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凱風(『詩経』国風・邶風)

凱風
凱風がいふう
『詩経』国風・邶風はいふう
  • 〔テキスト〕 『毛詩』巻二(『四部叢刊 初編経部』所収)、『詩集伝』巻二(『四部叢刊 三編経部』所収)、他
  • 四言古詩。〔第一章〕南(nəm)・心(siəm)(侵部)。夭(iô)・勞(lô)(宵部)。〔第二章〕薪(sien)・人(njien)(真部)。〔第三章〕下(hea)・苦(kha)(魚部)。〔第四章〕音(iəm)・心(siəm)(侵部)。※王力『诗经韵读』(上海古籍出版社、1980年)の《诗经》入韵字音表(111~145頁)および164頁参照。
  • ウィキソース「詩經/凱風」参照。
  • この詩は苦労して育ててくれた母親に対し、親孝行できていない子どもたちの心苦しい気持ちを述べた歌。なお、七人の子がありながら、再婚しようとする母親を子どもたちが諫める歌とする説もあるが、ここでは採らない。
  • 凱風 … 南風。そよ風。
  • 詩経 … 中国最古の詩集。305編。孔子が編集したといわれる。風(諸国の民謡)・雅(宮廷の音楽)・しょう(祭礼の歌)の三部からなる。風は国風ともいい、周南・召南・はいよう・衛・王・鄭・斉・魏・唐・秦・陳・檜・曹・ひんの十五に分かれる。雅は大雅・小雅の二つに分かれる。頌は周頌・魯頌・商頌の三つに分かれる。五経の一つ。十三経の一つ。『毛詩』『詩』ともいう。ウィキペディア【詩経】参照。
〔第一章〕
凱風自南
凱風がいふう みなみよりし
  • 凱風 … 南風。そよ風。
  • 自南 … 南から吹いてきて。
  • 自 … 「より」と読み、「~から」と訳す。時間・場所などの起点を示す。
吹彼棘心
きょくしん
  • 彼 … 語調を整えるための言葉なので、訳さなくてもよい。
  • 棘心 … いばらの木の芽。ここでは育てるのに苦労する幼い子どもに喩えている。
棘心夭夭
きょくしん 夭夭ようようたり
  • 夭夭 … 若々しい様子。
母氏劬勞
母氏ぼし ろう
  • 母氏 … 母親。
  • 劬労 … 働いて疲れること。苦労。
〔第二章〕
凱風自南
凱風がいふう みなみよりし
吹彼棘薪
きょくしん
  • 棘薪 … いばらの木のみき。ここでは子どもが成長してきたことに喩えている。
母氏聖善
母氏ぼし 聖善せいぜんなるに
  • 聖善 … すぐれて立派な人。
我無令人
われ令人れいじん
  • 我 … 自分たち。子どもたち。
  • 令人 … 立派な人。ここではよい子ども。役立つ子ども。
〔第三章〕
爰有寒泉
ここ寒泉かんせん
  • 爰 … 「ここに」と読むが、これも語調を整えるための言葉なので、訳さなくてもよい。
  • 寒泉 … 冷たい泉。
在浚之下
しゅんもと
  • 浚 … 町の名。今の河南省濮陽ぼくよう県にあった。
  • 下 … 低い所。
有子七人
り 七人しちにん
母氏勞苦
母氏ぼし ろう
  • 労苦 … 苦労する。苦労をかけている。
〔第四章〕
睍睆黃鳥
睍睆けんかんたるこうちょう
  • 睍睆 … 容姿の美しいさま。または、声の清らかなさま。
  • 黄鳥 … 高麗うぐいす。ウィキペディア【コウライウグイス】参照。
載好其音
すなわおとくす
  • 載 … 「すなわち」と読み、「そこで」「すなわちそれは」「そのうぐいすは」と訳す。
  • 好其音 … よい声で鳴いている。
有子七人
り 七人しちにん
莫慰母心
ははこころなぐさむる
  • 莫 … 「無」と同じ。
余説
  • 凱風 … 毛亨もうこう『毛伝』に「南風は之を凱風と謂う。夏の長養を楽しむなり」(南風謂之凱風。樂夏之長養)とある。朱熹『詩集伝』に「南風は之を凱風と謂う。万物を長養する者なり」(南風謂之凱風。長養萬物者也)とある。
  • 棘 … 『毛伝』に「棘は長養し難き者」(棘難長養者)とある。鄭玄『鄭箋』に「棘は七子を喩うるなり」(棘喩七子也)とある。『集伝』に「棘は小木叢生し、とげ多く長じ難し」(棘小木叢生、多刺難長)とある。
  • 夭夭 … 『毛伝』に「夭夭は盛んなる貌」(夭夭盛貌)とある。『集伝』に「夭夭はわかく好き貌」(夭夭少好貌)とある。
  • 劬労 … 『毛伝』および『集伝』に「劬勞は病苦なり」(劬勞病苦也)とある。
  • 棘薪 … 『毛伝』に「棘薪は其の成就せる者」(棘薪其成就者)とある。
  • 聖 … 『毛伝』に「聖は叡なり」(聖叡也)とある。
  • 令 … 『鄭箋』に「令は善なり」(令善也)とある。
  • 浚 … 『毛伝』に「浚は衛の邑なり。浚の下に在り。浚に益有るを言う」(浚衞邑也。在浚之下。言有益於浚)とある。
  • 睍睆 … 『毛伝』に「睍睆は好き貌」(睍睆好貌)とある。
  • 慰 … 『毛伝』に「慰は安んずるなり」(慰安也)とある。
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