旅夜書懐(杜甫)
旅夜書懷
旅夜書懐
旅夜書懐
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻三、『唐詩三百首』五言律詩、『全唐詩』巻二百二十九、『宋本杜工部集』巻十四、『杜詩詳注』巻十四、他
- 五言律詩。舟・流・休・鷗(平声尤韻)。
- ウィキソース「旅夜書懷」参照。
- 旅夜 … 旅の夜。
- 書懐 … 思っている事がらを書きしるす。
- 杜甫 … 712~770。盛唐の詩人。襄陽(湖北省)の人。字は子美。祖父は初唐の詩人、杜審言。若い頃、科挙を受験したが及第できず、各地を放浪して李白らと親交を結んだ。安史の乱では賊軍に捕らえられたが、やがて脱出し、新帝粛宗のもとで左拾遺に任じられた。その翌年左遷されたため官を捨てた。四十八歳の時、成都(四川省成都市)の近くの浣花渓に草堂を建てて四年ほど過ごしたが、再び各地を転々とし一生を終えた。中国最高の詩人として「詩聖」と呼ばれ、李白とともに「李杜」と並称される。『杜工部集』がある。ウィキペディア【杜甫】参照。
細艸微風岸
細草 微風の岸
- 細草 … 小さな草。
- 微風 … そよ風。阮籍「詠懐詩十七首 其の七」(『文選』巻二十三)に「微風は羅袂を吹き、明月は清暉を耀かす」(微風吹羅袂、明月耀清暉)とある。羅袂は、うす絹のたもと。ウィキソース「詠懷詩 (開秋兆涼氣)」参照。
危檣獨夜舟
危檣 独夜の舟
- 危檣 … たかくそびえたつ帆柱。
- 独夜舟 … 自分ひとりだけの夜の船。
星隨平野闊
星は平野に随って闊く
- 随平野 … 平野のかなたまで。
- 隨 … 『全唐詩』では「垂」に作り、「一作隨」とある。
- 闊 … 遠くまで広々と広がっている様子。
月湧大江流
月は大江に湧きて流る
- 月湧 … 「月が揚子江から湧き出たように大空に上る」という解釈と、「月の影が水面にきらきらと映っており、その様子は月が水中から湧き出たように見える」という解釈の二通りある。
- 大江 … 揚子江。
名豈文章著
名は豈に文章もて著われんや
- 豈 … 「あに~(な)らんや」と読み、「どうして~しようか、いやしない」と訳す。反語の意を示す。
- 文章 … 文学。詩文。
官因老病休
官は老病に因りて休む
- 官 … 役人生活。
- 因 … 『全唐詩』には「一作應」とある。「應」なら「官は応に老病にて休むべし」となり、「役人生活も年老いて病気がちとなれば、やめるのが当たり前だ」という意味になる。
- 老病 … 年老いて病身であること。
- 休 … 辞職すること。
飄飄何所似
飄飄 何の似たる所ぞ
- 飄飄 … さまようこと。『杜工部詩集』等では「飄零」に作る。「飄零」はおちぶれること。
- 何所似 … 何に似ているだろうか。
天地一沙鷗
天地の一沙鷗
- 地 … 『全唐詩』等には「一作外」とある。
- 沙鷗 … 砂浜にいるかもめ。「沙」は「砂」と同じ。自分(杜甫)の姿と同じである。
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