辛夷塢(王維)
辛夷塢
辛夷塢
辛夷塢
- 五言絶句。萼・落(入声薬韻)。
- 「輞川二十景」のうちの一つ。「輞川」は長安の南郊の藍田(陝西省藍田県)にあった王維の別荘で、「輞川荘」と名づけられた。詩友の裴迪と唱和した作品を収めた「輞川集」に収められている。ウィキソース「輞川集 (王維)/辛夷塢」参照。
- 辛夷 … モクレン。「辛夷」は、わが国では「こぶし」と読み、「コブシ」を指すが、ここではモクレンのこと。紅紫色の花が咲く。シモクレン(紫木蓮)ともいう。一方、コブシは白い花が咲く。なお、白い花が咲くものにハクモクレンもあり、紛らわしい。ウィキペディア【モクレン】【コブシ】【ハクモクレン】参照。『楚辞章句』に「辛夷は、香草なり。以て戸楣を作る」(辛夷、香草。以作戶楣)とある。戸楣は、門戸の上の横梁。ウィキソース「楚辭章句/卷02」参照。また『楚辞補注』に「本草に云う、辛夷の樹大いさ合抱に連なり、高さ数仞なり。此の花、初めて発きしときは筆の如し。北人呼びて木筆と為す。其の花最も早し。南人呼びて迎春と為す、と」(本草云、辛夷樹、大連合抱、高數仞。此花、初發如筆。北人呼爲木筆。其花最早。南人呼爲迎春)とある。合抱は、ひとかかえの太さ。ウィキソース「楚辭補註/卷第二」参照。
- 塢 … 小さい堤。土手。ここでは、辛夷の咲いている堤を指す。『顧起経注本』では「䃖」に作る。同義。
- 王維 … 699?~761。盛唐の詩人、画家。太原(山西省)の人。字は摩詰。開元七年(719)、進士に及第。安禄山の乱で捕らえられたが事なきを得、乱後は粛宗に用いられて尚書右丞(書記官長)まで進んだので、王右丞とも呼ばれる。また、仏教に帰依したため、詩仏と称される。『王右丞文集』十巻がある。ウィキペディア【王維】参照。
木末芙蓉花
木末 芙蓉の花
- 木末 … こずえ。
- 芙蓉 … 蓮の花。ここでは、辛夷の花をたとえたもの。『楚辞』九歌・湘君の「薜茘を水中に采り、芙蓉を木末に搴る」(采薜茘兮水中、搴芙蓉兮木末)に基づく。ウィキソース「九歌」参照。
山中發紅萼
山中に紅萼発く
- 紅萼 … 赤い花。「萼」は、花の一番外側にあって、花びらを支えているもの。ここでは、押韻の都合上、「花」の字の代用と思われる。南朝宋の謝霊運「従弟恵連に酬ゆ」詩(『文選』巻二十五)に「山桃は紅萼を発き、野蕨は紫苞を漸む」(山桃發紅蕚、野蕨漸紫苞)とある。野蕨は、野の蕨。紫苞は、紫の若葉。ウィキソース「昭明文選/卷25」参照。
- 萼 … 『全唐詩』以外のほとんどのテキストでは「蕚」に作る。異体字。
- 発 … 花がぱっと開くこと。
澗戶寂無人
澗戸 寂として人無く
- 澗戸 … 谷間にある家。谷川に沿った家。南朝陳の江総「明慶寺」詩に「山階皎月を歩き、澗戸涼蝉を聴く」(山階歩皎月、澗戶聽涼蟬)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷115」参照。
- 澗 … 『唐詩別裁集』では「磵」に作る。同義。
- 寂無人 … ひっそりとして、人の気配がない。三国時代、魏の曹植「聖皇篇」(鼙舞歌五首 其一)に「便時外殿に舎れば、宮省は寂として人無し」(便時舎外殿、宮省寂無人)とある。便時は、都合のよい時。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷023」参照。
紛紛開且落
紛紛として開き且つ落つ
テキスト
- 『全唐詩』巻一百二十八(中華書局、1960年)
- 『王右丞文集』巻四(静嘉堂文庫蔵、略称:静嘉堂本)
- 『王摩詰文集』巻六(書韻楼叢刊、上海古籍出版社、2003年、略称:蜀刊本)
- 『須渓先生校本唐王右丞集』巻四(『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:四部叢刊本)
- 顧起経注『類箋唐王右丞詩集』巻九(台湾学生書局、1970年、略称:顧起経注本)
- 顧可久注『唐王右丞詩集』巻四(『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、略称:顧可久注本)
- 趙殿成注『王右丞集箋注』巻十三(中国古典文学叢書、上海古籍出版社、1998年、略称:趙注本)
- 『唐詩品彙』巻三十九([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
- 『唐詩別裁集』巻十九(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
- 『万首唐人絶句』五言・巻四(明嘉靖刊本影印、文学古籍刊行社、1955年)
- 『唐詩解』巻二十二(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
- 『唐詩紀事』巻十六、裴迪(上海古籍出版社、2008年)
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