遥同蔡起居偃松篇(張説)
遙同蔡起居偃松篇
遥かに蔡起居の偃松篇に同ず
遥かに蔡起居の偃松篇に同ず
- 七言律詩。芬・羣・氳・雲・君・聞(平声文韻)。
- この詩は本来七言十句から成るが、通行本の『唐詩選』では結聯を削って八句とし、七言律詩の中に排列している。ここでは『全唐詩』に従い結聯の二句を補った。
- 遥同 … 蔡起居が「偃松篇」を詠じたのに対し、作者がはるか遠い岳州から唱和して作ったため。
- 蔡起居 … 蔡は姓。起居は官名、起居郎。天子の毎日の生活を記録する官。
- 偃松篇 … 新楽府題。「偃松」は長くのびて、地上を覆う松。
- 張説 … 667~730。初唐の詩人、政治家。字は道済、または説之。洛陽(河南省)の人。永昌元年(689)、賢良方正科の科挙に主席で合格。太子校書郎から鳳閣舎人、中書令(宰相)などを歴任し、燕国公に封ぜられた。『張説之文集』二十五巻がある。ウィキペディア【張説】参照。
清都衆木總榮芬
清都の衆木 総て栄芬なるも
- 清都 … 都をたたえる言葉。
- 衆木 … 多くの樹木。朝廷の百官たちにたとえる。
- 栄芬 … 香りのよい花が咲きにおう。
傳道孤松最出羣
伝道うらく 孤松最も群を出づと
- 伝道 … 聞くところによれば。~ということだ。
- 孤松 … ただ一本そびえ立つ松。蔡起居にたとえる。
名接天庭長景色
名は天庭に接して景色に長け
- 名 … 松の名声。蔡起居の名声を指す。
- 天庭 … 天帝の庭。朝廷を指す。
- 景色 … おもむき。けしき。風情。
氣連宮闕借氛氳
気は宮闕に連なって氛氳を借る
- 気 … 松の瑞気。
- 宮闕 … 宮殿。
- 氛氳 … 気がさかんにたちこめるさま。
懸池的的停華露
池に懸り的的として華露を停め
- 懸池 … 松が池の上に枝を垂れ下げている様子。
- 的的 … ここでは露がきらきらと美しく輝くさま。
- 華露 … 美しい露。
偃蓋重重拂瑞雲
蓋を偃せ重重として瑞雲を払う
- 偃蓋 … 木の枝がかさのように地上をおおっているさま。
- 重重 … 幾重にもかさなっている様子。
- 瑞雲 … めでたい雲。
不借流膏助仙鼎
流膏の仙鼎を助くるを借しまず
- 流膏 … 松の幹から流れ出る膏。ここでは松やにを指す。蔡起居の才能にたとえる。
- 仙鼎 … 仙人が不老不死の薬を作るために用いる鼎。天子の施政にたとえる。
願將楨幹捧明君
願わくは楨幹を将て明君に捧げん
- 楨幹 … 土塀を築くときに立てる材木。転じて、物事の支柱。
- 明君 … りっぱな君主。
莫比冥靈楚南樹
比する莫かれ 冥霊 楚南の樹の
- 莫比 … (松の木と冥霊の木とを)比較してはなりませぬぞ。
- 冥霊 … 伝説上の木の名。作者自身にたとえる。『列子』湯問篇に、「荊の南に冥霊という者有り、五百歳を以て春と為し、五百歳を秋と為す(荊之南有冥靈者、以五百歳爲春、五百歳爲秋)」とあるのに基づく。全文はウィキソース「列子/湯問篇」参照。
- 楚南 … 楚国の南。
朽老江邊代不聞
江辺に朽老して代に聞えざるに
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