香炉峰下新卜山居草堂初成偶題東壁(白居易)
香爐峯下新卜山居草堂初成偶題東壁
香炉峰下、新たに山居を卜し、草堂初めて成り、偶〻東壁に題す
香炉峰下、新たに山居を卜し、草堂初めて成り、偶〻東壁に題す
- 〔テキスト〕 『白氏文集』巻十六(『四部叢刊 初編集部』所収、通称:四部叢刊本・那波本)、『白氏文集』巻十六(南宋紹興刊本、通称:紹興本)、『白氏文集』巻十六(明馬元調校刊本、通称:馬本)、『白香山詩集』巻十六(清汪立名編訂本、通称:汪本)、『全唐詩』巻四百三十九、他
- 七言律詩。寒・看・官・安(平声寒韻)。
- ウィキソース「重題 (白居易)」参照。
- 本詩は五首連作の第四首。『馬本』では「香炉峰下……東壁五首 其四」に作る。『那波本』『紹興本』『汪本』『全唐詩』では第一首目のみを上記の詩題とし、第二首以下を「重題」としている。
- 香炉峰 … 廬山の北側にある山。
- 爐 … 『那波本』『紹興本』では「鑪」に作る。同義。
- 山居 … 山中の住居。
- 卜 … うらないで決めること。
- 草 … 『汪本』では「艸」に作る。同義。
- 草堂 … 草ぶきの家。また、自分の家を謙遜していうことば。
- 偶題 … たまたま壁に書きつける。
- 東壁 … 草堂の東側の壁。
- 白居易 … 772~846。中唐の詩人。字は楽天、号は香山居士。貞元十六年(800)、進士に及第。翰林学士、左拾遺などを歴任後、江州(江西省九江)司馬に左遷された。のち中央に復帰し、最後は刑部尚書の肩書で退官した。詩風は平易を第一とした。詩文集『白氏文集』は平安時代に我が国へ伝えられ、日本文学に多大な影響を与えた。ウィキペディア【白居易】参照。
日高睡足猶慵起
日高く 睡り足りて 猶お起くるに慵し
- 日高 … 太陽が高く昇る。
- 睡足 … 睡眠が十分足りること。
- 猶 … それでもなお。ここの場合は「なお~のごとし」と読む再読文字ではない。
- 慵 … けだるい。億劫である。
小閣重衾不怕寒
小閣に衾を重ねて 寒さを怕れず
- 小閣 … 「小さな中二階の家」「小さな二階建ての家」「単に小さな家」などの説がある。
- 閣 … 『那波本』『紹興本』では「閤」に作る。
- 衾 … 掛け布団。『全唐詩』には「一作裘」とある。『馬本』では「裘」に作る。
- 不怕 … 心配がない。「怕」は「恐」と同義。
遺愛寺鐘欹枕聽
遺愛寺の鐘は 枕を欹てて聴き
- 遺愛寺 … 香炉峰の北側にあった寺。
- 鐘 … 『全唐詩』には「一作泉」とある。『汪本』等では「泉」に作る。
- 欹 … 傾けて高くする。
香爐峯雪撥簾看
香炉峰の雪は 簾を撥げて看る
- 爐 … 『那波本』では「鑪」に作る。同義。
- 撥 … はね上げる。「巻き上げる」などの異説もある。
匡廬便是逃名地
匡廬は 便ち是れ名を逃るるの地
- 匡廬 … 廬山の別名。昔、匡俗という隠者が住んでいたことから。
- 便是 … 「すなわちこれ」と読み、「とりもなおさず」「つまり」「それがすなわち」「言うなれば」などと訳す。
- 逃名地 … 煩わしい俗世間の名誉・名声から逃避するのにふさわしい土地。
司馬仍爲送老官
司馬は 仍お老いを送るの官たり
- 司馬 … 州・郡の属官。刺史を補佐して軍事をつかさどった。『事物紀原』撫字長民部第三十一、司馬の条に「魏晋より以後、刺史にして将軍開府を帯ぶる者は則ち之を置く。此れより始めて州郡の官と為す。唐の高宗、位に即いて治中を改めて司馬節度と為し、亦た行軍司馬有り。今節度団練副使と、並びに以て貶責の官と為す」(魏晉以後、刺史帶將軍開府者則置之。自此始爲州郡官。唐高宗即位改治中爲司馬節度、亦有行軍司馬。今與節度團練副使、竝以爲貶責之官)とある。ウィキソース「事物紀原 (四庫全書本)/卷06」参照。
- 仍 … 「なお」と読み、「やはり」「何といっても」と訳す。
- 送老官 … 老年を過ごすのにふさわしい官職。
心泰身寧是歸處
心泰く身寧きは 是れ帰する処
- 心泰身寧 … 心身ともに安らか。「泰」も「寧」も「安らか」の意。
- 帰処 … わが身を落ち着けさせるところ。安住の地。
故郷何獨在長安
故郷 何ぞ独り長安に在るのみならんや
- 故郷 … ここでは安らかに過ごせる土地、「帰する処」を指す。
- 何 … 『全唐詩』には「一作可」とある。『紹興本』『汪本』では「可」に作る。
- 何独 … 「なんぞひとり~のみならんや」と読み、「どうしてただ~だけであろうか」と訳す。
- 長安 … 首都長安での役人生活という出世コースを指す。
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