有女同車(『詩経』国風・鄭風)
有女同車
有女同車
有女同車
- 〔テキスト〕 『毛詩』巻四(『四部叢刊 初編経部』所収)、『詩集伝』巻四(『四部叢刊 三編経部』所収)、他
- 四言古詩。〔第一章〕車(kia)・華(hoa)・琚(kia)・都(ta)(魚部)。翔(ziang)・姜(kiang)(陽部)。〔第二章〕行(heang)・英(yang)・翔(ziang)・將(tsiang)・姜(kiang)・忘(miuang)(陽部)。※王力『诗经韵读』(上海古籍出版社、1980年)の《诗经》入韵字音表(111~145頁)および200頁参照。
- ウィキソース「詩經/有女同車」参照。
- この詩は、美しい女性と相乗りした喜びを歌ったもの。
- 有女同車 … 「女有りて車を同じくす」と訓読できる。「有女」は、ある女性がいるの意。「同車」は同じ車に乗る。同乗する。相乗りする。
- 詩経 … 中国最古の詩集。305編。孔子が編集したといわれる。風(諸国の民謡)・雅(宮廷の音楽)・頌(祭礼の歌)の三部からなる。風は国風ともいい、周南・召南・邶・鄘・衛・王・鄭・斉・魏・唐・秦・陳・檜・曹・豳の十五に分かれる。雅は大雅・小雅の二つに分かれる。頌は周頌・魯頌・商頌の三つに分かれる。五経の一つ。十三経の一つ。『毛詩』『詩』ともいう。ウィキペディア【詩経】参照。
〔第一章〕
有女同車
有女同車
女有り 車を同じくす
- 女 … 「おんな」と読んでもよい。
顏如蕣華
顔 蕣華の如し
- 顔 … 「かお」と読んでもよい。
- 蕣華 … ムクゲの花。「蕣」は木槿。アオイ科の落葉低木。「蕣英」「蕣栄」も同じ。「蕣」は「舜」に作るテキストもある。ウィキペディア【ムクゲ】参照。
將翺將翔
将た翺し将た翔す
- 将 … 「はた」と読む。語調を整える助辞。
- 翺翔 … 本来は鳥が高く自由に飛びまわる意。ここでは車を軽やかに駆けめぐらすこと。
佩玉瓊琚
佩玉は瓊琚
- 佩玉 … 「佩びし玉」と読んでもよい。腰にさげた飾り玉。
- 瓊琚 … 美しい玉。
彼美孟姜
彼の美なる孟姜は
- 孟姜 … 斉国の姜家の長女。「孟」は長女。「姜」は姓。ここでは特定の女性ではなく、美しい女性の意。
洵美且都
洵に美にして且つ都なり
- 洵 … 「まこと」と読み、「まことに」「まったく」「ほんとうに」と訳す。
- 都 … しとやか。雅やか。都会的。あか抜けしている。
〔第二章〕
有女同行
有女同行
女有り 行を同じくす
- 同行 … いっしょに行く。「行」は道を行くこと。
顏如蕣英
顔 蕣英の如し
- 蕣英 … 「蕣華」と同じ。
將翺將翔
将た翺し将た翔す
佩玉將將
佩玉は将将たり
- 将将 … 玉が触れ合って鳴る音の形容。
彼美孟姜
彼の美なる孟姜は
德音不忘
徳音 忘られず
- 徳音 … 愛情のこもった言葉。優しい言葉。
- 不忘 … 忘れられない。
余説
- 朱熹『詩集伝』に「此れ疑うらくは亦淫奔の詩」(此疑亦淫奔之詩)とある。「淫奔」は本来、男女関係において、ふしだらなことの意であるが、当時と現代との恋愛観・結婚観には大きな懸隔がある。従ってここでいう「淫奔の詩」とは、現代的感覚で言えば単に「男女の恋愛の詩」程度の意であろう。
- 同車 … 毛亨『毛伝』に「親迎して同車するなり」(親迎同車也)とある。「親迎」は新郎が新婦を車で迎えに行くこと。
- 蕣華 … 『毛伝』に「蕣は木槿なり」(蕣木槿也)とある。『集伝』に「蕣は木槿なり。樹は李の如く、其の華は朝に生じて暮に落つ」(蕣木槿也。樹如李。其華朝生暮落)とある。
- 佩玉 … 『毛伝』に「佩に琚瑀有り、以て間に納るる所」(佩有琚瑀。所以納閒)とある。
- 孟姜 … 『毛伝』に「孟姜は斉の長女」(孟姜齊之長女)とある。『集伝』に「孟は字、姜は姓」(孟字。姜姓)とある。
- 洵 … 鄭玄『鄭箋』に「洵は信なり」(洵信也)とある。『集伝』に「洵は信」(洵信)とある。
- 都 … 『毛伝』に「都は閑なり」(都閑也)とある。『集伝』に「都は閑雅なり」(都閑雅也)とある。
- 同行 … 『毛伝』に「行は道を行くなり」(行行道也)とある。
- 蕣英 … 『毛伝』および『集伝』に「英は猶お華のごときなり」(英猶華也)とある。
- 将将 … 『毛伝』に「将将は玉を鳴らして後に行く」(將將鳴玉而後行)とある。『集伝』に「将将は声なり」(將將聲也)とある。
- 徳音 … 『集伝』に「徳音忘られずは、其の賢なるを言うなり」(德音不忘。言其賢也)とある。
こちらもオススメ!
歴代詩選 | |
古代 | 前漢 |
後漢 | 魏 |
晋 | 南北朝 |
初唐 | 盛唐 |
中唐 | 晩唐 |
北宋 | 南宋 |
金 | 元 |
明 | 清 |
唐詩選 | |
巻一 五言古詩 | 巻二 七言古詩 |
巻三 五言律詩 | 巻四 五言排律 |
巻五 七言律詩 | 巻六 五言絶句 |
巻七 七言絶句 |
詩人別 | ||
あ行 | か行 | さ行 |
た行 | は行 | ま行 |
や行 | ら行 |