>   漢詩   >   唐詩選   >   巻七 七絶   >   送李判官之潤州行営(劉長卿)

送李判官之潤州行営(劉長卿)

送李判官之潤州行營
李(り)判官(はんがん)の潤州(じゅんしゅう)の行営(こうえい)に之(ゆ)くを送(おく)る
劉(りゅう)長(ちょう)卿(けい)
  • 七言絶句。鼙・西・蹄(平声齊韻)。
  • ウィキソース「送李判官之潤州行營」参照。
  • 詩題 … 『唐五十家詩集本』では「送李判官之任潤州行營」に作る。
  • 李 … 李某。人物については不詳。
  • 判官 … 官名。節度使・観察使などの属官。長官を補佐する職。
  • 潤州 … 州名。現在の江蘇省鎮江市。浙江観察使の役所があった。『読史方輿紀要』江南、鎮江府に「禹(う)貢(こう)揚(よう)州(しゅう)の域(いき)、春秋(しゅんじゅう)の時(とき)呉地(ごち)、後(のち)越(えつ)に属(ぞく)す。戦国(せんごく)は楚(そ)に属(ぞく)す。秦(しん)、会稽郡(かいけいぐん)の地(ち)と為(な)し、漢(かん)、之(これ)に因(よ)る。……隋(ずい)、陳(ちん)を平(たい)らげ、州(しゅう)・郡(ぐん)倶(とも)に廃(はい)し、延(えん)陵(りょう)県(けん)と為(な)す。開皇(かいこう)十(じゅう)五(ご)年(ねん)、潤州(じゅんしゅう)を置(お)き、大(たい)業(ぎょう)の初(はじ)め、州(しゅう)廃(はい)し、江(こう)都(と)郡(ぐん)に属(ぞく)す」(禹貢揚州之域、春秋時吳地、後屬越。戰國屬楚。秦爲會稽郡地、漢因之。……隋平陳、州郡俱廢、爲延陵縣。開皇十五年置潤州、大業初州廢、屬江都郡)とある。ウィキソース「讀史方輿紀要/卷二十五」参照。ウィキペディア【鎮江市】参照。
  • 行営 … 節度使や観察使の役所。ここでは李判官が赴任する浙江観察使の役所を指す。
  • 之 … 行く。赴く。
  • 送 … 見送る。
  • この詩は、李判官が潤州(今の江蘇省鎮江市)の浙江観察使の役所へ赴くのを見送って作ったもの。
  • 劉長卿 … 726?~790?。中唐の詩人。河間(河北省河間市)の人。一説に宣城(安徽省宣城市)の人。字(あざな)は文房。開元二十一年(733)、進士に及第。監察御史などの官職を歴任したが、のちに左遷され、最後は随州(湖北省随州市)刺史となって終わった。このことから「劉随州」とも呼ばれた。『劉随州文集』がある。ウィキペディア【劉長卿】参照。
萬里辭家事鼓鼙
万(ばん)里(り) 家(いえ)を辞(じ)して鼓(こ)鼙(へい)を事(こと)とす
  • 万里 … 万里の彼方へ。
  • 辞家 … 自分の家を離れて。西晋の陸機「顧(こ)彦先(げんせん)の為(ため)に婦(つま)に贈(おく)る」詩(『文選』巻二十四、『玉台新詠』巻三)の第一首に「家(いえ)を辞(じ)して遠(とお)く行遊(こうゆう)す、悠悠(ゆうゆう)三(さん)千(ぜん)里(り)」(辭家遠行遊、悠悠三千里)とある。ウィキソース「為顧彥先贈婦二首」参照。
  • 事鼓鼙 … 軍務に従事することとなった。
  • 鼓鼙 … 鼓は、太鼓。鼙は、騎兵が馬上で打ち鳴らす小太鼓で柄がある。転じて、軍事・軍務をいう。『礼記』楽記篇に「鼓(こ)鼙(へい)の声(こえ)は讙(かん)なり、讙(かん)以(もっ)て動(どう)を立(た)て、動(どう)以(もっ)て衆(しゅう)を進(すす)む。君(くん)子(し)鼓(こ)鼙(へい)の声(こえ)を聴(き)けば、則(すなわ)ち将(しょう)帥(すい)の臣(しん)を思(おも)う」(鼓鼙之聲讙、讙以立動、動以進衆。君子聽鼓鼙之聲、則思將帥之臣)とある。讙は、かまびすしい。ウィキソース「禮記/樂記」参照。
金陵驛路楚雲西
金(きん)陵(りょう)の駅(えき)路(ろ) 楚(そ)雲(うん)の西(にし)
  • 金陵 … 江蘇省南京市の古名。戦国時代、楚が金陵邑(ゆう)を設置した。三国時代、呉の孫権が建業と称して都を置いた。晋代、建康と改めた。南京の雅称として用いられる。『晋書』王導伝に「建康(けんこう)は、古(いにしえ)の金(きん)陵(りょう)、旧(もと)帝(てい)里(り)たり」(建康、古之金陵、舊為帝里)とある。帝里は、天子の住む土地。帝都。ウィキソース「晉書/卷065」参照。ウィキペディア【南京市】参照。
  • 駅路 … 駅亭間をつなぐ街道。駅亭は、宿駅のこと。旅人を泊めたり、荷物を運ぶ馬や人夫などの交換をする所。うまやじ。『宋書』劉(りゅう)勔(べん)伝に「臣(しん)又た以為(おも)えらく、郾(えん)城(じょう)は是れ賊、駅路戍(じゅ)を要す、且(しばら)く蛮(ばん)を経て嶮(けん)に接す、数百里の中、糧(りょう)を裹(つつ)みて潜(ひそ)かに進む」(臣又以爲、郾城是賊、驛路要戍、且經蠻接嶮、數百里中、裹糧潛進)とある。ウィキソース「宋書/卷86」参照。また、南朝斉の孔稚珪「北山移文」(『文選』巻四十三)に「鍾(しょう)山(ざん)の英(えい)、草堂の霊、煙を駅路に馳せ、移(い)を山庭に勒(きざ)ましむ」(鍾山之英、草堂之靈、馳煙驛路、勒移山庭)とある。鍾山は、現在の南京市にある紫金山の古名。英は、神霊。移は、移文。勒は、刻む。ウィキソース「北山移文」参照。
  • 楚雲西 … 楚の空に立ちこめる雲の西。ここでは楚雲の西が送別の地なのか、潤州を指すのかはっきりしない。
江春不肯留行客
江(こう)春(しゅん) 肯(あえ)て行客(こうかく)を留(とど)めず
  • 江春 … 長江のほとりの春景色。
  • 不肯 … 「あえて~せず」と読み、「決して~しない」「進んで~しようとしない」と訳す。
  • 行客 … 旅ゆく人。李判官を指す。盛唐の李頎(りき)「綦毋(きぶ)校書(こうしょ)の別(べつ)業(ぎょう)に題(だい)す」詩に「行客(こうかく)暮(ぼ)帆(はん)遠(とお)く、主人(しゅじん)庭樹(ていじゅ)の秋(あき)」(行客暮帆遠、主人庭樹秋)とある。暮帆は、夕暮れの帆掛け舟。ウィキソース「題綦毋校書別業」参照。
  • 行 … 『全唐詩』では「歸」に作り、「一作行」と注する。『四部叢刊本』『唐五十家詩集本』では「歸」に作る。
  • 不留 … 引き留めようとはしない。
艸色靑靑送馬蹄
草(そう)色(しょく) 青青(せいせい)として馬(ば)蹄(てい)を送(おく)る
  • 草色 … 草の色。若草の色。
  • 青青 … 青々と茂る。『詩経』衛風・淇奥に「彼(か)の淇(き)奧(いく)を瞻(み)れば、緑(りょく)竹(ちく)青青(せいせい)たり」(瞻彼淇奧、綠竹靑靑)とある。淇は、川の名。奧は、隈。ウィキソース「詩經/淇奧」参照。また「古詩十九首」(『文選』巻二十九)の第二首に「青青(せいせい)たる河(か)畔(はん)の草(くさ)、鬱鬱(うつうつ)たる園(えん)中(ちゅう)の柳(やなぎ)」(青青河畔草、鬱鬱園中柳)とある。鬱鬱は、さかんに茂っているさま。ウィキソース「青青河畔草」参照。
  • 送馬蹄 … (青々とした草までも)君が乗る馬の蹄(ひづめ)を見送っているようである。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻七(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)
  • 『全唐詩』巻一百五十(排印本、中華書局、1960年)
  • 『劉随州詩集』巻八(『四部叢刊 初篇集部』所収)
  • 『劉随州集』巻十(明銅活字本、『唐五十家詩集』所収、上海古籍出版社、1989年)
  • 『唐詩品彙』巻四十九([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十四(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)
  • 『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
歴代詩選
古代 前漢
後漢 魏
晋 南北朝
初唐 盛唐
中唐 晩唐
北宋 南宋
金 元
明 清
唐詩選
巻一 五言古詩 巻二 七言古詩
巻三 五言律詩 巻四 五言排律
巻五 七言律詩 巻六 五言絶句
巻七 七言絶句
詩人別
あ行 か行 さ行
た行 は行 ま行
や行 ら行