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西亭春望(賈至)

西亭春望
西亭(せいてい)の春(しゅん)望(ぼう)
賈至(かし)
  • 七言絶句。青・冥・庭(下平声青韻)。
  • ウィキソース「西亭春望」参照。
  • 西亭 … 岳州(今の湖南省岳陽市)の町の西にあった亭。岳陽楼の近くにあったと思われる。亭は、庭園の中に設けられた休憩所で、壁のない建物。物見やぐら。あずまや。ウィキペディア【亭】参照。
  • 春望 … 春の眺(なが)め。
  • この詩は、作者が岳陽に謫居(たっきょ)(遠方に流されて、その地に住むこと)していたとき、岳陽の町の西にあった亭で春景色を眺めて作ったもの。
  • 賈至 … 718~772。盛唐の詩人。洛陽(河南省洛陽市)の人。字(あざな)は幼(よう)幾(き)、一説には幼隣(ようりん)ともいう。賈(か)曾(そう)の子。開元二十三年(735)、李頎(りき)・李華(りか)・蕭(しょう)穎(えい)士(し)らとともに進士に及第し、さらに天宝十載(751)、明経の科に及第した。単(ぜん)父(ほ)(山東省)の尉をはじめ、起居舎人・知制誥などを歴任。至徳二載(757)、長安に帰って中書舎人となった。のちに岳州(湖南省岳陽市)に流されたが、宝応元年(762)、召還されて中書舎人に復帰した。大暦五年(770)、京兆尹兼御史大夫に進み、右散騎常侍に至って卒した。ウィキペディア【賈至】参照。
日長風暖柳靑靑
日(ひ)長(なが)く風(かぜ)暖(あたた)かにして柳(やなぎ)青青(せいせい)たり
  • 日長 … 春の日が長い。昼の間が長いこと。
  • 青青 … 青々と芽を吹いた。『詩経』衛風・淇奥に「彼(か)の淇(き)奧(いく)を瞻(み)れば、緑(りょく)竹(ちく)青青(せいせい)たり」(瞻彼淇奧、綠竹靑靑)とある。淇は、川の名。奧は、隈。ウィキソース「詩經/淇奧」参照。また「古詩十九首」(『文選』巻二十九)の第二首に「青青(せいせい)たる河(か)畔(はん)の草(くさ)、鬱鬱(うつうつ)たる園(えん)中(ちゅう)の柳(やなぎ)」(青青河畔草、鬱鬱園中柳)とある。鬱鬱は、さかんに茂っているさま。ウィキソース「青青河畔草」参照。
北雁歸飛入窅冥
北雁(ほくがん)帰(かえ)り飛(と)んで窅冥(ようめい)に入(い)る
  • 北雁 … 春になって北へ帰っていく雁(かり)。南朝陳の江総「長安に於いて揚州に帰還するとき、九月九日薇(び)山(ざん)亭(てい)に行きて賦せる韻」詩に「心(こころ)は南雲(なんうん)を逐(お)いて逝(ゆ)き、形(かたち)は北雁(ほくがん)に随(したが)いて来(きた)る」(心逐南雲逝、形隨北雁來)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷115」参照。
  • 帰飛 … 『詩経』小雅・小(しょう)弁(はん)に「弁(はん)たる彼(か)の鸒斯(よし)、帰(かえ)り飛(と)んで提提(しし)たり」(弁彼鸒斯、歸飛提提)とある。弁は、鳥が羽ばたきして飛ぶさま。鸒斯は、からすの一種。普通のからすより小さく、腹の下が白い。提提は、多くの鳥が群がり飛ぶさま。ウィキソース「詩經/小弁」参照。
  • 窅冥 … 奥深くて暗く、見えにくいさま。ここでは大空の遥か彼方をいう。『老子』二十一章に「窈(よう)たり冥(めい)たり、其(そ)の中(うち)に精(せい)有(あ)り」(窈兮冥兮、其中有精)とある。窈は、窅にほぼ同じ。
  • 入 … 消え入る。消えていく。
岳陽城上聞吹笛
岳陽(がくよう)城(じょう)上(じょう) 吹笛(すいてき)を聞(き)く
  • 岳陽城上 … 岳陽楼の上で。岳陽楼は、城郭の西門の高楼。洞庭湖に面している。ウィキペディア【岳陽楼】参照。あるいは「岳陽の城壁の上」という解釈もある。
  • 城 … 『唐詩別裁集』では「樓」に作る。
  • 聞吹笛 … 笛を吹くのが聞こえてくる。このとき、作者は岳陽楼の上にいるのではなく、西亭にいて、岳陽楼の上の辺りから笛の音(ね)が聞こえてくるものと解釈した。
能使春心滿洞庭
能(よ)く春(しゅん)心(しん)をして洞庭(どうてい)に満(み)たしむ
  • 春心 … わが春の愁いを含む思い。ここでは岳陽に左遷されている作者のやるせない思いを指す。『楚辞』招魂に「湛湛(たんたん)たる江水(こうすい)、上(うえ)に楓(ふう)有(あ)り、目(め)は千(せん)里(り)を極(きわ)めて、春(しゅん)心(しん)を傷(いた)ましむ」(湛湛江水兮上有楓、目極千里兮傷春心)とあるのを踏まえる。ウィキソース「楚辭/招䰟」参照。
  • 満洞庭 … 洞庭湖の湖上一面に満ちわたらせる。湖上一面に広がっていく。洞庭湖は、湖南省北部にある湖。ウィキペディア【洞庭湖】参照。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻七(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻二百三十五(排印本、中華書局、1960年)
  • 『唐詩品彙』巻四十八([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十二(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩別裁集』巻十九([清]沈徳潜編、乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
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