史記 五帝本紀第一(堯帝)
- 06 帝堯者放勲、其仁如天……
- 07 乃命羲和、敬順昊天……
- 08 堯曰、誰可順此事……
- 09 堯曰、嗟、四嶽、朕在位……
- 10 乃使舜慎和五典……
- 11 舜乃在璿璣玉衡……
- 12 堯立七十年得舜……
06 帝堯者放勳、其仁如天、其知如神、就之如日、望之如雲。
帝堯は放勲、其の仁は天の如く、其の知は神の如く、之に就くこと日の如く、之を望むこと雲の如し。
- ウィキソース「史記/卷001」「史記三家註/卷001」参照。
- 堯 … 古代の伝説上の聖天子。名は放勲。舜を後継者として皇帝の位を譲った。ウィキペディア【堯】参照。
富而不驕、貴而不舒。
富めども驕らず、貴けれども舒らず。
黃收純衣、彤車乘白馬。能明馴德、以親九族。九族既睦、便章百姓。百姓昭明、合和萬國。
黄収純衣、彤車にして白馬に乗る。能く馴徳を明らかにし、以て九族を親しむ。九族既に睦まじくして、百姓を便章す。百姓昭明にして、万国を合和す。
07 乃命羲和、敬順昊天、數法日月星辰、敬授民時。
乃ち羲・和に命じ、敬みて昊天に順い、日月星辰を数え法り、敬みて民に時を授けしむ。
分命羲仲、居郁夷、曰暘谷。
分ちて羲仲に命じて、郁夷に居らしむ、暘谷と曰う。
敬道日出、便程東作。日中、星鳥、以殷中春。其民析、鳥獸字微。
敬みて日の出づるを道き、東作を便程す。日は中、星は鳥、以て中春を殷す。其の民は析れ、鳥獣は字微す。
申命羲叔、居南交。便程南爲、敬致。日永、星火、以正中夏。
申ねて羲叔に命じて、南交に居らしむ。南為を便程し、敬みて致す。日は永く、星は火、以て中夏を正す。
其民因、鳥獸希革。申命和仲、居西土、曰昧谷。
其の民は因り、鳥獣は希革す。申ねて和仲に命じて、西土に居らしむ、昧谷と曰う。
敬道日入、便程西成。夜中、星虚、以正中秋。
敬みて日の入るを道き、西成を便程。夜は中、星は虚、以て中秋を正す。
其民夷易、鳥獸毛毨。申命和叔、居北方、曰幽都。
其の民は夷易し、鳥獣は毛毨す。申ねて和叔に命じて、北方に居らしむ、幽都と曰う。
便在伏物。日短、星昴、以正中冬。
伏物を便在す。日は短く、星は昴、以て中冬を正す。
其民燠、鳥獸氄毛。歳三百六十六日、以閏月正四時。信飭百官、衆功皆興。
其の民は燠まり、鳥獣は氄毛す。歳三百六十六日、閏月を以て四時を正す。信に百官を飭え、衆功皆興る。
08 堯曰、誰可順此事。放齊曰、嗣子丹朱開明。
堯曰く、誰か此の事に順う可き、と。放斉曰く、嗣子丹朱開明なり、と。
堯曰、吁、頑凶、不用。堯又曰、誰可者。讙兜曰、共工旁聚布功、可用。
堯曰く、吁、頑凶なり、用いられず、と。堯又曰く、誰か可なる者ぞ、と。讙兜曰く、共工は旁く聚めて功を布かん、用う可し、と。
- 旁 … 底本では「」に作る。旁の本字。
堯曰、共工善言、其用僻。似恭漫天。不可。
堯曰く、共工は善く言えども、其の用うるや僻す。恭に似たれども天を漫る。不可なり、と。
堯又曰、嗟、四嶽、湯湯洪水滔天、浩浩懷山襄陵。下民其憂、有能使治者。
堯又曰く、嗟、四岳、湯湯たる洪水天に滔り、浩浩として山を懐み陵に襄る。下民其れ憂う、能く治めしむる者有らんや、と。
皆曰、鯀可。堯曰、鯀負命毀族、不可。
皆曰く、鯀可なり、と。堯曰く、鯀は命に負き族を毀る、不可なり、と。
嶽曰、异哉、試不可用而已。
岳曰く、异げんかな、試みて、用う可からずんば而ち已めん、と。
堯於是聽嶽用鯀。九歳功用不成。
堯是に於いて岳に聴きて鯀を用う。九歳まで功用成らず。
09 堯曰、嗟、四嶽、朕在位七十載、汝能庸命。踐朕位。
堯曰く、嗟、四岳、朕、位に在ること七十載、汝能く命を庸う。朕が位を践め、と。
嶽應曰、鄙悳、忝帝位。
岳応えて曰く、鄙徳なり、帝位を忝しめん、と。
堯曰、悉舉貴戚及疏遠隱匿者。
堯曰く、悉く貴戚及び疏遠隠匿の者を挙げよ、と。
衆皆言於堯曰、有矜在民閒、曰虞舜。
衆皆堯に言いて曰く、矜有りて民間に在り、虞舜と曰う、と。
- 虞舜 … 古代の伝説上の聖天子。姓は姚。虞に国を建てたので虞舜、または有虞氏と呼ばれる。堯から譲位を受け皇帝となった。ウィキペディア【舜】参照。
堯曰、然、朕聞之。其何如。
堯曰く、然り、朕も之を聞けり。其れ何如。
嶽曰、盲者子。父頑、母嚚、弟傲、能和以孝、烝烝治不至姦。
岳曰く、盲者の子。父は頑に、母は嚚に、弟は傲なるも、能く和ぐるに孝を以てし、烝烝として治めて姦に至らしめず、と。
堯曰、吾其試哉。
堯曰く、吾、其れ試みんかな、と。
於是堯妻之二女、觀其徳於二女。舜飭下二女於媯汭、如婦禮。堯善之。
是に於いて堯は之に二女を妻せ、其の徳の二女に於けるを観る。舜、二女を媯汭に飭え下し、婦の礼の如くす。堯、之を善みす。
- 媯汭 … 媯水の流れの入りこんで曲がった所。舜が堯の二人の娘をめとった所。現在の山西省永済市にあるという。「汭」は、川が曲がって入りこんだ所。
10 乃使舜慎和五典。五典能從。乃徧入百官。百官時序、賓於四門。四門穆穆、諸侯遠方賓客皆敬。堯使舜入山林川澤。暴風雷雨、舜行不迷。堯以爲聖。
乃ち舜をして慎みて五典を和げしむ。五典能く従う。乃ち徧く百官に入らしむ。百官時れ序し、四門に賓せしむ。四門穆穆たり、諸侯、遠方の賓客、皆敬す。堯、舜をして山林・川沢に入らしむ。暴風・雷雨にも、舜行きて迷わず。堯以て聖と為す。
召舜曰、女謀事至、而言可績三年矣。女登帝位。
舜を召して曰く、女、事を謀ること至り、而して言、績とす可きこと三年。女、帝位に登れ、と。
舜讓於徳、不懌。正月上日、舜受終於文祖。文祖者堯大祖也。於是帝堯老、命舜攝行天子之政、以觀天命。
舜、徳に譲り、懌ばず。正月上日、舜、終を文祖に受く。文祖とは堯の大祖なり。是に於いて帝堯老し、舜に命じて天子の政を摂行せしめ、以て天命を観る。
11 舜乃在璿璣玉衡、以齊七政。遂類于上帝、禋于六宗、望于山川、辯于羣神。
舜乃ち璿璣玉衡を在かにし、以て七政を斉う。遂に上帝に類し、六宗に禋し、山川に望し、群神に弁す。
揖五瑞、擇吉月日、見四嶽諸牧、班瑞。
五瑞を揖め、吉月日を択び、四岳・諸牧を見、瑞を班つ。
- 牧 … 中華書局標点本では「牲」に作る。
歳二月、東巡狩、至於岱宗、祡、望秩於山川。
歳の二月、東に巡狩し、岱宗に至り、祡し、山川を望秩す。
- 祡 … 柴を焼いて天を祀ること。
遂見東方君長、合時月、正日、同律度量衡、脩五禮、五玉三帛二生一死爲摯、如五器、卒乃復。
遂に東方の君長を見、時月を合わせ、日を正しゅうし、律度量衡を同じゅうし、五礼を修め、五玉・三帛・二生・一死を摯と為し、五器を如しゅうし、卒れば乃ち復す。
五月、南巡狩、八月、西巡狩、十一月、北巡狩。皆如初。
五月、南に巡狩し、八月、西に巡狩し、十一月、北に巡狩す。皆初めの如し。
歸至于祖禰廟、用特牛禮。五歳一巡狩、羣后四朝。徧告以言、明試以功、車服以庸。
帰りて祖禰の廟に至り、特牛の礼を用う。五歳に一たび巡狩し、群后四たび朝す。徧く告ぐるに言を以てし、明らかに試みるに功を以てし、車服は庸を以てす。
- 祖禰 … 先祖と父のみたまや。
肇十有二州、決川。象以典刑、流宥五刑、鞭作官刑、扑作教刑、金作贖刑、眚烖過赦、怙終賊刑。欽哉、欽哉、惟刑之靜哉。
十有二州を肇め、川を決す。象するに典刑を以てし、流して五刑を宥し、鞭を官刑と作し、扑を教刑と作し、金を贖刑と作し、眚烖の過ちは赦し、怙終の賊をば刑す。欽めよや、欽めよや、惟れ刑を之れ静かにせんかな、と。
讙兜進言共工。堯曰不可。而試之工師。共工果淫辟。四嶽舉鯀治鴻水。
讙兜、共工を進め言う。堯曰く、不可なり、と。而して之を工師に試む。共工果して淫辟なり。四岳、鯀を挙げて鴻水を治めしめんとす。
堯以爲不可。嶽彊請試之。試之而無功。故百姓不便。
堯、以て不可と為す。岳、彊いて之を試みんと請う。之を試みたれども功無し。故に百姓、便とせず。
三苗在江淮荊州、數爲亂。
三苗、江・淮・荊州に在りて、数〻乱を為す。
於是舜歸而言於帝、請流共工於幽陵、以變北狄、放驩兜於崇山、以變南蠻、遷三苗於三危、以變西戎、殛鯀於羽山、以變東夷。四辠而天下咸服。
是に於いて、舜、帰りて帝に言い、請うて共工を幽陵に流し、以て北狄に変じ、驩兜を崇山に放ち、以て南蛮に変じ、三苗を三危に遷し、以て西戎に変じ、鯀を羽山に殛し、以て東夷に変ず。四辠して天下咸服す。
- 咸 … 「みな」と読む。すべて。
12 堯立七十年得舜、二十年而老、令舜攝行天子之政、薦之於天。堯辟位凡二十八年而崩。
堯立ちて七十年にして舜を得、二十年にして老し、舜をして天子の政を摂行せしめ、之を天に薦む。堯、位を辟けて凡そ二十八年にして崩ず。
百姓悲哀、如喪父母。三年、四方莫舉樂、以思堯。
百姓悲哀し、父母を喪うが如し。三年、四方、楽を挙ぐる莫く、以て堯を思う。
堯知子丹朱之不肖、不足授天下。於是乃權授舜。
堯、子の丹朱の不肖にして、天下を授くるに足らざるを知る。是に於いて乃ち権りて舜に授く。
授舜、則天下得其利、而丹朱病。授丹朱、則天下病而丹朱得其利。
舜に授くれば、則ち天下其の利を得て、丹朱病まん。丹朱に授くれば、則ち天下病みて丹朱其の利を得ん。
堯曰、終不以天下之病而利一人。而卒授舜以天下。
堯曰く、終に天下の病を以て一人を利せじ、と。而して卒に舜に授くるに天下を以てす。
堯崩、三年之喪畢、舜讓辟丹朱於南河之南。
堯崩じ、三年の喪畢り、舜、譲りて丹朱を南河の南に辟く。
諸侯朝覲者不之丹朱而之舜、獄訟者不之丹朱而之舜、謳歌者不謳歌丹朱而謳歌舜。舜曰、天也夫。而後之中國踐天子位焉。是爲帝舜。
諸侯の朝覲する者、丹朱に之かずして舜に之き、獄訟する者、丹朱に之かずして舜に之き、謳歌する者、丹朱を謳歌せずして舜を謳歌す。舜曰く、天なるかな、と。而して後、中国に之き、天子の位を践む。是を帝舜と為す。
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