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八月十五日夜禁中独直対月憶元九(白居易)

八月十五日夜禁中獨直對月憶元九
八月はちがつじゅうにちよるきんちゅうひとちょくし、つきたいしてげんきゅうおも
はくきょ
  • 〔テキスト〕 『白氏文集』巻十四(『四部叢刊 初編集部』所収、通称:四部叢刊本・那波本)、『白氏文集』巻十四(南宋紹興刊本、通称:紹興本)、『白氏文集』巻十四(明馬元調校刊本、通称:馬本)、『白香山詩集』巻十四(清汪立名編訂本、通称:汪本)、『全唐詩』巻四百三十七、『文苑英華』巻一百五十一、他
  • 七言律詩。沈・林・心・深・陰(平声侵韻)。
  • ウィキソース「八月十五日夜禁中獨直對月憶元九」参照。
  • 元和五年(810)、親友の元稹を思って詠んだ詩。白居易三十九歳の作。
  • 八月十五日夜 … 旧暦、仲秋の名月の夜。『文苑英華』では「八月十五夜」に作る。
  • 禁中 … 宮中。
  • 直 … 宿直する。
  • 憶 … 『全唐詩』には「一作寄」とある。『文苑英華』では「寄」に作る。
  • 元九 … 中唐の詩人、元稹(779~831)を指す。あざな微之びし。九は排行。このとき、江陵(湖北省江陵県)に左遷されていた。ウィキペディア【元シン】参照。
  • 白居易 … 772~846。中唐の詩人。あざなは楽天、号は香山居士。貞元十六年(800)、進士に及第。翰林学士、左拾遺などを歴任後、江州(江西省九江)司馬に左遷された。のち中央に復帰し、最後は刑部尚書の肩書で退官した。詩風は平易を第一とした。詩文集『はくもんじゅう』は平安時代に我が国へ伝えられ、日本文学に多大な影響を与えた。ウィキペディア【白居易】参照。
銀臺金闕夕沈沈
銀台ぎんだい 金闕きんけつ ゆう沈沈ちんちん
  • 銀台 … 「宮殿全体の美称・総称」とする説と、「宮殿の門の名、銀台門ないし、その北にあった翰林院」とする説との、二つに解釈が分かれる。
  • 金闕 … 天子の宮殿。「闕」は宮殿の門のこと。
  • 夕 … ここでは夜。夕方ではない。
  • 沈沈 … 夜が静かにふけていくさま。畳韻(二字が同じ母音で終わる)語。司馬相如「上林の賦」(『文選』巻八)に「沈沈ちんちん隠隠いんいんとして、砰磅ほうほう訇磕こうかいたり」(沈沈隱隱、砰磅訇磕)とあり、李善注に「沈沈ちんちんは、ふかかたちなり」(沈沈、深貌也)とある。砰磅と訇磕は、どちらも水が激しく流れるときの大きな音の形容。砰磅は、双声(二字の語頭子音が同じ)語。ウィキソース「昭明文選/卷8」参照。
獨宿相思在翰林
どく宿しゅく あいおもうて 翰林かんりん
  • 独宿 … 独りで宿直する。
  • 相思 … 相手を思う。「相」は「互いに」という意味ではない。
  • 翰林 … 翰林院。詔勅等を司る役所。白居易は翰林学士であった。
三五夜中新月色
さんちゅう 新月しんげついろ
  • 三五夜 … 十五夜。
  • 新月 … 「空にのぼったばかりの月」とする説と、「中天にのぼった清新な輝きをもつ月」とする説との、二つに解釈が分かれる。
二千里外故人心
せんがい じんこころ
  • 二千里外 … 長安と江陵との距離を指す。
  • 故人 … 昔なじみの友人。元稹を指す。
渚宮東面煙波冷
しょきゅう東面とうめんは えんひややかに
  • 渚宮 … 湖北省江陵の東南にあった古跡。戦国時代、楚の襄王の離宮。また、これを長安城中の実景とする説もある。
  • 煙波 … もやの立ちこめた水面。
浴殿西頭鐘漏深
浴殿よくでん西頭せいとうは しょうろうふか
  • 浴殿 … 翰林院のすぐそばにあった浴堂殿を指す。
  • 西頭 … 西のあたり。
  • 鐘漏 … 時を知らせる鐘と、漏刻(水時計)の音。
  • 鐘 … 『文苑英華』では「鍾」に作る。同義。
  • 深 … 夜がけていくことを表す。
猶恐清光不同見
おそる 清光せいこう おなじくざらんことを
  • 猶 … 「なお」と読み、「やはり」「それでもなお」と訳す。「猶」は「なお~のごとし」と読む再読文字であるが、ここでは再読しない。
  • 恐 … 心配だ。気にかかる。
  • 清光 … 澄み切った月の光。
  • 不同見 … 白居易が長安で見ている月は、江陵にいる元稹には同じように美しく見えないだろう。
江陵卑濕足秋陰
こうりょう湿しつにして しゅういん
  • 江陵 … 湖北省江陵県。一名、けいしゅう
  • 卑湿 … 地が低く、じめじめしている。
  • 濕 … 「湿」の旧字といわれているが本来は俗字。『全唐詩』では「溼」に作る。「溼」が本来の「湿」の旧字。
  • 秋陰 … 秋のくもり空。
  • 足 … ここでは多い。
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