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望天門山(李白)

望天門山
天門山てんもんざんのぞ
はく
  • 七言絶句。開・廻・來(平声灰韻)。
  • ウィキソース「望天門山」参照。
  • 詩題 … 『宋本』『繆本』には、題下に「當塗」とある。
  • 天門山 … 長江下流の両岸、安徽省当塗県にある博望山(東梁山)と和県にある梁山(西梁山)の総称。二つの山が長江を挟んで門扉のように見えるので、天門山という。また左右の眉のようにも見えるので、峨眉山ともいう。『元和郡県図志』江南道、宣州、当塗県の条に「博望山は、県の西三十五里に在り、和州と対岸なり。江の西岸を梁山と曰い、溧陽県の南七十里に在り。両山相望むこと門の如し、俗に之を天門山と謂う」(博望山、在縣西三十五里、與和州對岸。江西岸曰梁山、在溧陽縣南七十里。兩山相望如門、俗謂之天門山)とある。ウィキソース「元和郡縣圖志/卷28」参照。また『太平寰宇記』江南西道、当塗県の条に引く『輿地誌』に「博望・梁山は、東西相対して江を隔つこと門の如し。相去ること数里、之を天門山と謂う。亦た峨眉山と曰う」(輿地志云、博望梁山、東西相對隔江如門。相去數里、謂之天門山。亦曰峨眉山)とある。ウィキソース「太平寰宇記 (四庫全書本)/卷105」参照。また『方輿勝覧』太平州、当塗の条に「天門山は、当塗の西南三十里に在り。又た蛾眉山と名づく。大江をはさみ、東を博望と曰い、西を梁山と曰う」(天門山、在當塗西南三十里。又名蛾眉山。夾大江、東曰博望、西曰梁山)とある。ウィキソース「方輿勝覽 (四庫全書本)/卷15」参照。
  • 望 … 眺める。遠望する。
  • この詩は、作者が江南の地を放浪中、舟から天門山を眺めて詠んだもの。安旗主編『新版 李白全集編年注釋』(巴蜀書社、2000年)によると、開元十三年(725)、二十五歳の作。
  • 李白 … 701~762。盛唐の詩人。あざなは太白。蜀の隆昌県青蓮郷(四川省江油市青蓮鎮)の人。青蓮居士と号した。科挙を受験せず、各地を遊歴。天宝元年(742)、玄宗に召されて翰林かんりん供奉ぐぶ(天子側近の文学侍従)となった。しかし、玄宗の側近で宦官の高力士らに憎まれて都を追われ、再び放浪の生活を送った。杜甫と並び称される大詩人で「詩仙」と仰がれた。『李太白集』がある。ウィキペディア【李白】参照。
天門中斷楚江開
天門てんもんちゅうだんして こうひら
  • 天門 … 天門山。
  • 中断 … 真ん中から断ち切られている。
  • 楚江 … 長江の湖南・湖北省一帯の川を指す。楚は、春秋戦国時代、楚の国が長江中流の地を領有していたことから。
  • 開 … 大きく開かれていく。
碧水東流直北廻
碧水へきすい とうりゅうして ちょくほくめぐ
  • 碧水 … 青緑色をした川の水。
  • 東流 … 東へ東へと流れていたが。
  • 直北廻 … この辺りできたに向きをかえて流れる。
  • 直北 … 真北。正北。『史記』封禅書に「遂に其の直北に因りて、五帝の壇を立て、まつるに五牢の具を以てす」(遂因其直北、立五帝壇、祠以五牢具)とある。ウィキソース「史記/卷028」参照。
  • 直 … 『全唐詩』では「至」に作り、「一作直」とある。『王本』では「至」に作り、「至北繆本作直北、一作至此」とある。『唐詩選』『蕭本』『郭本』『許本』『唐詩品彙』『古今詩刪』『唐詩解』『唐宋詩醇』では「至」に作る。『唐詩別裁集』では「向」に作る。
  • 廻 … ぐるっとまわる。『全唐詩』『劉本』『王本』『唐詩別裁集』では「迴」に作る。『万首唐人絶句』(嘉靖刊本)では「回」に作る。いずれも同義。『万首唐人絶句』(万暦刊本)では「囘」に作る。「回」の異体字。
兩岸靑山相對出
りょうがん青山せいざん あいたいして
  • 両岸青山 … 両岸の青々とした山。博望山(東梁山)と梁山(西梁山)を指す。
  • 岸 … 『蕭本』『許本』では「㟁」に作る。異体字。
  • 相対 … 長江を挟んで向かいあって。
  • 出 … そびえ立つ。
孤帆一片日邊來
はん一片いっぺん 日辺じっぺんよりきた
  • 孤帆一片 … ただ一艘いっそうの舟の帆。ここでは作者が乗っている舟、または作者から見えている舟、の二説に解釈が分かれる。
  • 一片 … 一片ひとひら。ひとかけら。王之渙の「涼州詞」に「一片いっぺんじょう万仞ばんじんやま」(一片孤城萬仞山)とある。ウィキソース「涼州詞 (王之渙)」参照。
  • 日辺 … 「にっぺん」とも読む。太陽のある辺り。太陽の輝くところ。なお、ここでは天子が居られる長安を指すとの説もある。『世説新語』夙慧篇に「晋の明帝数歳にして、元帝のしつじょうに坐せしとき、人有り長安より来る。……明帝に問う、汝が意におもえらく、長安は日の遠きに何如いかん、と。答えて曰く、日遠し。人の日辺じっぺんより来るを聞かず。居然きょぜんとして知る可し、と。……更に重ねて之を問う。乃ち答えて曰く、日近し、と。元帝色を失いて曰く、なんじなんゆえに昨日の言に異なるや、と。答えて曰く、目をぐれば日を見るも、長安を見ず、と」(晉明帝數歲、坐元帝膝上、有人從長安來。……問明帝、汝意謂長安何如日遠。答曰、日遠。不聞人從日邊來。居然可知。……更重問之。乃答曰、日近。元帝失色曰、爾何故異昨日之言邪。答曰、舉目見日、不見長安)とある。ウィキソース「世說新語/夙惠」参照。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻七(『漢文大系 第二巻』冨山房、1910年)
  • 『全唐詩』巻一百八十(揚州詩局本縮印、上海古籍出版社、1985年)
  • 『李太白文集』巻十九(静嘉堂文庫蔵宋刊本影印、平岡武夫編『李白の作品』所収、略称:宋本)
  • 『李太白文集』巻十九(ぼくえつ重刊、雙泉草堂本、略称:繆本)
  • 『分類補註李太白詩』巻二十一(しょういん補注、内閣文庫蔵、略称:蕭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻二十一(蕭士贇補注、郭雲鵬校刻、『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:郭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻二十一(蕭士贇補注、許自昌校刻、『和刻本漢詩集成 唐詩2』所収、略称:許本)
  • 『李翰林集』巻十九(景宋咸淳本、劉世珩刊、江蘇広陵古籍刻印社、略称:劉本)
  • 『李太白全集』巻二十一(王琦編注、『四部備要 集部』所収、略称:王本)
  • 『万首唐人絶句』七言・巻二(明嘉靖刊本影印、文学古籍刊行社、1955年)
  • 趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十三(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩品彙』巻四十七(汪宗尼本影印、上海古籍出版社、1981年)
  • 『唐詩別裁集』巻二十(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『古今詩刪』巻二十一(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、55頁)
  • 『唐詩解』巻二十五(清順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐宋詩醇』巻七(乾隆二十五年重刊、紫陽書院、内閣文庫蔵)
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