力士らに憎まれて都を追われ、再び放浪の生活を送った。杜甫と並び称される大詩人で「詩仙」と仰がれた。『李太白集』がある。ウィキペディア【李白】参照。
誰家玉笛暗飛聲
誰が家の玉笛ぞ 暗に声を飛ばす
- 誰家玉笛 … 誰の家で吹き鳴らす笛だろうか。
- 誰家 … 誰の家。または「誰」と訳す。この場合の「家」は、人称につく助辞で俗語的表現。西晋の張載の「七哀の詩二首 其の一」(『文選』巻二十三)に「借問す誰が家の墳ぞ、皆云う漢の世〻の主なりと」(借問誰家墳、皆云漢世主)とある。ウィキソース「七哀詩 (張孟陽)」参照。
- 玉笛 … 玉で作った笛。素晴らしい笛。立派な笛。ここでは笛の美称として用いられている。
- 暗 … 暗闇の中をどこからともなく。
- 飛声 … 笛の音が飛び散って広がること。笛の音が風に乗って伝わること。
散入春風滿洛城
散じて春風に入りて 洛城に満つ
- 散 … 音が飛び散って。
- 入春風 … 春風に乗って。春風に溶け込んで。春風と一つになって。
- 春 … 『唐詩別裁集』では「東」に作る。
- 洛城 … 洛陽の町中に。上記「洛城」参照。
- 満 … 響き渡っている。
此夜曲中聞折柳
此の夜 曲中 折柳を聞く
- 此夜 … 今夜。徐陵の「烏棲曲二首 其の一」(『楽府詩集』巻四十八)に「卓女紅粉此の夜を期す」(卓女紅粉期此夜)とある。ウィキソース「樂府詩集/048卷」参照。
- 曲中 … 聞こえてくる曲の中に。
- 折柳 … 「折楊柳」という曲名。楽府題。別れの曲。楊柳は、やなぎの総称。もともと送別に際し、楊柳の枝を折って輪にし、贈る習慣があった。『楽府詩集』巻二十二・横吹曲辞に多数収める。「折楊柳」の題辞に「宋書五行志に曰く、晋の太康の末、京洛にて折楊柳の歌を為す。其の曲に兵革苦辛の辞有り」(宋書五行志曰、晉太康末、京洛爲折楊柳之歌。其曲有兵革苦辛之辭)とある。ウィキソース「樂府詩集/022卷」参照。
- 柳 … 『蕭本』『唐宋詩醇』では「栁」に作る。『唐詩別裁集』では「桺」に作る。いずれも異体字。
何人不起故園情
何人か故園の情を起さざらん
- 何人不起 … 誰が起こさずにいられようか、いや誰もが起こさずにはいられない。反語を表す。
- 故園情 … 故郷を懐かしく思う気持ち。郷愁。望郷の念。
- 故園 … 故郷。
テキスト
- 『箋註唐詩選』巻七(『漢文大系 第二巻』冨山房、1910年)
- 『全唐詩』巻一百八十四(揚州詩局本縮印、上海古籍出版社、1985年)
- 『李太白文集』巻二十三(静嘉堂文庫蔵宋刊本影印、平岡武夫編『李白の作品』所収、略称:宋本)
- 『李太白文集』巻二十三(繆曰芑重刊、雙泉草堂本、略称:繆本)
- 『分類補註李太白詩』巻二十五(蕭士贇補注、内閣文庫蔵、略称:蕭本)
- 『分類補註李太白詩』巻二十五(蕭士贇補注、郭雲鵬校刻、『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:郭本)
- 『分類補註李太白詩』巻二十五(蕭士贇補注、許自昌校刻、『和刻本漢詩集成 唐詩2』所収、略称:許本)
- 『李翰林集』巻十五(景宋咸淳本、劉世珩刊、江蘇広陵古籍刻印社、略称:劉本)
- 『李太白全集』巻二十五(王琦編注、『四部備要 集部』所収、略称:王本)
- 『万首唐人絶句』七言・巻二(明嘉靖刊本影印、文学古籍刊行社、1955年)
- 趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十三(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)
- 『唐詩品彙』巻四十七(汪宗尼本影印、上海古籍出版社、1981年)
- 『唐詩別裁集』巻二十(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
- 『古今詩刪』巻二十一(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、55頁)
- 『唐詩解』巻二十五(清順治十六年刊、内閣文庫蔵)
- 『唐宋詩醇』巻八(乾隆二十五年重刊、紫陽書院、内閣文庫蔵)
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