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帰雁(銭起)

歸雁
がん
せん
  • 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻二百三十九、『三体詩』七言絶句・実接、『銭考功集』巻十(『四部叢刊 初篇集部』所収)、『銭考功集』巻十(『唐五十家詩集』所収)、『唐詩品彙』巻四十九、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十四(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、62頁)、『唐詩別裁集』巻二十、他
  • 七言絶句。囘・苔・來(平声灰韻)。
  • ウィキソース「歸雁 (錢起)」参照。
  • 詩題 … 春になって北へ帰る雁のこと。
  • 雁 … 『唐詩選』『四部叢刊本』『唐五十家詩集本』『唐詩品彙』では「鴈」に作る。同義。
  • この詩は、春になって北へ帰る雁を詠じたもの。最初の二句は帰っていく雁への問い、後の二句は雁からの答えという構成になっている。
  • 銭起 … 710?(722?)~780?。中唐の詩人。呉興(浙江省呉興区)の人。あざなは仲文。天宝十載(751)、進士に及第。校書郎から藍田県(陝西省藍田県)の県尉を経て、考功郎中に進み、太清宮使・翰林学士に至った。大暦十才子の一人。郎士元とともに「銭郎」と称された。『銭考功集』十巻がある。ウィキペディア【銭起】参照。
瀟湘何事等閑囘
瀟湘しょうしょう 何事なにごとぞ 等閑とうかんかえ
  • 瀟湘 … 瀟水と湘江(湘水)。洞庭湖に南から流れこむ二つの川の名。洞庭湖の南の流域一帯を指す。『水経注』湘水の条に「瀟とは、水清深せいしんなり。湘中記に曰く、湘川は清照なること五六丈、した、底の石を見ることちょの矢の如く、五色鮮明なり。白沙は霜雪の如く、赤岸は朝霞の若し。是れ瀟湘の名をるるなり」(瀟者、水清深也。湘中記曰、湘川清照五六丈、下見底石如樗蒲矢、五色鮮明。白沙如霜雪、赤岸若朝霞。是納瀟湘之名矣)とある。樗蒲は、ばくち。ウィキソース「水經注/38」参照。また魏の曹植の「雑詩六首 其の四」(『文選』巻二十九)に「朝に江北の岸に遊び、ゆうべに瀟湘のなぎさに宿す」(朝遊江北岸、夕宿瀟湘沚)とある。ウィキソース「曹子建集 (四部叢刊本)/卷第五」参照。また南朝斉の謝朓の「新亭しんていなぎさにてはんれいりょうわかるる」(『文選』巻二十)に「洞庭どうていがくるの瀟湘しょうしょうにはていあそぶ」(洞庭張樂地、瀟湘帝子遊)とある。帝子は、堯帝の二人の娘、娥皇と女英のこと。ウィキソース「新亭渚別范零陵詩」参照。
  • 何事 … どういうわけで。どうして。
  • 等閑 … 心にかけない。意に留めない。問題にしない。
  • 閑 … 『全唐詩』『万首唐人絶句』『唐詩別裁集』では「閒」に作る。同義。
  • 回 … 北へ帰って行くのか。『唐詩選』では「囘」に作る。異体字。
水碧沙明兩岸苔
みずみどりすなあきらかにしてりょうがんこけむす
  • 水碧 … 水は青く澄んで。
  • 沙明 … 砂は白く輝いて。
  • 両岸苔 … 両方の岸にはみずみずしい苔が生じている。
二十五絃彈夜月
じゅうげん げつだんずれば
  • 二十五絃 … 二十五弦のおおごと。『史記』封禅書に「るひといわく、太帝たいていじょをしてじゅうげんしつせしむ。かなし、ていきんずれどもまず。ゆえしつやぶりてじゅうげんせり、と」(或曰、太帝使素女鼓五十弦瑟。悲、帝禁不止。故破其瑟爲二十五弦)とある。ウィキソース「史記/卷028」参照。
  • 弾夜月 … (湘江の女神が)月夜の空に向かって弾く(のを聞くと)。
不勝清怨却飛來
清怨せいえんえずして きゃくきた
  • 清怨 … 清らかで哀怨な調べ。清く哀れな音。
  • 不勝 … 堪えきれず。堪えかねて。「不堪」と同じ。
  • 却飛来 … 南方の瀟湘から北方へ飛び帰ること。「来」は助辞。意味はない。簡野道明『唐詩選詳説』(明治書院、昭和四年)では「きゃくせるならん」と読んでいる。また、「来」を助辞と見ない場合は「かえってたらん」と読み、「一度北方へ飛び立ったが、また南方へ飛び帰ってくる」という解釈になる。
  • 却 … 『唐詩選』『全唐詩』『万首唐人絶句』『唐詩別裁集』では「卻」に作る。異体字。
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