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大同殿生玉芝竜池上有慶雲百官共覩聖恩便賜燕楽敢書即事(王維)

大同殿生玉芝龍池上有慶雲百官共覩聖恩便賜燕樂敢書卽事
大同殿だいどうでんぎょくしょうじ、りょううえ慶雲けいうんり、ひゃくかんともる。聖恩せいおん便すなわ燕楽えんらくたまう。えてそくしょ
おう
  • 七言律詩。汾・雲・薫・君(上平声文韻)。
  • ウィキソース「大同殿柱產玉芝龍池上有慶雲神光照殿百官共覩聖恩便賜宴樂敢書即事」参照。
  • 詩題 … 『全唐詩』では「大同殿柱產玉芝龍池上有慶雲神光照殿百官共覩聖恩便賜宴樂敢書即事」に作る。
  • 大同殿 … 興慶宮の中にある宮殿。『唐六典』巻七に「興慶宮は皇城の東南に在り。……宮の西のかた興慶門と曰い、其の内を興慶殿と曰う。……次に南のかた金明門と曰う。門内の北のかた大同門と曰い、其の内を大同殿と曰う」(興慶宮在皇城之東南。……宮之西曰興慶門、其內曰興慶殿。……次南曰金明門。門內之北曰大同門、其內曰大同殿)とある。ウィキソース「唐六典/卷07」参照。また植木久行『唐詩の風景』(講談社学術文庫)に「興慶宮のなかには、朝会の行われる正殿『興慶殿』のほかに、道玄どうげんくんの壁画で彩られた大同殿だいどうでん、……」とある。ウィキペディア【興慶宮】参照。
  • 玉芝 … 美しい霊芝。白芝をいう。『本草綱目』菜之五に「白芝は、一に玉芝と名づく」(白芝、一名玉芝)とある。ウィキソース「本草綱目/菜之三」参照。また『旧唐書』玄宗紀、天宝七載の条に「三月乙酉いつゆう、大同殿の柱に玉芝を産す、神光殿を照らす有り」(三月乙酉、大同殿柱產玉芝、有神光照殿)とあり、同じく天宝八載の条にも「六月、大同殿に又た玉芝一茎を産す」(六月、大同殿又產玉芝一莖)とある。ウィキソース「舊唐書/卷9」参照。
  • 竜池 … 長安興慶宮内にあった池の名。『唐両京城坊考』西京、興慶宮の条に「宮の正門は西向し、興慶門と曰う。其の内に興慶殿あり、殿の後ろを竜池と為す」(宮之正門西向、曰興慶門。其內興慶殿、殿後爲龍池)とある。ウィキソース「唐兩京城坊考/01」参照。また『長安志』に「常に雲気有り。或いは黄竜の其の中より出ずるを見る。……之を竜池と謂う」(常有雲氣。或見黄龍出其中。……謂之龍池)とある。ウィキソース「長安志 (四庫全書本)/卷09」参照。また『唐会要』興慶宮の条に「宅内に竜池の湧出する有り」(宅內有龍池湧出)とある。ウィキソース「唐會要/卷030」参照。
  • 慶雲 … めでたいことの起こる前兆とされる五色の雲。瑞雲。『漢書』天文志に「煙のごとくして煙に非ず、雲のごとくして雲に非ず、鬱郁うついく紛紛ふんぷんしょうさく輪囷りんきん、是れを慶雲と謂う」(若煙非煙、若雲非雲、鬱郁紛紛、蕭索輪囷、是謂慶雲)とある。鬱郁は、模様や香りがふくよかにこもるさま。蕭索は、静かで物寂しい様子。輪囷は、丸く曲がりくねっているさま。ウィキソース「漢書/卷026」参照。
  • 百官 … 多くの役人。『易経』繋辞下伝に「百官以て治まり、万民以てあきらかなり」(百官以治、萬民以察)とある。ウィキソース「易傳/繫辭下」(第二章)参照。
  • 覩 … 見る。視線を集めて見る。ここでは、天子が百官に許可を与えて見物させたこと。『易経』乾卦の文言伝に「聖人ちて万物る」(聖人作而萬物覩)とある。ウィキソース「周易/文言」参照。底本では「觀」に作るが、諸本に従った。『趙注本』『王維集校注』では「睹」に作る。同義。
  • 聖恩 … 天子の恩恵。『後漢書』明帝紀に「聖恩の遺戒、天下を顧重し、元元を以て首と為す」(聖恩遺戒、顧重天下、以元元爲首)とある。ウィキソース「後漢書/卷2」参照。また曹植「を責めみことのりに応ずる詩をたてまつる表」に「誠におもんみるに天網重ねてかかる可からず、聖恩再びたのむ可きこと難し」(誠以天網不可重罹、聖恩難可再恃)とある。ウィキソース「上責躬應詔詩表」参照。
  • 便 … 「すなわち」と読み、「その場ですぐに」と訳す。時間的に前後に間を置かず、続いて起こる意を示す。『世説新語』文学篇に「声に応じて便ち詩をつくる」(應聲便爲詩)とある。ウィキソース「世說新語/文學」参照。
  • 燕楽 … 酒宴をして楽しむこと。『漢書』成帝紀に「其の後、酒をこのみ、燕楽えんらくを楽しむ」(其後幸酒、樂燕樂)とある。ウィキソース「漢書/卷010」参照。
  • 燕 … 『全唐詩』『静嘉堂本』『蜀刊本』『四部叢刊本』『顧起経注本』『顧可久注本』『趙注本』『文苑英華』『唐詩解』では「宴」に作る。
  • 敢 … この詩を自発的に詠んだため、「差し出がましくも」という感情を込めて「敢えて」と言ったもの。『文苑英華』では「因」に作る。
  • 即事 … 目の前の情景や事柄に即して、見たままに詠じた詩。
  • 王維 … 699?~761。盛唐の詩人、画家。太原(山西省)の人。あざなきつ。開元七年(719)、進士に及第。安禄山の乱で捕らえられたが事なきを得、乱後は粛宗に用いられてしょうじょゆうじょう(書記官長)まで進んだので、王右丞とも呼ばれる。また、仏教に帰依したため、詩仏と称される。『王右丞文集』十巻がある。ウィキペディア【王維】参照。
欲笑周文歌燕鎬
わらわんとほっす 周文しゅうぶんこうえんするをうたいしを
  • 欲笑 … (今日の盛会と比べたら)小さな楽しみと笑ってやりたい。
  • 欲 … 『唐詩品彙』では「飮」に作る。
  • 周文 … 周の文王。武王の父。姓はいみなしょう。ウィキペディア【文王 (周)】参照。
  • 歌燕鎬 … 周の文王が周の都の鎬京こうけい(現在の陝西省西安市の西)で酒宴を開き、群臣たちが文王の徳を称えて歌うこと。『詩経』小雅・魚藻の詩に「おうこうり、たのしみたのしみてさけむ」(王在在鎬、豈樂飲酒)とあるのに基づく。ただし、この詩は周の武王のことを詠んでいるが、唐詩ではしばしば文王の故事として用いる。ウィキソース「詩經/魚藻」参照。
  • 歌 … 『唐詩品彙』では「謌」に作る。同義。
  • 燕 … 『全唐詩』『静嘉堂本』『蜀刊本』『四部叢刊本』『顧起経注本』『顧可久注本』『趙注本』『文苑英華』『唐詩解』『王維集校注』では「宴」に作る。
還輕漢武樂橫汾
かろんず 漢武かんぶふんよこたうるをたのしみしを
  • 還 … 「また」と読み、「また」「なお」「やはり」などと訳す。俗語。『全唐詩』『静嘉堂本』『蜀刊本』『四部叢刊本』『顧起経注本』『顧可久注本』『趙注本』『文苑英華』『王維集校注』では「遙」に作る。
  • 軽 … 大したことではない。
  • 漢武楽横汾 … 漢の武帝が汾水に船を浮かべ、群臣と酒宴を楽しんだこと。漢の武帝「秋風の辞」に「楼船ろうせんうかべてふんわたり、中流ちゅうりゅうよこたわりて素波そはぐ」(汎樓船兮濟汾河、橫中流兮揚素波)とある。素波は、白い波。ウィキソース「秋風辭 (劉徹)」参照。
豈知玉殿生三秀
ぎょく殿でんさんしゅうしょうずるをらんや
  • 豈知 … (彼らは)どうして~を知ろうか(知るよしもない)。反語。
  • 知 … 『全唐詩』には「一作如」と注する。『静嘉堂本』『蜀刊本』『四部叢刊本』『顧可久注本』『趙注本』『文苑英華』『王維集校注』では「如」に作る。
  • 玉殿 … 大同殿を指す。
  • 三秀 … 玉芝(美しい霊芝)のこと。『楚辞』九歌の「山鬼」に「さんしゅう山間さんかんる」(采三秀兮於山閒)とある。ウィキソース「九歌」参照。
  • 生 … 生える。
詎有銅池出五雲
なんどううんいだすことらん
  • 詎 … 「なんぞ~」と読み、「どうして~だろうか(いやない)」と訳す。反問の意を表す。
  • 銅池 … 銅製の雨だれ受け。ここでは、竜池に喩える。『漢書』宣帝紀に「金芝九茎、函徳殿の銅池の中に産す」(金芝九莖、產於函德殿銅池中)とある。ウィキソース「漢書/卷008」参照。
  • 五雲 … 青・白・赤・黒・黄の五色の雲。瑞雲。ここでは、慶雲を指す。『周礼』春官、保章氏に「五雲の物を以て、吉兇・水旱・豊荒を降すの祲象を弁ず」(以五雲之物、辨吉兇水旱降豐荒之祲象)とある。ウィキソース「周禮/春官宗伯」参照。
陌上堯尊傾北斗
はくじょうぎょうそん ほくかたむ
  • 陌上 … 陌は、町の中の道。ここでは、都大路の道。謝朓「王主簿の思う所有りに同ず」詩(『玉台新詠』巻十、『楽府詩集』巻十七では詩題を「有所思」に作る)に「徘徊す 東陌のほとり、月出でて行人まれなり」(徘徊東陌上、月出行人稀)とある。ウィキソース「同王主簿有所思」「樂府詩集/017卷」参照。
  • 堯尊 … 天子から下賜された酒樽。尊は、樽に同じ。上古の聖天子ぎょうの酒樽に喩え、称えている。『淮南子』繆称訓に「聖人の道は、猶おちゅうにして尊を致すがごときか。過ぐる者は斟酌し、多少同じからざれども、各〻其の宜しき所を」(聖人之道、猶中衢而致尊邪。過者斟酌、多少不同、各得其所宜)とある。中衢は、四方に通ずる大道。繁華な四つ辻。ウィキソース「淮南子/繆稱訓」参照。
  • 尊 … 『全唐詩』『静嘉堂本』『蜀刊本』『四部叢刊本』『顧起経注本』『顧可久注本』『趙注本』『文苑英華』『唐詩解』『王維集校注』では「樽」に作る。
  • 北斗 … 北斗七星。ここではその形から酒を酌む柄杓を指す。『詩経』小雅・大東の詩に「れ北に有り、以てしゅ漿しょうむ可からず」(維北有斗、不可以挹酒漿)とある。斗は、柄杓の形をした星座。酒漿は、酒と飲み物。ウィキソース「詩經/大東」参照。また『楚辞』九歌・東君に「ほくいてけい漿しょうむ」(援北斗兮酌桂漿)とある。ウィキソース「九歌」参照。
樓前舜樂動南薰
楼前ろうぜんしゅんがく 南薫なんくんうごかす
  • 楼前 … 高楼の前。南朝梁の劉孝先「草堂寺に無名法師を尋ぬ」詩に「きょう 青天に点ず、ほしいままに照らし 楼前に満つ」(飛鏡點青天、橫照滿樓前)とある。飛鏡は、月。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷098」参照。
  • 舜楽動南薫 … 宴席で演奏される舜の音楽が、そよそよと吹く南風を揺り動かす。舜楽は、上古の聖天子しゅんの音楽。ここでは、宴席で演奏される音楽を舜の音楽に喩え、称えている。南薫は、そよそよと吹く南風。『孔子家語』弁楽解篇に「昔者むかししゅん五弦の琴を弾き、南風の詩を造る。其の詩に曰く、南風のかおるや、以て吾が民のいかりをく可し、南風の時なるや、以て吾が民の財をさかんにす可し、と」(昔者、舜彈五弦之琴、造南風之詩。其詩曰、南風之熏兮、可以解吾民之慍兮。南風之時兮、可以阜吾民之財兮)とある。ウィキソース「孔子家語/卷八」参照。
共歡天意同人意
ともよろこぶ てんじんおなじきを
  • 共歓 … ともに喜びとしたい。
  • 天意 … 天の意思。玉芝と慶雲という、二つの瑞祥によって示されたこと。『漢書』息夫躬伝に「誠を推し善を行えば、民の心よろこびて天の意得たり」(推誠行善、民心說而天意得矣)とある。ウィキソース「漢書/卷045」参照。
  • 人意 … 人民の気持ち。南朝梁の孔翁帰「湘東王の教えに奉和す班婕妤一首」(『玉台新詠』巻六)に「えん誰か慕わざらん、人意は自ずから終え難し」(鉛華誰不慕、人意自難終)とある。鉛華は、女性の化粧した美しさ。ウィキソース「奉和湘東王教班婕妤 (孔翁歸)」参照。
  • 同 … (天の意思と人民の気持ちとが)一致したことを。
萬歲千秋奉聖君
万歳ばんざいせんしゅう 聖君せいくんほうぜん
  • 万歳千秋 … 千年も万年も。古楽府「鐃歌十八曲 上の回」に「千秋万歳 楽しきこと極まり無し」(千秋萬歲樂無極)とある。ウィキソース「樂府詩集/016卷」参照。
  • 歳 … 『静嘉堂本』では「嵗」に作る。異体字。
  • 聖君 … 立派な天子。聖天子。魏の王粲「従軍の詩五首」(其四、『文選』巻二十七)に「ちゅうさくをばあくめぐらすは、一に我が聖君に由る」(籌策運帷幄、一由我聖君)とある。籌策は、計略。戦略。帷幄は、戦場で幕を張りめぐらし、作戦計画を立てる場所。ウィキソース「從軍詩 (王粲)」参照。
  • 奉 … 仰ぎまつって、お仕えすること。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻五(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻一百二十八(中華書局、1960年)
  • 『王右丞文集』巻二(静嘉堂文庫蔵、略称:静嘉堂本)
  • 『王摩詰文集』巻四(書韻楼叢刊、上海古籍出版社、2003年、略称:蜀刊本)
  • 『須渓先生校本唐王右丞集』巻二(『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:四部叢刊本)
  • 顧起経注『類箋唐王右丞詩集』巻八(台湾学生書局、1970年、略称:顧起経注本)
  • 顧可久注『唐王右丞詩集』巻二(『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、略称:顧可久注本)
  • 趙殿成注『王右丞集箋注』巻十(中国古典文学叢書、上海古籍出版社、1998年、略称:趙注本)
  • 『唐詩品彙』巻八十三([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『古今詩刪』巻十六(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収)
  • 『文苑英華』巻一百六十七(影印本、中華書局、1966年)
  • 『唐詩解』巻四十二(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 陳鐵民校注『王維集校注(修訂本)』巻一(中国古典文学基本叢書、中華書局、2018年)
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