涼州詞(王翰)
涼州詞
涼州詞
涼州詞
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『唐詩三百首』七言絶句、『全唐詩』巻一百五十六(揚州詩局本縮印、上海古籍出版社、1985年)、『万首唐人絶句』七言・巻四十九(明嘉靖刊本影印、文学古籍刊行社、1955年)、『古今詩刪』巻二十一(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、54頁)、『唐詩品彙』巻四十六、『唐詩別裁集』巻十九、『国秀集』巻上、他
- 七言絶句。杯・催・回(平声灰韻)。
- ウィキソース「涼州詞 (王翰)」参照。
- 詩題 … 『全唐詩』『万首唐人絶句』『唐詩品彙』『国秀集』では「涼州詞二首 其一」に作る。
- 涼州詞 … 楽府題。涼州は、現在の甘粛省武威市。玄宗の開元年間、西涼府の都督であった郭知運が採集し朝廷に献上した涼州一帯の楽曲。辺境の地に出征した兵士の心情を詠じたもの。『新唐書』礼楽志に「天宝の楽曲は、皆辺地の名を以てす。涼州・伊州・甘州の類の若し」(天寶樂曲、皆以邊地名。若涼州、伊州、甘州之類)とある。ウィキソース「新唐書/卷022」参照。また『楽府詩集』近代曲辞、涼州歌に「楽苑に曰く、涼州は宮調曲にて、開元中、西涼府の都督郭知運が進みけり」(樂苑曰、涼州宮調曲、開元中、西涼府都督郭知運進)とある。ウィキソース「樂府詩集/079卷」参照。
- この詩は、辺地に出征した兵士の思いを詠んだもの。
- 王翰 … 687?~726?。初唐の詩人。并州晋陽(山西省)の人。字は子羽。景雲元年(710)、進士に及第。昌楽(河南省南楽県)の県尉となる。張説に認められ、駕部員外郎に抜擢された。その後、張説の失脚とともに汝州(河南省汝州市)長史に左遷され、さらに道州(湖南省永州市)司馬に流されて死んだ。ウィキペディア【王翰】参照。
葡萄美酒夜光杯
葡萄の美酒 夜光の杯
- 葡萄美酒 … 西域産のうまい葡萄酒。『史記』大宛伝に「宛の左右は蒲陶を以て酒を為る。富人、酒を蔵すること万余石に至る。久しき者は数十歳にして敗せず。俗、酒を嗜み、馬は苜蓿を嗜む。漢の使い其の実を取りて来る。是に於いて天子始めて苜蓿・蒲陶を肥饒の地に種う」(宛左右以蒲陶爲酒。富人藏酒至萬餘石。久者數十歲不敗。俗嗜酒、馬嗜苜蓿。漢使取其實來。於是天子始種苜蓿蒲陶肥饒地)とある。苜蓿は、うまごやし。家畜の飼料・肥料などに用いる。肥饒は、土地がよく肥えていること。肥沃。ウィキソース「史記/卷123」参照。また『太平御覧』に引く『唐書』に「葡萄酒は西域に之れ有り。前代或いは貢献有り。高昌を破るに及び、馬乳・葡萄の実を収めて、苑中に於いて之を種え、并びに其の酒法を得。上、自ら損益して酒を造り、酒成る。凡そ八色有り、芳春酷列、味兼醍盎。既に群臣に頒賜し、京師、其の味を識る」(葡萄酒西域有之。前代或有貢獻。及破高昌、收馬乳葡萄實、於苑中種之、并得其酒法。上自損益造酒、酒成。凡有八色、芳春酷列、味兼醍盎。既頒賜群臣、京師識其味)とある。ウィキソース「太平御覽/0844」参照。
- 葡萄 … 『唐詩選』『全唐詩』『万首唐人絶句』では「蒲萄」に作る。『古今詩刪』『唐詩品彙』では「蒲桃」に作る。『唐詩別裁集』では「蒲」に作る。「」は「桃」の異体字。
- 美酒 … うまい酒。味のよい酒。「古詩十九首 其の十三」(『文選』巻二十九)に「如かず美酒を飲みて、紈と素とを被服せんには」(不如飲美酒、被服紈與素)とある。紈・素は、白い練絹・生絹。華美な衣服の意。ウィキソース「驅車上東門」参照。
- 夜光杯 … 夜も光る玉で作った杯。西域の名産。また、単に「ガラスの杯」という解釈もある。東方朔の『海内十洲記』に「周の穆王の時、西胡、昆吾の割玉の刀及び夜光常満杯を献ず。……杯は是れ白玉の精にして、光明夜照らす。冥夕、杯を中庭に出し、以て天に向わしむれば、明くる比おい、水汁已に杯中に満つ」(周穆王時、西胡獻昆吾割玉刀及夜光常滿杯。……杯是白玉之精、光明夜照。冥夕、出杯於中庭以向天、比明而水汁已滿於杯中也)とある。ウィキソース「海內十洲記」参照。また南朝陳の張正見「門有車馬客行」(『文苑英華』巻一百九十五、『楽府詩集』巻四十、『古詩紀』巻一百十二)に「琴は和す朝雉の操、酒は泛ぶ夜光の杯」(琴和朝雉操、酒泛夜光杯)とある。ウィキソース「樂府詩集/040卷」参照。
- 杯 … 『万首唐人絶句』では「醅」に作る。醅は、こしてない酒。泡立ったにごり酒。
欲飮琵琶馬上催
飲まんと欲すれば 琵琶 馬上に催す
- 欲飲 … 飲もうとすると。
- 欲 … 「~(んと)ほっす」と読み、「今にも~しようとする」と訳す。「~したいと思う」の意ではない。
- 琵琶 … 西域から伝わった四弦ないし五弦の弦楽器。わが国には奈良時代に伝わった。『釈名』釈楽器篇に「枇杷は本と胡中より出ず。馬上にて鼓する所なり。手を推して前むるを枇と曰い、手を引きて却くるを杷と曰う。其の鼓する時に象り、因りて以て名と為すなり」(枇杷本出於胡中。馬上所鼓也。推手前曰枇、引手卻曰杷。象其鼓時、因以爲名也)とある。ウィキソース「釋名/卷七」参照。ウィキペディア【琵琶】参照。
- 馬上 … 馬上で。馬の上で。『通典』に引く傅玄の「琵琶の賦」に「漢、烏孫公主をして昆弥に嫁せしむ。其の道を行くことを念い思慕す。故に工人をして箏・筑を裁たしめ、馬上の楽と為す」(漢遣烏孫公主嫁昆彌。念其行道思慕。故使工人裁箏筑、爲馬上之樂)とある。ウィキソース「通典/卷144」参照。
- 催 … (早く飲み干せと)誰かが琵琶をかき鳴らす。催は、促す。催促する。また、「音楽が起こる」という解釈もある。
醉臥沙場君莫笑
酔うて沙場に臥す 君笑うこと莫かれ
- 酔 … 酔っ払って。酔いつぶれて。
- 沙場 … (戦場としての)砂漠。後漢の蔡琰の「胡笳十八拍」(『楽府詩集』巻五十九、『楚辞後語』巻三)の第十七拍に「塞上の黄蒿は枝枯れ葉乾きたり、沙場の白骨に刀痕箭瘢あり」(塞上黃蒿兮枝枯葉乾、沙場白骨兮刀痕箭瘢)とある。箭瘢は、矢きずのあと。ウィキソース「胡笳十八拍」「樂府詩集/059卷」「楚辭集注 (四庫全書本)/後語卷3」参照。
- 場 … 『唐詩別裁集』では「塲」に作る。異体字。
- 臥 … 横になる。横臥する。倒れ伏す。
- 君 … 特定の人を指さず、広く世間の人々を指す。あなたたちは。
- 笑 … 嘲笑する。『唐詩品彙』では「咲」に作る。同義。
- 莫 … 「~(こと)なかれ」と読み、「~してはいけない」「~するな」と訳す。禁止の意を表す。「勿」も同じ。
古來征戰幾人回
古来 征戦 幾人か回る
- 古来 … 昔から。
- 征戦 … 戦争に行く。ここでは特に西域に遠征すること。「胡笳十八拍」(『楽府詩集』巻五十九、『楚辞後語』巻三)の第十拍に「城頭の烽火曾て滅せず、疆埸の征戦何れの時にか歇まん」(城頭烽火不曾滅、疆埸征戰何時歇)とある。疆埸は、国境。ウィキソース「胡笳十八拍」「樂府詩集/059卷」「楚辭集注 (四庫全書本)/後語卷3」参照。
- 幾人回 … 何人が故郷に帰ってきただろうか。いや、ほとんどが帰っては来ず、死んでしまった。幾人は「いくにんか」と読む。反語形。
- 回 … 『唐詩選』『全唐詩』『唐詩別裁集』では「囘」に作る。異体字。『古今詩刪』では「廻」に作る。同義。
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