送邢桂州(王維)
送邢桂州
邢桂州を送る
邢桂州を送る
- 五言律詩。庭・舲・青・星(下平声青韻)。
- 邢桂州 … 桂州経略使(辺境の軍事関係の長官)として赴任する邢という人物。邢は姓。人物については不詳。
- 桂州 … かつて存在した州名。現在の広西チワン族自治区桂林市。南朝梁が置いた。ウィキペディア【桂州】参照。『隋書』地理志、揚州、始安郡の条に「始安郡は、梁桂州を置く」(始安郡、梁置桂州)とある。ウィキソース「隋書/卷31」参照。
- 王維 … 699?~761。盛唐の詩人、画家。太原(山西省)の人。字は摩詰。開元七年(719)、進士に及第。安禄山の乱で捕らえられたが事なきを得、乱後は粛宗に用いられて尚書右丞(書記官長)まで進んだので、王右丞とも呼ばれる。また、仏教に帰依したため、詩仏と称される。『王右丞文集』十巻がある。ウィキペディア【王維】参照。
鐃吹喧京口
鐃吹 京口に喧しく
- 鐃吹 … 銅鑼を鳴らし、笛を吹くこと。六朝梁の劉孝綽「宴に侍し亭を離る 応令」詩に「羽旗 日に映えて移き、鐃吹 風に臨んで警む」(羽旗映日移、鐃吹臨風警)とある。羽旗は、羽飾りの旗。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷097」参照。また『釈名』釈楽器篇に「鐃は、声鐃鐃なり。……竹を吹と曰う。吹は、推なり。気を以て其の声を推発するなり」(鐃、聲鐃鐃也。……竹曰吹。吹、推也。以氣推發其聲也)とある。ウィキソース「釋名/卷七」参照。
- 京口 … 現在の江蘇省鎮江市の古称。三国時代、呉の孫権が建業(現在の南京市)に都を置いたとき、ここに京口鎮を置いた。ウィキペディア【京口 (地名)】(中文)参照。『元和郡県図志』江南道、潤州の条に「後漢の献帝の建安十四年(209)、孫権呉より丹徒を理め、号して京城と曰う、今の州は是れなり。十六年、建業に遷都し、此を以て京口鎮と為す」(後漢獻帝建安十四年、孫權自吳理丹徒、號曰京城、今州是也。十六年遷都建業、以此爲京口鎭)とある。丹徒は、鎮江市の古称。ウィキソース「元和郡縣圖志/卷25」参照。
- 喧 … (銅鑼と笛の音が)やかましい。騒がしい。
風波下洞庭
風波 洞庭に下る
- 風波 … 風と波。転じて、旅の困難。東晋の陶淵明「飲酒二十首」(其十)に「道路 迥かにして且つ長く、風波 中塗を阻む」(道路迥且長、風波阻中塗)とある。中塗は、道のりの中ほど。ウィキソース「飲酒二十首」参照。また『孔子家語』困誓篇に「孔子曰く、高崖を観ざれば、何を以て顚墜の患いを知らん。深泉に臨まざれば、何を以て没溺の患いを知らん。巨海を観ざれば、何を以て風波の患いを知らん。之を失う者は、其れ此に在らずや。士此の三者を慎まば、則ち身に累い無し、と」(孔子曰、不觀高崖、何以知顚墜之患。不臨深泉、何以知沒溺之患。不觀巨海、何以知風波之患。失之者、其不在此乎。士愼此三者、則無累於身矣)とある。顚墜は、墜落すること。没溺は、溺れること。ウィキソース「孔子家語/卷五」参照。
- 風 … 『四部叢刊本』では「凮」に作る。異体字。
- 洞庭 … 湖南省北部にある巨大な湖、洞庭湖のこと。湖南省の四大河川である湘江・資水・沅江・澧水が南と西から流入する。北は長江と連なっている。ウィキペディア【洞庭湖】参照。
- 風波下洞庭 … 君の乗った船は、風と波を越えて洞庭湖を南へと下って行かれる。『楚辞』九歌・湘夫人に「嫋嫋たる秋風、洞庭波だって木葉下る」(嫋嫋兮秋風、洞庭波兮木葉下)とある。ウィキソース「九歌」参照。
赭圻將赤岸
赭圻 将た赤岸
- 赭圻 … 地名。または城の名。安徽省蕪湖市繁昌区の西にある。『宋書』沈攸之伝に「龍驤将軍劉霊遺、各〻三千人を率いて赭圻に赴く」(龍驤將軍劉靈遺各率三千人赴赭圻)とある。劉霊遺(?~474)は、南朝宋、襄陽の人。龍驤将軍に任じられた。ウィキソース「宋書/卷74」参照。また『読史方輿紀要』南直、太平府、繁昌県の条に「赭圻城は、県の西南十里、三国呉が署する所の赭圻屯なり。晋の哀帝桓溫を召して入朝し、赭圻に至り、詔有り溫を止め、溫遂に城を築きて此に居す。溫表して云う、春穀県の赭圻城は江の東岸に在り、江に臨んで、西は濡須口に当たること二十里、建康宮に距ること三百里、南に声里有り、北に高安戍有り、其の地に城を請う、と。是れなり」(赭圻城、縣西南十里、三國吳所署赭圻屯也。晉哀帝召桓溫入朝、至赭圻、有詔止溫、溫遂築城居此。溫表云、春穀縣赭圻城在江東岸、臨江、西當濡須口二十里、距建康宮三百里、南有聲里、北有高安戍、請城其地。是也)とある。ウィキソース「讀史方輿紀要/卷二十七」参照。
- 将 … 「はた」と読む。ここでは、「さらにまた」と訳す。
- 赤岸 … 赤岸山のこと。現在の江蘇省南京市六合区の東南にある。『読史方輿紀要』南直、応天府、六合県の条に「赤岸山は、瓜埠の東五里に在り、下は江中に臨む。南兖州記に云う、潮水海門より入り、衝激すること六七百里、此に至りて其の勢い始めて衰う。郭璞の江の賦に、洪濤を赤岸に鼓す、と称する所なり、と」(赤岸山、在瓜埠東五里、下臨江中。南兖州記云、潮水自海門入、衝激六七百里、至此其勢始衰。郭璞江賦所稱、鼓洪濤於赤岸也)とある。洪濤は、大波。ウィキソース「讀史方輿紀要/卷二十」参照。また魏の曹植「自試を求むる表」(『文選』巻三十七)に「臣昔先武皇帝に従い、南のかた赤岸を極め、東のかた滄海に臨み、西のかた玉門を望み、北のかた玄塞を出づ」(臣昔從先武皇帝、南極赤岸、東臨滄海、西望玉門、北出玄塞)とある。ウィキソース「求自試表」参照。
擊汰復揚舲
汰を撃ち 復た舲を揚ぐ
- 撃汰 … 波を舟の櫂で打って進めること。汰は、波。『楚辞』九章・渉江に「舲船に乗りて余沅を上り、呉の榜を斉えて以て汰を撃つ」(乘舲船余上沅兮、齊吳榜以擊汰)とある。ウィキソース「楚辭/九章」参照。
- 揚舲 … 船が波に乗って進むこと。舲は、窓のある小舟。南朝梁の劉孝威の楽府「蜀道難」に「舲を揚ぐ 濯錦の流れ」(揚舲濯錦流)とある。濯錦は、錦を洗うこと。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷098」参照。
日落江湖白
日落ちて江湖白く
潮來天地靑
潮来って天地青し
- 潮来天地青 … 夕刻、潮が満ちてくると、天も地もすっかり青く見えるようになる。洞庭湖は広いので、潮の干満がある。
明珠歸合浦
明珠 合浦に帰す
- 明珠 … 美しく光る真珠。
- 合浦 … 漢代の郡。現在の広東省雷州市(1994年海康県から改称)。ウィキペディア【合浦郡】参照。
- 明珠帰合浦 … 後漢の頃、合浦は真珠の産地だったが、歴代の長官が職権を乱用して真珠を民衆から収奪したため、人々はこれを隠し、南方の交址へ移した。その結果、合浦の産業は衰退した。そこへ孟嘗が太守として赴任し、善政を敷いたので、真珠が再び合浦に戻り、産業も復興したという故事を踏まえ、邢が善政を敷いてくれることを期待したもの。『後漢書』循吏伝に「孟嘗……合浦の太守に遷る。郡穀実を産せず。而して海珠宝を出づ。交阯と境を比せり。常に商販を通じて、糧食を留糴す。先の時の宰守並びに貪穢多くして、人を詭り採り求めて、紀極を知らず。珠遂に漸く交阯の郡界に徙る。是に於いて行旅至らず、人物資無く、貧しき者道に死餓す。嘗て官に到り、前弊を革易し、民の病利を求む。曾て未だ歳を踰えず、去りし珠復た還り、百姓皆其の業を反って、商貨流通す。称して神明なりと為す」(孟嘗……遷合浦太守。郡不產穀實。而海出珠寶。與交阯比境。常通商販、留糴糧食。先時宰守並多貪穢、詭人採求、不知紀極。珠遂漸徙於交阯郡界。於是行旅不至、人物無資、貧者死餓於道。嘗到官、革易前弊、求民病利。曾未踰歲、去珠復還、百姓皆反其業、商貨流通。稱爲神明)とある。ウィキソース「後漢書/卷76」参照。
應逐使臣星
応に使臣の星を逐うべし
- 応逐使臣星 … (真珠が再び合浦に戻って行く。)それは使者の星とでもいうべき君(邢)の後を逐って行くものであろう。使臣星は、天帝の使者の役目をする星。後漢の李郃が星占いで、朝廷から自分の住む地方に使者が来ることを知ったという故事を踏まえる。『後漢書』李郃伝に「和帝位に即けるとき、使者を分遣して、皆微服単行して、各〻州県に至って、風謡を観採す。使者二人当に益部に到るべし。郃の候舎に投ず。時、夏の夕露に坐せり。郃因って仰ぎ観て問いて曰く、二君京師を発する時に、寧ろ朝廷の二使を遣すを知るや。二人黙然として、驚きて相視て曰く、聞かざるなり。問う何を以て之を知る。郃星を指し示して云く、二使星有って益州の分野に向う。故に之を知るのみ」(和帝即位、分遣使者、皆微服單行、各至州縣、觀採風謠。使者二人當到益部。投郃候舍。時、夏夕露坐。郃因仰觀問曰、二君發京師時、寧知朝廷遣二使邪。二人默然、驚相視曰、不聞也。問何以知之。郃指星示云、有二使星向益州分野。故知之耳)とある。ウィキソース「後漢書/卷82上」参照。
テキスト
- 『箋註唐詩選』巻三(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
- 『全唐詩』巻一百二十六(中華書局、1960年)
- 『王右丞文集』巻五(静嘉堂文庫蔵、略称:静嘉堂本)
- 『王摩詰文集』巻九(書韻楼叢刊、上海古籍出版社、2003年、略称:蜀刊本)
- 『須渓先生校本唐王右丞集』巻五(『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:四部叢刊本)
- 顧起経注『類箋唐王右丞詩集』巻五(台湾学生書局、1970年、略称:顧起経注本)
- 顧可久注『唐王右丞詩集』巻五(『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、略称:顧可久注本)
- 趙殿成注『王右丞集箋注』巻八(中国古典文学叢書、上海古籍出版社、1998年、略称:趙注本)
- 『唐詩品彙』巻六十一([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
- 『唐詩解』巻三十六(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
- 『唐詩別裁集』巻九(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
- 『古今詩刪』巻十四(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収)
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