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八月十五日夜禁中独直対月憶元九(白居易)

八月十五日夜禁中獨直對月憶元九
八月(はちがつ)十(じゅう)五(ご)日(にち)夜(よる)、禁(きん)中(ちゅう)に独(ひと)り直(ちょく)し、月(つき)に対(たい)して元(げん)九(きゅう)を憶(おも)う
白(はく)居(きょ)易(い)
  • ウィキソース「八月十五日夜禁中獨直對月憶元九」参照。
  • 八月十五日夜 … 旧暦、仲秋の名月の夜。『文苑英華』では「八月十五夜」に作る。
  • 禁中 … 宮中。
  • 直 … 宿直する。
  • 憶 … 『全唐詩』には「一作寄」と注する。『文苑英華』では「寄」に作る。
  • 元九 … 中唐の詩人、元稹(779~831)を指す。字(あざな)は微之(びし)。九は排行。このとき、江陵(湖北省江陵県)に左遷されていた。ウィキペディア【元シン】参照。
  • この詩は、元和五年(810)、親友の元稹を思って詠んだ詩。白居易三十九歳の作。
  • 白居易 … 772~846。中唐の詩人。字(あざな)は楽天、号は香山居士。貞元十六年(800)、進士に及第。翰林学士、左拾遺などを歴任後、江州(江西省九江)司馬に左遷された。のち中央に復帰し、最後は刑部尚書の肩書で退官した。詩風は平易を第一とした。詩文集『白(はく)氏(し)文(もん)集(じゅう)』は平安時代に我が国へ伝えられ、日本文学に多大な影響を与えた。ウィキペディア【白居易】参照。
銀臺金闕夕沈沈
銀台(ぎんだい) 金闕(きんけつ) 夕(ゆう)べ沈沈(ちんちん)
  • 銀台 … 「宮殿全体の美称・総称」とする説と、「宮殿の門の名、銀台門ないし、その北にあった翰林院」とする説との、二つに解釈が分かれる。
  • 金闕 … 天子の宮殿。金は、美称。闕は、もと宮殿の門。転じて宮殿。『神異経』西北荒経に「西北の荒中に二金闕有り、…相去ること百丈にして、上に明月珠有り、径は三丈にして、光は千里を照らす」(西北荒中有二金闕、…相去百丈、上有明月珠、徑三丈、光照千里)とある。ウィキソース「神異經」参照。また、南朝陳の張正見の楽府「神仙篇」(『楽府詩集』巻六十四)に「鸞(らん)歌(か)鳳(ほう)舞(ぶ) 天台に集い、金闕銀宮 相向かいて開く」(鸞歌鳳舞集天台、金闕銀宮相向開)とある。鸞歌鳳舞は、美しい歌舞の喩え。ウィキソース「樂府詩集/064卷」参照。また、南朝梁の武帝の楽府「遊女の曲」(『楽府詩集』巻五十、『玉台新詠』巻九・宋刻不収)に「珠(たま)珮(お)びたる婐㛂(わが) 金闕に戯(たわむ)る」(珠珮婐㛂戲金闕)とある。婐㛂は、女性が弱々しく美しいさま。ウィキソース「遊女曲 (蕭衍)」参照。
  • 夕 … ここでは夜。夕方ではない。
  • 沈沈 … 夜が静かにふけていくさま。畳韻(二字が同じ母音で終わる)の語。司馬相如「上林の賦」(『文選』巻八)に「沈沈(ちんちん)隠隠(いんいん)として、砰磅(ほうほう)訇磕(こうかい)たり」(沈沈隱隱、砰磅訇磕)とあり、李善注に「沈沈(ちんちん)は、深(ふか)き貌(さま)なり」(沈沈、深貌也)とある。砰磅と訇磕は、どちらも水が激しく流れるときの大きな音の形容。砰磅は、双声(二字の語頭子音が同じ)の語。ウィキソース「昭明文選/卷8」参照。
獨宿相思在翰林
独(どく)宿(しゅく) 相(あい)思(おも)うて 翰林(かんりん)に在(あ)り
  • 独宿 … 独りで宿直する。
  • 相思 … 相手を思う。「相」は「互いに」という意味ではない。
  • 翰林 … 翰林院。詔勅等を掌る役所。白居易は翰林学士であった。
三五夜中新月色
三(さん)五(ご)夜(や)中(ちゅう) 新月(しんげつ)の色(いろ)
  • 三五夜 … 十五夜。
  • 新月 … 「空にのぼったばかりの月」とする説と、「中天にのぼった清新な輝きをもつ月」とする説との、二つに解釈が分かれる。
二千里外故人心
二(に)千(せん)里(り)外(がい) 故(こ)人(じん)の心(こころ)
  • 二千里外 … 長安と江陵との距離を指す。
  • 故人 … 昔なじみの友人。元稹を指す。
渚宮東面煙波冷
渚(しょ)宮(きゅう)の東面(とうめん)は 煙(えん)波(ぱ)冷(ひや)やかに
  • 渚宮 … 湖北省江陵の東南にあった古跡。戦国時代、楚の襄王の離宮。また、これを長安城中の実景とする説もある。
  • 煙波 … もやの立ちこめた水面。
浴殿西頭鐘漏深
浴殿(よくでん)の西頭(せいとう)は 鐘(しょう)漏(ろう)深(ふか)し
  • 浴殿 … 翰林院のすぐそばにあった浴堂殿を指す。
  • 西頭 … 西のあたり。
  • 鐘漏 … 時を知らせる鐘と、漏刻(水時計)の音。
  • 深 … 夜が更(ふ)けていくことを表す。
猶恐清光不同見
猶(な)お恐(おそ)る 清光(せいこう) 同(おな)じく見(み)ざらんことを
  • 猶 … 「なお」と読み、「やはり」「それでもなお」と訳す。「猶」は「なお~のごとし」と読む再読文字であるが、ここでは再読しない。
  • 恐 … 心配だ。気にかかる。
  • 清光 … 澄み切った月の光。
  • 不同見 … 白居易が長安で見ている月は、江陵にいる元稹には同じように美しく見えないだろう。
江陵卑濕足秋陰
江(こう)陵(りょう)は卑(ひ)湿(しつ)にして 秋(しゅう)陰(いん)足(た)る
  • 江陵 … 湖北省江陵県。一名、荊(けい)州(しゅう)。
  • 卑湿 … 地が低く、じめじめしている。
  • 秋陰 … 秋のくもり空。
  • 足 … ここでは多い。
詩型・韻字
  • 七言律詩。
  • 沈・林・心・深・陰(下平声侵韻)。
テキスト
  • 『白氏文集』巻十四(『四部叢刊 初編集部』所収、通称:四部叢刊本・那波本)
  • 『白氏文集』巻十四(南宋紹興刊本、通称:紹興本)
  • 『白氏文集』巻十四(明馬元調校刊本、通称:馬本)
  • 『白香山詩集』巻十四(清汪立名編訂本、通称:汪本)
  • 『全唐詩』巻四百三十七(排印本、中華書局、1960年)
  • 『文苑英華』巻一百五十一(影印本、中華書局、1966年)
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