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巻耳(『詩経』国風・周南)

卷耳
巻耳けんじ
『詩経』国風・周南
  • 〔テキスト〕 『毛詩』巻一(『四部叢刊 初編経部』所収)、『詩集伝』巻一(『四部叢刊 三編経部』所収)、他
  • 雑言古詩。〔第一章〕筐(khiuang)・行(heang)(陽部)。〔第二章〕嵬(nguəi)・隤(duəi)・罍(luəi)・懷(hoəi)(微部)。〔第三章〕岡(kang)・黃(huang)・觥(koang)・傷(sjiang)(陽部)。〔第四章〕砠(tsia)・瘏(da)・痡(phiua)・吁(xiua)(魚部)。※王力『诗经韵读』(上海古籍出版社、1980年)の《诗经》入韵字音表(111~145頁)および147~148頁参照。
  • ウィキソース「詩經/卷耳」参照。
  • この詩は、第一章では妻が遠くにいる夫をしのんで詠んだもの。第二章以下は、夫が行役に従事して苦労している様子を詠んだもの。なお、第二章以下は第三者が夫の立場で表現したものであろう。
  • 巻耳 … 草の名。おなもみ。キク科の一年草。道端などに自生する。実にとげがあり、他にひっつく。ウィキペディア【オナモミ】参照。
  • 詩経 … 中国最古の詩集。305編。孔子が編集したといわれる。風(諸国の民謡)・雅(宮廷の音楽)・しょう(祭礼の歌)の三部からなる。風は国風ともいい、周南・召南・はいよう・衛・王・鄭・斉・魏・唐・秦・陳・檜・曹・ひんの十五に分かれる。雅は大雅・小雅の二つに分かれる。頌は周頌・魯頌・商頌の三つに分かれる。五経の一つ。十三経の一つ。『毛詩』『詩』ともいう。ウィキペディア【詩経】参照。
〔第一章〕
采采卷耳
巻耳けんじ
  • 采采 … 摘み取り、また摘む。「采」は「採」の仮借字。
不盈頃筐
けいきょうたず
  • 頃筐 … 後ろが高く、前が低い竹かご。「頃」は傾いていること。「筐」は竹かご。
  • 不盈 … いっぱいにならない。
嗟我懷人
ああ われ ひとおもいて
  • 嗟 … ああ。感嘆・嘆息するときの言葉。
  • 懐人 … あの人のことを思って。「人」は夫を指す。「懐」は思う。
寘彼周行
しゅうこう
  • 周行 … 大きな道。
  • 寘 … (かごを)置く。
〔第二章〕
陟彼崔嵬
崔嵬さいかいのぼれば
  • 崔嵬 … 石や岩がごろごろしている小高い山。
  • 陟 … 登る。
我馬虺隤
うま虺隤かいたいたり
  • 虺隤 … 疲れて足腰がなえ、がっくりしたさま。畳韻の語。
我姑酌彼金罍
われしばら金罍きんらい
  • 姑 … 「しばらく」と読む。ともかくも。とりあえず。
  • 金罍 … 黄金で飾った酒だる。「罍」は、雲雷の模様のある酒だるのこと。
維以不永懷
もっながおもわざらん
  • 維以 … 是以(ここをもって)に近い。「それゆえに」「これで」と訳す。
  • 不永懐 … いつまでもくよくよ思わないようにしよう。
〔第三章〕
陟彼高岡
高岡こうこうのぼれば
  • 高岡 … 高い山の尾根。「岡」は山の背。双声の語。
我馬玄黃
うま玄黄げんこうたり
  • 玄黄 … 馬が疲労したり、病気にかかったりすること。黒い馬が疲労したり病気にかかったりすると黄色になるということから。
我姑酌彼兕觥
われしばらこう
  • 兕觥 … つので作った大きな杯。「兕」は野牛に似た動物で、一本のつのがある。さいの一種ともいう。「觥」は、つのさかずき。
維以不永傷
もっながいたまざらん
  • 不永傷 … いつまでもくよくよ悲しまないようにしよう。
〔第四章〕
陟彼砠矣
のぼれば
  • 砠 … 石の積み重なっている岩山。
我馬瘏矣
うま みぬ
  • 瘏 … 疲れて進めない。
我僕痡矣
ぼく みぬ
  • 僕 … 御者ぎょしゃ。しもべの意ではない。
  • 痡 … 疲れて歩けない。疲れてのびる。へたばる。前句の「瘏」と合わせると「瘏痡とほ」という熟語になる。意味は疲れて行き悩むさま。
云何吁矣
云何いかんせん ああ
  • 云何 … 「いかんせん」と読み、「どうしたらよいか、いやどうしようもない」と反語に訳す。今後の処置を問う。「如何」と同じ。
  • 吁 … ああ。悲しみ嘆くときに発する言葉。
余説
  • 巻耳 … 毛亨もうこう『毛伝』に「巻耳はれいなり」(卷耳苓耳也)とある。また、朱熹『詩集伝』に「巻耳は枲耳しじ」(卷耳枲耳)とる。
  • 采采 … 『集伝』に「采采は一たび采るのみに非ざるなり」(采采非一采也)とある。
  • 頃筐 … 『毛伝』に「けいきょうほんの属、ち易きの器なり」(頃筐畚屬。易盈之器也)とある。「畚」は、ふご。もっこ。竹で編んで物を入れて運ぶもの。『集伝』に「頃は欹なり、筐は竹器」(頃欹也。筐竹器)とある。「欹」は斜めにそばだっていること。
  • 懐 … 『毛伝』に「懐は思う」(懷思)とある。『集伝』に「懐は思うなり」(懷思也)とある。
  • 寘 … 『毛伝』に「寘は置く」(寘置)とある。『集伝』に「寘はくなり」(寘舍也)とある。
  • 周行 … 『毛伝』に「行は列なり」(行列也)とある。鄭玄『鄭箋』に「周の列位」(周之列位)とある。『集伝』に「周行は大道なり」(周行大道也)とある。
  • 陟 … 『毛伝』および『集伝』に「陟は升るなり」(陟升也)とある。
  • 崔嵬 … 『毛伝』および『集伝』に「崔嵬さいかいは土の山の石をいただく者」(崔嵬土山之戴石者)とある。
  • 虺隤 … 『毛伝』に「虺隤かいたいは病むなり」(虺隤病也)とある。
  • 姑 … 『毛伝』および『集伝』に「姑は且なり」(姑且也)とある。「且」は、しばらくの意。
  • 永 … 『毛伝』および『集伝』に「永は長きなり」(永長也)とある。
  • 岡 … 『毛伝』および『集伝』に「山の脊を岡と曰う」(山脊曰岡)とある。
  • 玄黄 … 『毛伝』に「玄馬の病むは則ち黄」(玄馬病則黃)とある。『集伝』に「玄黄は玄馬にして黄」(玄黃玄馬而黃)とある。「玄馬」は黒い馬。
  • 兕觥 … 『毛伝』に「こうは角爵なり」(兕觥角爵也)とある。「爵」は、さかずき。『集伝』に「は野牛、一角にして青色、重さ千斤。こうは爵なり。兕角を以て爵と為すなり」(兕野牛。一角青色。重千斤。觥爵也。以兕角爲爵也)とある。
  • 傷 … 『毛伝』に「傷は思うなり」(傷思也)とある。
  • 砠 … 『毛伝』および『集伝』に「石の山の土をいただくを砠と曰う」(石山戴土曰砠)とある。
  • 瘏 … 『毛伝』に「は病むなり」(瘏病也)とある。『集伝』に「は馬病んで進む能わざるなり」(瘏馬病不能進也)とある。
  • 痡 … 『毛伝』に「た病むなり」(痡亦病也)とある。『集伝』に「は人病んで行く能わざるなり」(痡人病不能行也)とある。
  • 吁 … 『毛伝』に「吁は憂うるなり」(吁憂也)とある。『集伝』に「吁は憂え嘆ずるなり」(吁憂嘆也)とある。
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