史記 五帝本紀第一(舜帝)
- 13 虞舜者、名曰重華……
- 14 舜冀州之人也……
- 15 堯乃賜舜絺衣与琴……
- 16 昔、高陽氏有才子八人……
- 17 昔、帝鴻氏有不才子……
- 18 舜入于大麓、烈風雷雨……
- 19 舜謂四岳曰、有能奮庸……
- 20 舜曰、嗟、四岳、有能典……
- 21 舜曰、嗟、女二十有二人……
- 22 舜年二十以孝聞、年三十……
- 23 自黄帝至舜禹、皆同姓……
13 虞舜者、名曰重華。重華父曰瞽叟、瞽叟父曰橋牛、橋牛父曰句望、句望父曰敬康、敬康父曰窮蝉、窮蝉父曰帝顓頊、顓頊父曰昌意。
虞舜は、名は重華と曰う。重華の父は瞽叟と曰い、瞽叟の父は橋牛と曰い、橋牛の父は句望と曰い、句望の父は敬康と曰い、敬康の父は窮蝉と曰い、窮蝉の父は帝顓頊と曰い、顓頊の父は昌意と曰う。
- ウィキソース「史記/卷001」「史記三家註/卷001」参照。
- 虞舜 … 古代の伝説上の聖天子。姓は姚。虞に国を建てたので虞舜、または有虞氏と呼ばれる。堯から譲位を受け皇帝となった。ウィキペディア【舜】参照。
- 重華 … 舜の名。一説に舜の号。
以至舜七世矣。自從窮蝉以至帝舜、皆微爲庶人。
以て舜に至るまで七世なり。窮蝉より以て帝舜に至るまで、皆微にして庶人たり。
- 自従 … 「より」と読み、「~から」「~より」と訳す。時の起点をあらわす言葉。
舜父瞽叟盲、而舜母死、瞽叟更娶妻而生象。象傲。
舜の父瞽叟は盲にして、舜の母死し、瞽叟、更に妻を娶りて象を生む。象傲る。
瞽叟愛後妻子、常欲殺舜。舜避逃。及有小過、則受罪。順事父及後母與弟、日以篤謹、匪有解。
瞽叟、後妻の子を愛し、常に舜を殺さんと欲す。舜、避け逃る。小過有るに及べば、則ち罪を受く。父及び後母と弟とに順事すること、日に以て篤謹にして、解ること有らず。
- 匪 … 「~ず」「あらず」と読み、「~でない」と訳す。「非」と同義。
14 舜冀州之人也。舜耕歷山、漁雷澤、陶河濱、作什器於壽丘、就時於負夏。
舜は冀州の人なり。舜、歴山に耕し、雷沢に漁し、河浜に陶し、什器を寿丘に作り、時に負夏に就く。
舜父瞽叟頑、母嚚、弟象傲、皆欲殺舜。
舜の父瞽叟は頑に、母は嚚に、弟象は傲り、皆舜を殺さんと欲す。
舜順適不失子道。兄弟孝慈、欲殺不可得。即求嘗在側。
舜、順適して子道を失わず。兄弟孝慈、殺さんと欲すれども得可からず。即し求むれば嘗に側に在り。
舜年二十以孝聞。三十而帝堯問可用者。四嶽咸薦虞舜曰、可。
舜、年二十にして孝を以て聞ゆ。三十にして帝堯、用う可き者を問う。四岳、咸虞舜を薦めて曰く、可なり、と。
於是堯乃以二女妻舜、以觀其内、使九男與處、以觀其外。
是に於いて、堯乃ち二女を以て舜に妻せ、以て其の内を観、九男をして与に処らしめ、以て其の外を観る。
舜居媯汭、内行彌謹。堯二女不敢以貴驕事舜親戚、甚有婦道。
舜、媯汭に居り、内行弥〻謹む。堯の二女、敢えて貴きを以て舜の親戚に驕事せず、甚だ婦道有り。
- 媯汭 … 媯水の流れの入りこんで曲がった所。舜が堯の二人の娘をめとった所。現在の山西省永済市にあるという。「汭」は、川が曲がって入りこんだ所。
堯九男皆益篤。舜耕歷山、歷山之人皆讓畔。漁雷澤、雷澤上人皆讓居。陶河濱、河濱器皆不苦窳。
堯の九男皆益〻篤し。舜、歴山に耕す、歴山の人皆畔を譲る。雷沢に漁す、雷沢の上の人皆居を譲る。河浜に陶す、河浜の器皆苦窳せず。
一年而所居成聚、二年成邑、三年成都。
一年にして居る所聚を成し、二年にして邑を成し、三年にして都を成す。
15 堯乃賜舜絺衣與琴、爲築倉廩、予牛羊。
堯、乃ち舜に絺衣と琴とを賜い、為に倉廩を築き、牛羊を予う。
瞽叟尚復欲殺之、使舜上塗廩、瞽叟從下縱火焚廩。
瞽叟、尚復た之を殺さんと欲し、舜をして上りて廩を塗らしめ、瞽叟下より火を縦ちて廩を焚く。
舜乃以兩笠、自扞而下去、得不死。
舜、乃ち両笠を以て、自ら扞ぎ下り去り、死せざるを得たり。
後瞽叟又使舜穿井。舜穿井爲匿空旁出。
後、瞽叟又舜をして井を穿たしむ。舜、井を穿ち、匿空の旁出せるを為る。
舜既入深。瞽叟與象共下土實井。舜從匿空出去。
舜既に入ること深し。瞽叟、象と共に土を下し井に実たす。舜、匿空より出で去る。
瞽叟、象喜、以舜爲已死。
瞽叟・象喜び、舜を以て已に死せりと為す。
象曰、本謀者象。象與其父母分。於是曰、舜妻堯二女、與琴、象取之。牛羊倉廩予父母。
象曰く、本謀る者は象なり、と。象、其の父母と与に分たんとす。是に於いて曰く、舜の妻なる堯の二女と琴とは象之を取らん。牛羊倉廩は父母に予えん、と。
象乃止舜宮居、鼓其琴。舜往見之。
象乃ち舜の宮に止まり居りて、其の琴を鼓す。舜往きて之を見る。
象鄂不懌曰、我思舜正鬱陶。
象、鄂として懌ばずして曰く、我、舜を思い、正に鬱陶たり、と。
舜曰、然。爾其庶矣。舜復事瞽叟愛弟彌謹。於是堯乃試舜五典百官。皆治。
舜曰く、然り。爾其れ庶し、と。舜、復た瞽叟に事え、弟を愛して弥〻謹めり。是に於いて、堯乃ち舜を五典百官に試む。皆治まれり。
16 昔、高陽氏有才子八人。世得其利、謂之八愷。高辛氏有才子八人。世謂之八元。
昔、高陽氏に才子八人有り。世、其の利を得、之を八愷と謂う。高辛氏に才子八人有り。世、之を八元と謂う。
此十六族者、世濟其美、不隕其名至於堯。
此の十六族の者、世〻其の美を済し、其の名を隕さずして堯に至る。
堯未能舉。舜舉八愷、使主后土、以揆百事。莫不時序。
堯、未だ挙ぐること能わず。舜、八愷を挙げ、后土を主らしめ、以て百事を揆る。時に序でざるは莫し。
舉八元、使布五教于四方。父義、母慈、兄友、弟恭、子孝、内平外成。
八元を挙げ、五教を四方に布かしむ。父は義、母は慈、兄は友、弟は恭、子は孝、内平かに外成る。
17 昔、帝鴻氏有不才子。掩義隱賊、好行凶慝。天下謂之渾沌。
昔、帝鴻氏に不才子有り。義を掩い賊を隠し、好みて凶慝を行う。天下、之を渾沌と謂う。
少皞氏有不才子。毀信惡忠、崇飾惡言。天下謂之窮奇。
少皞氏に不才子有り。信を毀り忠を悪み、悪言を崇飾す。天下、之を窮奇と謂う。
- 崇飾 … 立派に飾ること。
顓頊氏有不才子。不可教訓。不知話言。天下謂之檮杌。
顓頊氏に不才子有り。教訓す可からず。話言を知らず。天下、之を檮杌と謂う。
此三族世憂之、至于堯。堯未能去。
此の三族は世〻之を憂え、堯に至る。堯未だ去ること能わず。
縉雲氏有不才子。貪于飲食、冒于貨賄。天下謂之饕餮。天下惡之、比之三凶。
縉雲氏に不才子有り。飲食を貪り、貨賄を冒る。天下、之を饕餮と謂う。天下、之を悪み、之を三凶に比す。
舜賓於四門、乃流四凶族、遷于四裔、以御螭魅。於是四門辟。言毋凶人也。
舜、四門に賓し、乃ち四凶族を流して、四裔に遷し、以て螭魅を御ぐ。是に於いて四門辟く。凶人毋きを言うなり。
18 舜入于大麓、烈風雷雨不迷。堯乃知舜之足授天下。
舜、大麓に入り、烈風・雷雨にも迷わず。堯乃ち舜の天下を授くるに足るを知る。
堯老、使舜攝行天子政、巡狩。舜得舉用事二十年、而堯使攝政。
堯老い、舜をして天子の政を摂行し、巡狩せしむ。舜、挙げらるるを得、事を用うること二十年にして、堯、政を摂せしむ。
攝政八年而堯崩。三年喪畢、讓丹朱。天下歸舜。
政を摂すること八年にして堯崩ず。三年の喪畢り、丹朱に譲る。天下、舜に帰す。
而禹、皋陶、契、后稷、伯夷、夔、龍、倕、益、彭祖、自堯時而皆舉用、未有分職。
而して禹・皐陶、契、后稷、伯夷、夔、龍、倕、益、彭祖、堯の時より皆挙用せられたれども、未だ分職有らず。
於是舜乃至於文祖、謀于四嶽、辟四門、明通四方耳目。
是に於いて舜乃ち文祖に至り、四岳に謀り、四門を辟き、明らかに四方の耳目を通ず。
命十二牧。論帝德、行厚德、遠佞人、則蠻夷率服。
十二牧に命ず。帝徳を論じ、厚徳を行い、佞人を遠ざくるときは、則ち蛮夷率いて服せん、と。
19 舜謂四嶽曰、有能奮庸美堯之事者、使居官相事。
舜、四岳に謂いて曰く、能く庸を奮にし、堯の事を美くする者有らば、官に居り、事を相けしめん、と。
皆曰、伯禹爲司空、可美帝功。
皆曰く、伯禹、司空とならば、帝の功を美くす可し。
舜曰、嗟、然、禹、汝平水土。維是勉哉。
舜曰く、嗟、然り、禹、汝、水土を平にせよ。維れ是れ勉めよや、と。
禹拜稽首、讓於稷、契與皋陶。舜曰、然、往矣。
禹拝稽首し、稷・契と皐陶とに譲る。舜曰く、然り、往けよ、と。
舜曰、弃、黎民始飢、汝后稷、播時百穀。
舜曰く、弃、黎民始めて飢う、汝、稷に后となり、時に百穀を播け、と。
舜曰、契、百姓不親。五品不馴。汝爲司徒、而敬敷五教、在寛。
舜曰く、契、百姓親しまず。五品馴わず。汝、司徒と為りて、敬みて五教を敷き、寛に在れ、と。
舜曰、皋陶、蠻夷猾夏、寇賊姦軌。
舜曰く、皐陶、蛮夷、夏を猾り、寇賊姦軌あり。
汝作士、五刑有服、五服三就、五流有度、五度三居。維明能信。
汝、士と作り、五刑は服有り、五服は三就し、五流は度有り、五度は三居し、維れ明らかに能く信なれ。
舜曰、誰能馴予工。皆曰垂可。於是以垂爲共工。
舜曰く、誰か能く予が工に馴わん、と。皆曰く、垂、可なり、と。是に於いて垂を以て共工と為す。
舜曰、誰能馴予上下草木鳥獸、皆曰益可。於是以益爲朕虞。
舜曰く、誰か能く予が上下の草木鳥獣に馴わん、と、皆曰く、益、可なり、と。是に於いて益を以て朕が虞と為す。
益拜稽首、讓于諸臣朱虎、熊羆。舜曰、往矣、汝諧。遂以朱虎、熊羆爲佐。
益、拝稽首し、諸臣、朱虎・熊羆に譲る。舜曰く、往け、汝諧げよ、と。遂に朱虎・熊羆を以て佐と為す。
20 舜曰、嗟、四嶽、有能典朕三禮。皆曰伯夷可。
舜曰く、嗟、四岳、能く朕が三礼を典るもの有らんか、と。皆曰く、伯夷可なり、と。
舜曰、嗟、伯夷、以汝爲秩宗。夙夜維敬、直哉。維靜絜。
舜曰く、嗟、伯夷、汝を以て秩宗と為す。夙夜維れ敬み、直なれや。維れ静絜なれ、と。
伯夷讓夔、龍。舜曰、然。以夔爲典樂、教穉子。
伯夷、夔・龍に譲る。舜曰く、然り、と。夔を以て典楽と為し、稚子を教えしむ。
直而温、寛而栗、剛而毋虐、簡而毋傲。
直にして而も温、寛にして而も栗、剛にして而も虐する毋く、簡にして而も傲る毋かれ。
詩言意、歌長言、聲依永、律和聲。八音能諧、毋相奪倫、神人以和。
詩は意を言い、歌は言を長くし、声は永きに依り、律は声を和す。八音能く諧ぎ、倫を相奪うこと毋くんば、神人以て和せん、と。
夔曰、於、予撃石拊石、百獸率舞。
夔曰く、於、予、石を撃ち石を拊てば、百獣率いて舞わん、と。
舜曰、龍、朕畏忌讒説殄僞、振驚朕衆。命汝爲納言。夙夜出入朕命、惟信。
舜曰く、龍、朕、讒説の偽を殄ち、朕が衆を振驚するを畏忌す。汝に命じて納言と為す。夙夜朕が命を出入して、惟れ信なれ、と。
21 舜曰、嗟、女二十有二人、敬哉、惟時相天事。三歳一考功、三考絀陟。遠近衆功咸興。分北三苗。
舜曰く、嗟、女二十有二人、敬めよや、惟れ時れ天事を相けよ、と。三歳に一たび功を考え、三考して絀陟す。遠近の衆功咸興る。三苗を分北す。
此二十二人咸成厥功。皋陶爲大理平、民各伏得其實。
此の二十二人、咸厥の功を成す。皐陶、大理と為り平かに、民各〻伏して其の実を得。
伯夷主禮、上下咸讓。垂主工師、百工致功。益主虞、山澤辟。弃主稷、百穀時茂。契主司徒、百姓親和。龍主賓客、遠人至。
伯夷、礼を主り、上下咸譲る。垂、工師を主り、百工功を致す。益、虞を主り、山沢辟く。弃、稷を主り、百穀時に茂る。契、司徒を主り、百姓親和す。龍、賓客を主り、遠人至る。
十二牧行而九州莫敢辟違。唯禹之功爲大。披九山、通九澤、決九河、定九州。
十二牧行きて、九州敢えて辟違するもの莫し。唯禹の功を大なりと為す。九山を披き、九沢を通じ、九河を決し、九州を定む。
各以其職來貢、不失厥宜。
各〻其の職を以て来貢し、厥の宜しきを失わず。
方五千里、至于荒服、南撫交阯、北發、西戎、析枝、渠廋、氐羌、北山戎、發、息慎、東長、鳥夷、四海之内、咸戴帝舜之功。
方五千里、荒服に至るまで、南は交阯・北発、西は戎・析枝・渠廋・氐羌、北は山戎・発・息慎、東は長・鳥夷を撫し、四海の内、咸帝舜の功を戴く。
於是、禹乃興九招之樂、致異物、鳳皇來翔。天下明德、皆自虞帝始。
是に於いて、禹乃ち九招の楽を興し、異物を致し、鳳皇来り翔る。天下の徳を明らかにする、皆虞帝より始まる。
22 舜年二十以孝聞、年三十堯舉之、年五十攝行天子事。年五十八堯崩。
舜、年二十にして孝を以て聞え、年三十にして堯、之を挙げ、年五十にして天子の事を摂行す。年五十八にして堯崩ず。
年六十一代堯踐帝位。踐帝位三十九年、南巡狩、崩於蒼梧之野。
年六十一にして堯に代りて帝位を践む。帝位を践むこと三十九年、南に巡狩し、蒼梧の野に崩ず。
葬於江南九疑。是爲零陵。
江南の九疑に葬る。是を零陵と為す。
舜之踐帝位、載天子旗、往朝父瞽叟。夔夔唯謹、如子道。封弟象爲諸侯。
舜、帝位を践むや、天子の旗を載せ、往きて父瞽叟に朝す。夔夔として唯謹み、子の道の如くす。弟の象を封じて諸侯と為す。
舜子商均亦不肖。舜乃豫薦禹於天。十七年而崩。三年喪畢、禹亦乃讓舜子、如舜讓堯子。諸侯歸之。然後禹踐天子位。
舜の子商均も亦た不肖なり。舜乃ち予め禹を天に薦む。十七年にして崩ず。三年の喪畢り、禹も亦た乃ち舜の子に譲ること、舜の堯の子に譲れるが如くす。諸侯之に帰す。然る後禹天子の位を践む。
堯子丹朱、舜子商均、皆有彊土、以奉先祀。
堯の子丹朱、舜の子商均、皆彊土を有ち、以て先祀を奉ず。
服其服、禮樂如之、以客見天子。天子弗臣、示不敢專也。
其の服を服し、礼楽之の如くし、客を以て天子に見ゆ。天子、臣とせざるは、敢えて専らにせざるを示すなり。
23 自黃帝至舜禹、皆同姓。而異其國號、以章明德。
黄帝より舜・禹に至るまで、皆同姓なり。而して其の国号を異にし、以て明徳を章かにす。
故黃帝爲有熊、帝顓頊爲高陽、帝嚳爲高辛、帝堯爲陶唐、帝舜爲有虞、帝禹爲夏后。
故に黄帝を有熊と為し、帝顓頊を高陽と為し、帝嚳を高辛と為し、帝堯を陶唐と為し、帝舜を有虞と為し、帝禹を夏后と為す。
而別氏、姓姒氏。契爲商、姓子氏。弃爲周、姓姫氏。
而して氏を別って、姓は姒氏。契を商と為す、姓は子氏。弃を周と為す、姓は姫氏。
五帝本紀第一(黄帝) | 五帝本紀第一(顓頊) |
五帝本紀第一(高辛) | 五帝本紀第一(堯帝) |
五帝本紀第一(舜帝) | 五帝本紀第一(賛) |
楚元王世家第二十 | 司馬穣苴列伝第四 |
田単列伝第二十二 |