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陟岵(『詩経』国風・魏風)

陟岵
ちょく
『詩経』国風・魏風
  • 〔テキスト〕 『毛詩』巻五(『四部叢刊 初編経部』所収)、『詩集伝』巻五(『四部叢刊 三編経部』所収)、他
  • 雑言古詩。〔第一章〕岵(ha)・父(biua)(魚部)。子(tziə)・已(jiə)・止(tjiə)(之部)。〔第二章〕屺(khiə)・母(mə)(之部)。季(kiuet)・寐(muət)・棄(khiet)(質物合韻)。〔第三章〕岡(kang)・兄(xyuang)(陽部)。弟(dyei)・偕(kei)・死(siei)(脂部)。※王力『诗经韵读』(上海古籍出版社、1980年)の《诗经》入韵字音表(111~145頁)および215頁参照。
  • ウィキソース「詩經/陟岵」参照。
  • この詩は出征兵士が故郷にいる父・母・兄を思う歌。
  • 陟岵 … 険しい岩山に登る。「陟」は登ること。「岵」は岩山。草木の茂っていない山。禿はげ山。
  • 詩経 … 中国最古の詩集。305編。孔子が編集したといわれる。風(諸国の民謡)・雅(宮廷の音楽)・しょう(祭礼の歌)の三部からなる。風は国風ともいい、周南・召南・はいよう・衛・王・鄭・斉・魏・唐・秦・陳・檜・曹・ひんの十五に分かれる。雅は大雅・小雅の二つに分かれる。頌は周頌・魯頌・商頌の三つに分かれる。五経の一つ。十三経の一つ。『毛詩』『詩』ともいう。ウィキペディア【詩経】参照。
〔第一章〕
陟彼岵兮
のぼりて
  • 彼 … あの。
  • 岵 … 草木の茂っていない山。岩山。禿はげ山。
  • 陟 … 登ること。
  • 兮 … 語調を整える助字。訓読では普通読まない。
瞻望父兮
ちち瞻望せんぼう
  • 瞻望 … はるか遠くを仰ぎ見る。ここでは父のいる方を眺めやること。
父曰嗟予子
ちちわん ああ 
  • 嗟 … ああ。感嘆・嘆息するときの言葉。
  • 予子 … 我が子よ。「」と読んでもよい。
行役夙夜無已
えききてはしゅくむことからん
  • 行役 … ここでは戦争に行くこと。
  • 夙夜 … 朝から夜まで。
  • 無已 … 休む暇もないだろう。
上愼旃哉
こいねがわくはこれつつしめよ
  • 上 … 「こいねがわくは」と読む。願わくは。「こいねがわくは」(庶幾こいねがわくは)と同じ。
  • 旃 … 「これ」と読む。「之」と同じ。
  • 慎 … 気をつけよ。注意せよ。
  • 哉 … ここでは「かな」とは読まず、「よ」と読み、「~しなさい」と訳す。励ましや命令の意を示す。
猶來無止
きたれ とどまることかれ
  • 猶 … そして、その上に。または、どうか、くれぐれも。
  • 来 … 帰っておいで。
  • 無止 … 行ったきりになるなよ。戦場に止まるな。
〔第二章〕
陟彼屺兮
のぼりて
  • 屺 … 草木の茂った山。
瞻望母兮
はは瞻望せんぼう
母曰嗟予季
ははわん ああ 
  • 季 … 末っ子。
行役夙夜無寐
えききてはしゅくぬることからん
  • 無寐 … 寝る暇もないだろう。
上愼旃哉
こいねがわくはこれつつしめよ
猶來無棄
きたれ てらるることかれ
  • 無棄 … 死んで(遺骸を)捨てられることがないように。
〔第三章〕
陟彼岡兮
おかのぼりて
  • 岡 … 山の尾根。
瞻望兄兮
あに瞻望せんぼう
兄曰嗟予弟
あにわん ああ おとうと
行役夙夜必偕
えききてはしゅくかならともにせよ
  • 偕 … 仲間といっしょにいること。
上愼旃哉
こいねがわくはこれつつしめよ
猶來無死
きたれ することかれ
  • 無死 … 死んではならんぞ。
余説
  • 岵 … 毛亨もうこう『毛伝』に「山に草木無きを岵と曰う」(山無艸木曰岵)とある。
  • 夙夜 … 鄭玄『鄭箋』に「夙は早、夜は莫(暮)なり」(夙早夜莫也)とある。
  • 無已 … 『鄭箋』に「無已は解倦すること無かれ」(無已無解倦)とある。
  • 上 … 『鄭箋』に「上は軍事に在りて部列を作すの時を謂う」(上者謂在軍事作部列時)とある。朱熹『詩集伝』に「上は猶お尚のごときなり」(上猶尚也)とある。
  • 猶 … 『毛伝』に「猶は可なり」(猶可也)とある。
  • 猶來無止 … 『集伝』に「猶お以て来り帰り、彼に止まりて来らざること無かる可きなり」(猶可以來歸、無止於彼而不來也)とある。
  • 屺 … 『毛伝』に「山に草木有るを屺と曰う」(山有艸木曰屺)とある。
  • 季 … 『毛伝』および『集伝』に「季は少子なり」(季少子也)とある。「少子」は末っ子。また、『集伝』に「尤も少子を憐愛するは、婦人の情なり」(尤憐愛少子者、婦人之情也)とある。
  • 無寐 … 『毛伝』に「無寐は寐ぬるをこのむ無きなり」(無寐無耆寐也)とある。
  • 棄 … 『集伝』に「棄は死んで其のしかばねを棄てらるるを謂うなり」(棄謂死而棄其尸也)とある。
  • 岡 … 『集伝』に「山の脊を岡と曰う」(山脊曰岡)とある。
  • 偕 … 『毛伝』に「偕は俱なり」(偕俱也)とある。
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