軍城早秋(厳武)
軍城早秋
軍城早秋
軍城早秋
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻二百六十一、『唐詩品彙』巻四十八、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十二(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、60頁)、他
- 七言絶句。關・山・還(平声刪韻)。
- ウィキソース「軍城早秋 (嚴武)」参照。
- 軍城 … 軍隊が駐屯している町。
- 早秋 … 初秋。陰暦七月。
- この詩は、広徳二年(764)秋、作者が成都尹兼剣南節度使として再度成都に赴任した時、吐蕃を撃退しようとする意気を詠んだもの。なお杜甫の「奉和厳武軍城早秋」は、この詩に唱和したもの。
- 厳武 … 726~765。盛唐の詩人、官僚。華州華陰(陝西省華陰市)の人。字は季鷹。挺之の子。太原府(山西省太原市)参軍から殿中侍御史に進み、安禄山の乱のとき、玄宗に従って蜀へ避難し、諫議大夫となった。その後、京兆尹・成都(四川省成都市)尹兼剣南節度使などを歴任。広徳二年(764)吐蕃の大軍七万を破り、その軍功により鄭国公に封ぜられた。また蜀に滞在中、流浪中の杜甫を援助した。『全唐詩』に六首収める。ウィキペディア【厳武】参照。
昨夜秋風入漢關
昨夜 秋風 漢関に入り
- 漢関 … 国境に設けられた唐の関所。唐を漢の時代に当てるのは、唐代の常套表現。
朔雲邊月滿西山
朔雲辺月 西山に満つ
- 朔雲 … 北方の雲。朔は、北のこと。ここでは辺塞の雲。辺境の雲。顔延之の「赭白馬の賦」(『文選』巻十四)に「西極を眷みて首を驤げ、朔雲を望みて足を蹀む」(眷西極而驤首、望朔雲而蹀足)とある。西極は、西の果て。ウィキソース「赭白馬賦」参照。その注に「曹顔遠の感旧の賦に曰く、胡馬は朔雲を仰ぎ、越鳥は南樹に巣くう」(曹顏遠感舊賦曰、胡馬仰朔雲、越鳥巢南樹)とある。顔遠は、曹攄(?~308)の字。ウィキペディア【曹攄】参照。ウィキソース「昭明文選/卷14」参照。
- 辺月 … 辺境の月。
- 月 … 『全唐詩』には「一作雪」とある。『万首唐人絶句』では「雪」に作る。
- 西山 … 四川省成都の西北にある大雪山を指す。一名雪嶺ともいう。『大明一統志』に「西山は府の城西に在り、一に雪嶺と名づく」(西山在府城西、一名雪嶺)とある。ウィキソース「明一統志 (四庫全書本)/卷67」参照。また杜甫の「望野」に「西山の白雪、三城の戍」(西山白雪三城戍)とある。
更催飛將追驕虜
更に飛将を催して驕虜を追わしむ
- 飛将 … 前漢の武将、李広(?~前119)のこと。匈奴から飛将軍といって恐れられた。『史記』李広伝に「広、右北平に居り、匈奴之を聞き、号して漢の飛将軍と曰い、之を避くること数歳、敢えて右北平に入らず」(廣居右北平、匈奴聞之、號曰漢之飛將軍、避之數歳、不敢入右北平)とある。ウィキソース「史記/卷109」参照。ウィキペディア【李広】参照。
- 催 … 早くするようにうながす。急き立てる。催促する。
- 驕虜 … 傲慢な胡。驕り高ぶった胡人。虜は、敵を罵っていう言葉。胡虜。『漢書』匈奴伝上に「南に大漢有り、北に強胡有り。胡は天の驕子なり」(南有大漢、北有強胡。胡者天之驕子也)とある。ウィキソース「漢書/卷094上」参照。
- 追 … 追撃させる。
莫遣沙場匹馬還
沙場の匹馬をして還らしむること莫かれ
- 沙場 … (戦場としての)砂漠。後漢の蔡琰の「胡笳十八拍」(『楽府詩集』巻五十九、『楚辞後語』巻三)の第十七拍に「塞上の黄蒿は枝枯れ葉乾きたり、沙場の白骨に刀痕箭瘢あり」(塞上黃蒿兮枝枯葉乾、沙場白骨兮刀痕箭瘢)とある。箭瘢は、矢きずのあと。ウィキソース「胡笳十八拍」「樂府詩集/059卷」「楚辭集注 (四庫全書本)/後語卷3」参照。
- 場 … 『万首唐人絶句』『古今詩刪』では「塲」に作る。異体字。
- 匹馬 … 一匹の馬。『春秋公羊伝註疏』僖公三十三年に「匹馬隻輪反る者無し」(匹馬隻輪無反者)とあり、何休の注に「匹馬は、一馬なり」(匹馬、一馬也)とある。ウィキソース「春秋公羊傳註疏/卷12」参照。
- 莫遣~還 … 生かして帰すな。
- 遣 … 「遣AB」の形で「AをしてB(せ)しむ」と読み、「AにBさせる」と訳す。使役の意を示す。
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