哀江頭(杜甫)
哀江頭
江頭に哀しむ
江頭に哀しむ
- 七言古詩。哭(入声屋韻)・曲・緑(入声沃韻)通押/色・側・勒・翼・得・息・臆・極・北(入声職韻)、換韻。
- 杜甫 … 712~770。盛唐の詩人。襄陽(湖北省)の人。字は子美。祖父は初唐の詩人、杜審言。若い頃、科挙を受験したが及第できず、各地を放浪して李白らと親交を結んだ。安史の乱では賊軍に捕らえられたが、やがて脱出し、新帝粛宗のもとで左拾遺に任じられた。その翌年左遷されたため官を捨てた。四十八歳の時、成都(四川省成都市)の近くの浣花渓に草堂を建てて四年ほど過ごしたが、再び各地を転々とし一生を終えた。中国最高の詩人として「詩聖」と呼ばれ、李白とともに「李杜」と並称される。『杜工部集』がある。ウィキペディア【杜甫】参照。
少陵野老呑聲哭
少陵の野老 声を呑んで哭し
春日潛行曲江曲
春日潜行す 曲江の曲
江頭宮殿鎖千門
江頭の宮殿 千門を鎖し
細柳新蒲爲誰緑
細柳新蒲 誰が為にか緑なる
憶昔霓旌下南苑
憶う 昔 霓旌南苑に下りしとき
苑中萬物生顏色
苑中の万物 顔色を生ず
昭陽殿裏第一人
昭陽殿裏 第一の人
同輦隨君侍君側
輦を同じうし 君に随って 君側に侍す
輦前才人帶弓箭
輦前の才人 弓箭を帯び
- 才 … 『全唐詩』には「一作詞」とある。
白馬嚼囓黄金勒
白馬嚼齧す 黄金の勒
- 嚼 … 『全唐詩』には「一作噍」とある。
翻身向天仰射雲
身を翻して天に向かい 仰いで雲を射る
- 天 … 『全唐詩』には「一作空」とある。
一箭正墮雙飛翼
一箭 正に堕す 双飛翼
- 箭 … 『全唐詩』には「一作笑。一作發」とある。
明眸皓齒今何在
明眸皓歯 今何くにか在る
- 明眸皓歯 … 美しい目と白い歯。美人の形容。楊貴妃を指す。
血汚遊魂歸不得
血は遊魂を汚して 帰り得ず
- 血汚遊魂 … 「血汚の遊魂」とも読む。血に汚れたさまよう魂。楊貴妃が非業の死を遂げたことを意味する。
清渭東流劔閣深
清渭は東流し 剣閣は深し
- 清渭 … 清らかな渭水。
- 剣閣 … 今の四川省剣閣県の東北、大剣山と小剣山の二つの山の要害。閣道(桟道)が架けられていることから。
去住彼此無消息
去住彼此 消息無し
- 去住彼此 … 行ってしまった者と、そこに残っている者、かれとこれ。ここでは、蜀へ行ってしまった彼(玄宗)と、死んで渭水のほとりにとどまった此(楊貴妃)をいう。
人生有情涙沾臆
人生 情有り 涙 臆を沾す
江水江花豈終極
江水 江花 豈に終に極まらんや
- 水 … 『全唐詩』には「一作草」とある。
黄昏胡騎塵滿城
黄昏 胡騎 塵 城に満つ
欲往城南忘城北
城南に往かんと欲して 城北を忘る
- 忘城北 … 『全唐詩』では「忘南北」に作り、「一作望城北」とある。
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