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山居秋暝(王維)

山居秋暝
山居さんきょしゅうめい
おう
  • 五言律詩。秋・流・舟・留(下平声尤韻)。
  • ウィキソース「山居秋暝」参照。
  • 山居 … 山中に住むこと。山ずまい。また、その住居。山荘。ここでは、長安南郊の藍田らんでん(現在の陝西省西安市藍田県)にあった王維の別荘「輞川もうせん荘」を指す。
  • 秋暝 … 秋の夕暮れ。
  • 暝 … 『静嘉堂本』では「瞑」に作る。
  • 王維 … 699?~761。盛唐の詩人、画家。太原(山西省)の人。あざなきつ。開元七年(719)、進士に及第。安禄山の乱で捕らえられたが事なきを得、乱後は粛宗に用いられてしょうじょゆうじょう(書記官長)まで進んだので、王右丞とも呼ばれる。また、仏教に帰依したため、詩仏と称される。『王右丞文集』十巻がある。ウィキペディア【王維】参照。
空山新雨後
空山くうざん しんのち
  • 空山 … ひとのない、静かで物寂しい山。隋の盧思道「彭城王ばん」に「容衛ようえい げんとして来帰し、空山 秋月照らす」(容衞儼來歸、空山照秋月)とある。彭城王は、後漢の皇族、劉恭(?~117)。ウィキペディア【劉恭 (彭城王)】参照。輓歌は、人の死を悲しみ嘆く歌。挽歌とも。容衛は、儀仗兵。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷132」参照。
  • 新雨 … 先ほど降った雨。『史記』亀策列伝に「新雨み、天清静せいせいにして風無し」(新雨已、天清靜無風)とある。清静は、さっぱりとして静かに落ち着いているさま。ウィキソース「史記/卷128」参照。
天氣晚來秋
てん 晩来ばんらい あきなり
  • 天気 … 空模様。空の気配。東晋の陶淵明「諸人しょじんと共にしゅうはくもとに遊ぶ」詩に「今日 天気し、清吹せいすい鳴弾めいだんと」(今日天氣佳、清吹與鳴彈)とある。清吹は、笛。鳴弾は、琴。ウィキソース「諸人共游周家墓柏下」参照。
  • 晩来秋 … 夕暮れになって、秋らしさを感じさせる。
明月松間照
明月めいげつ しょうかん
  • 明月 … 明るい月。魏の文帝(曹丕)の楽府「燕歌行二首」(其一)に「明月皎皎きょうきょうとして我がしょうを照らし、星漢せいかん西に流れて夜未だきず」(明月皎皎照我床、星漢西流夜未央)とある。皎皎は、明るいさま。星漢は、天の川。未央は、尽きない。終わらない。ウィキソース「燕歌行 (曹丕)」参照。
  • 松間 … 松の木々の間。初唐の宋之問「山を下る歌」に「松間の明月 とこしえにかくの如きも、君が再び遊ばんは復た何れの時ぞ」(松閒明月長如此、君再遊兮復何時)とある。ウィキソース「下山歌」参照。
  • 間 … 『四部叢刊本』では「問」に作る。
清泉石上流
清泉せいせん せきじょうなが
  • 清泉 … 清らかな泉。三国時代、魏の阮籍「詠懐詩八十二首」(其六十)に「渇しても清泉の流れに飲み、くらうに一簞いったんあわす」(渇飮清泉流、饑食幷一簞)とある。一簞を幷すは、わりご一杯の食物を数日に分けて食べるような貧困をいう。ウィキソース「詠懷詩五言八十二首」参照。
  • 石上 … 岩の上。南朝宋の謝霊運「夜石門に宿る詩」に「くれに雲際の宿に還り、此の石上の月を弄す」(暝還雲際宿、弄此石上月)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷058」参照。
竹喧歸浣女
たけかまびすしくして 浣女かんじょかえ
  • 竹喧 … 竹林の辺りでにぎやかな声がして。
  • 浣女 … 洗濯をする女たち。浣は、洗うこと。
蓮動下漁舟
はすうごきて ぎょしゅうくだ
  • 蓮動 … 蓮の葉が揺れ動いているのは。
  • 漁舟 … 漁師の舟。『顔氏家訓』省事篇に「うんの漁舟に託し、季布の広柳に入り、孔融の張倹を蔵し、孫嵩のちょうかくせしは、前代の貴ぶ所にして、吾の行う所なり」(伍員之託漁舟、季布之入廣柳、孔融之藏張儉、孫嵩之匿趙岐、前代之所貴、而吾之所行也)とある。広柳は、広柳車。物を載せて運ぶ大きな車。ウィキソース「顏氏家訓/卷第5」参照。
隨意春芳歇
ずいなり しゅんぽうむこと
  • 随意 … それはそれでよい。それはそれで構わない。さもあらばあれ。北周の庾信「蕩子の賦」に「游塵 牀に満つ 払い用いず、細草 階に横たう 随意に生ず」(游塵滿牀不用拂、細草横階隨意生)とある。こちらの随意は、「勝手に」の意。ウィキソース「庾子山集 (四庫全書本)/卷01」参照。
  • 春芳歇 … 春の花が散ってしまった。歇は、なくなる。ここでは、散ってなくなってしまうこと。『楚辞』九章・悲回風に「薠蘅はんこうれてふし離れ、ほう以てんで比せず」(薠蘅槁而節離兮、芳以歇而不比)とある。薠蘅は、香草の名。ウィキソース「楚辭/九章」参照。また南朝宋の鮑照「さいりょう歌七首」(其六)に「春芳 行〻ゆくゆくき落つ、の人まさに未だひとしゅうせず」(春芳行歇落、是人方未齊)とある。ウィキソース「樂府詩集/051卷」参照。
王孫自可留
王孫おうそん みずかとどまる
  • 王孫 … 貴公子。ここでは、作者自身を指す。『史記』淮陰侯伝に「われ王孫を哀れみてしょくを進む、豈に報いを望まんや」(吾哀王孫而進食、豈望報乎)とある。ウィキソース「史記/淮陰侯列傳」参照。
  • 自可留 … 自分からここに留まることにしよう。
  • 王孫自可留 … 『楚辞』招隠士に「王孫おうそん遊びて帰らず、しゅんそうしょうじて萋萋せいせいたり。……王孫帰り来たれ、山中は以て久しく留まる可からず」(王孫遊兮不歸、春草生兮萋萋。……王孫兮歸來、山中兮不可以久留)とあるのに基づく。ウィキソース「楚辭/招隱士」参照。
テキスト
  • 『全唐詩』巻一百二十六(中華書局、1960年)
  • 『王右丞文集』巻三(静嘉堂文庫蔵、略称:静嘉堂本)
  • 『王摩詰文集』巻五(書韻楼叢刊、上海古籍出版社、2003年、略称:蜀刊本)
  • 『須渓先生校本唐王右丞集』巻三(『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:四部叢刊本)
  • 顧起経注『類箋唐王右丞詩集』巻四(台湾学生書局、1970年、略称:顧起経注本)
  • 顧可久注『唐王右丞詩集』巻三(『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、略称:顧可久注本)
  • 趙殿成注『王右丞集箋注』巻七(中国古典文学叢書、上海古籍出版社、1998年、略称:趙注本)
  • 『唐詩三百首注疏』巻四・五言律詩(廣文書局、1980年)
  • 『唐詩品彙』巻六十一([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩解』巻三十六(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩別裁集』巻九(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 松浦友久編『校注 唐詩解釈辞典』大修館書店、1987年
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