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復愁(杜甫)

復愁
復(ま)た愁(うれ)う
杜甫(とほ)
  • ウィキソース「全唐詩/卷230」参照。
  • この詩は、大暦二年(767)の秋、夔(き)州(現在の重慶市北東部)で詠んだもの。作者五十六歳の作。
  • 詩題 … 再び愁(うれ)える。十二首からなる連作の第三首。前に「愁う」と題する詩があったものと推測されるが、現存しない。
  • 杜甫 … 712~770。盛唐の詩人。河南府鞏(きょう)県(河南省鄭(てい)州(しゅう)市鞏(きょう)義(ぎ)市)生まれ。本籍は襄(じょう)州襄(じょう)陽(よう)県(湖北省襄陽市襄州区)の人。字(あざな)は子美(しび)。祖父は初唐の詩人、杜審言。若い頃、科挙を受験したが及第できず、各地を放浪して李白らと親交を結んだ。安史の乱では賊軍に捕らえられたが、やがて脱出し、新帝粛(しゅく)宗(そう)のもとで左拾遺(天子に諫言する職)に任じられた。その翌年左遷されたため官を捨てた。四十八歳の時、成都(四川省成都市)の近くの浣(かん)花(か)渓(けい)に草堂を建てて四年ほど過ごしたが、再び各地を転々とし一生を終えた。中国最高の詩人として「詩聖」と呼ばれ、李白とともに「李杜(りと)」と並称される。『杜工部集』『草堂詩箋』などがある。ウィキペディア【杜甫】参照。
萬國尚戎馬
万国(ばんこく) 尚(な)お戎(じゅう)馬(ば)
  • 万国 … すべての国々で。天下至る所。『易経』乾卦の彖伝(たんでん)に「首(しゅ)として庶物に出(い)でて、万国咸(ことごと)く寧(やす)し」(首出庶物、萬國咸寧)とある。首は、元首。庶物は、ありとあらゆる物。ここでは、万民を指す。ウィキソース「周易/乾」参照。
  • 尚 … 今なお。
  • 戎馬 … 戦乱。戦争。戎は、武器。戎馬は、軍馬の意から。『宋本』等では「寇(あだ)を防ぐ」(防寇)に作る。寇は、外から攻めこんで荒らす賊。当時、安史の乱(755~763)は終わっていたが、吐(と)蕃(ばん)(チベット族)が西方から侵入してきて、戦乱が続いていた。『詳注本』に「戎馬は、吐蕃の境を侵すを謂う」(戎馬、謂吐蕃侵境)とある。また『老子』第四十六章に「天下に道無ければ、戎馬、郊に生ず」(天下無道、戎馬生於郊)とある。「戎馬、郊に生ず」とは、軍馬が戦場でお産をするの意。ウィキソース「老子河上公章句/德經」参照。
故園今若何
故(こ)園(えん) 今(いま) 若何(いかん)
  • 故園 … 故郷。作者は河南府鞏(きょう)県(現在の河南省鄭州市鞏(きょう)義(ぎ)市)に生まれた。ここでは、鞏県に近い洛陽の旧居を指す。『詳注本』には「故園は、東都の旧居を指す」(故園、指東都舊居)とある。東都は、洛陽のこと。また、南朝梁の何遜「胡(こ)興安(こうあん)と夜別る」詩(『古詩紀』巻九十四)に「方(まさ)に新(しん)離(り)の恨みを抱き、独り故園の秋を守らん」(方抱新離恨、獨守故園秋)とある。新離は、新たな別れ。ウィキソース「與胡興安夜别」参照。なお『九家集注本』の趙彦材注に「故園は、指して長安を言うなり」(故園、指言長安也)とあるが、ここでは採らない。
  • 若何 … どうなっているだろうか。「如何」「云何」「何如」「何奈」「何若」等に同じ。
昔歸相識少
昔(むかし)帰(かえ)りしとき 相識(そうしき)少(まれ)に
  • 昔帰 … 昔帰ったとき。かつて帰ったとき。乾元(けんげん)元年(758)の頃、作者は洛陽の旧居に帰ったことがある。
  • 相識 … 顔見知りの人。知りあい。『春秋左氏伝』襄公二十九年に「子産を見て、旧相識の如し」(見子產、如舊相識)とある。子産は、春秋時代、鄭(てい)の宰相。ウィキソース「春秋左氏傳/襄公」参照。また、初唐の劉希夷「白頭を悲しむ翁に代る」詩に「一朝 病に臥して相識無く、三春の行楽 誰(た)が辺にか在る」(一朝臥病無相識、三春行樂在誰邊)とある。三春は、陰暦の春三か月のこと。ウィキソース「代悲白頭翁」参照。
  • 少 … ほとんどない。「少(すく)なく」と読んでもよい。
早已戰場多
早(はや)く已(すで)に戦(せん)場(じょう)多(おお)かりき
  • 早已 … そのときからすでに。劉宋の謝霊運「南楼の中(うち)にて遅(ま)つ所の客(かく)を望む」詩(『文選』巻三十)に「円景は早くも已に満つるも、佳人は猶お未だ適(いた)らず」(圓景早已滿、佳人猶未適)とある。円景は、丸い月。ウィキソース「昭明文選/卷30」参照。
  • 戦場多 … (辺りは)戦場ばかりとなっていた。「戦場多し」と読んでもよい。『史記』張儀伝に「梁の地勢は、固(まこと)に戦場なり」(梁之地勢、固戰場也)とある。ウィキソース「史記/卷070」参照。
詩型・韻字
  • 五言絶句。
  • 何・多(下平声歌韻)。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻六(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻二百三十(排印本、中華書局、1960年)
  • 『宋本杜工部集』巻十五(影印本、台湾学生書局、1967年)
  • 『九家集注杜詩』巻三十(『哈佛燕京學社引得特刊 14 杜詩引得』第二冊、1966年)
  • 『杜陵詩史』巻二十八(王状元集注、『杜詩又叢』所収、中文出版社、1977年)
  • 『分門集注杜工部詩』巻二十五(『四部叢刊 初編集部』所収)
  • 『草堂詩箋』巻三十二(蔡夢弼注、『古逸叢書(中)』所収、江蘇廣陵古籍刻印社、1997年)
  • 『銭注杜詩』巻十五(銭謙益箋注、上海古籍出版社、1979年)
  • 『杜詩詳注』巻二十(仇兆鰲注、中華書局、1979年)
  • 『読杜心解』巻六之上(浦起龍著、中華書局、1961年)
  • 『杜詩鏡銓』巻十七(楊倫箋注、上海古籍出版社、1980年)
  • 『唐詩解』巻二十二(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩品彙』巻四十([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩別裁集』巻十九([清]沈徳潜編、乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『万首唐人絶句』五言・巻一(明嘉靖本影印、文学古籍刊行社、1955年)
  • 『古今詩刪』巻二十(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
  • 松浦友久編『校注 唐詩解釈辞典』(大修館書店、1987年)
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