相思(王維)
相思
相思
相思
- 五言絶句。枝・思(平声支韻)。
- ウィキソース「相思」参照。
- 相思 … 相手を恋しく思う。相手を思慕する。「相思相愛(互いに慕い合う)」の意ではない。相は、ここでは「互いに」という意味ではなく、動作に対象があることを示す接頭語。「(対象に)~する」「(対象を)~する」と訳す。『唐詩別裁集』では「相思子」に作る。相思子は、紅豆の別名。
- この詩は『静嘉堂本』『蜀刊本』『四部叢刊本』等の宋本には載っておらず、王維の作品としては疑わしい。唐末の説話集『雲渓友議』にはこの詩が見え、王維作とする。これによると、唐の有名な歌手李亀年が江南を流浪していた折、宴席でいつも歌うのがこの詩と、同じく王維作のもう一首であったという。『雲渓友議』巻中、雲中命の条に「亀年曾て湘中采訪使の筵上に於いて唱す。紅豆南国に生じ、秋来幾枝を発す。君に贈らんとして多く綵纈す、此の物最も相思わしむ、と。又た、清風朗月相思に苦しむ、蕩子戎に従う十載余。征人去る日殷勤に嘱す、帰雁来る時数〻書を附せよ、と。此の詞皆王右丞の製する所、今に至るまで梨園焉を唱す。歌闋りて、合座行幸を望みて惨然たらざる莫しと」(龜年曾於湘中采訪使筵上唱。紅豆生南國、秋來發幾枝。贈君多綵纈、此物最相思。又、清風朗月苦相思、蕩子從戎十載餘。征人去日殷勤囑、歸雁來時數附書。此詞皆王右丞所製、至今梨園唱焉。歌闋、合座莫不望行幸而慘然)とある。ウィキソース「雲谿友議」参照。
- 王維 … 699?~761。盛唐の詩人、画家。太原(山西省)の人。字は摩詰。開元七年(719)、進士に及第。安禄山の乱で捕らえられたが事なきを得、乱後は粛宗に用いられて尚書右丞(書記官長)まで進んだので、王右丞とも呼ばれる。また、仏教に帰依したため、詩仏と称される。『王右丞文集』十巻がある。ウィキペディア【王維】参照。
紅豆生南國
紅豆 南国に生じ
秋來發故枝
秋来 故枝発す
- 秋来 … 「秋来れば」と読んでもよい。南朝梁の裴憲伯「朱鷺」(楽府・鼓吹曲辞・漢鐃歌)に「秋来りて寒さの勁きを懼れ、歳去りて氷の堅きを畏る」(秋來懼寒勁、歳去畏冰堅)とある。ウィキソース「樂府詩集/016卷」参照。
- 秋 … 『唐詩三百首』『唐詩別裁集』では「春」に作る。
- 故枝 … 古い枝。南朝梁の沈約「霜来悲落桐」詩(『玉台新詠』巻九)に「宿茎晩幹抽き、新葉故枝に生ず。故枝遼遠なりと雖も、新葉頗る離離たり」(宿莖抽晚幹、新葉生故枝。故枝雖遼遠、新葉頗離離)とある。ウィキソース「霜來悲落桐」参照。
- 故 … 『全唐詩』には「一作幾」とある。『唐詩三百首』『趙注本』『雲渓友議』『唐詩紀事』では「幾」に作る。「幾枝」ならば、何本もの枝の意。
- 発 … 花が開く。
願君多采擷
願わくは 君多く采擷せよ
- 願 … 願うところは。できることならどうか。「願わくば」と読んでもよい。『全唐詩』には「一作贈」とある。『雲渓友議』『唐詩紀事』では「贈」に作る。『顧起経注本』『唐詩別裁集』『万首唐人絶句』では「勧」に作る。
- 多 … 『顧起経注本』『唐詩別裁集』『万首唐人絶句』では「休」に作る。
- 采擷 … 摘み取る。采は、指でつかんで採る。擷は、摘む。摘み取る。『詩経』周南・芣苢の詩に「芣苢を采り采る、薄か言に之を袺る、芣苢を采り采る、薄か言に之を襭む」(采采芣苢、薄言袺之、采采芣苢、薄言襭之)とある。ウィキソース「詩經/芣苢」参照。
- 采 … 『顧起経注本』『趙注本』『唐詩紀事』では「採」に作る。『雲渓友議』では「綵」に作る。
- 擷 … 『唐詩三百首注疏』では「襭」に作る。『雲渓友議』では「纈」に作る。
- 願君多采擷 … 『全唐詩』には「一作勸君休采擷」とある。
此物最相思
此の物 最も相思う
テキスト
- 『全唐詩』巻一百二十八(中華書局、1960年)
- 『唐詩三百首注疏』巻六上・五言絶句(廣文書局、1980年)
- 顧起経注『類箋唐王右丞詩集』外編(台湾学生書局、1970年、略称:顧起経注本)
- 趙殿成注『王右丞集箋注』巻十五(中国古典文学叢書、上海古籍出版社、1998年、略称:趙注本)
- 『唐詩別裁集』巻十九(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
- 『万首唐人絶句』五言・巻四(明嘉靖刊本影印、文学古籍刊行社、1955年)
- 『雲渓友議』巻中、雲中命(『四部叢刊 續篇子部』所収)
- 『唐詩紀事』巻十六([宋]計有功撰、上海古籍出版社、1987年)
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