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勧酒(于武陵)

勸酒
酒(さけ)を勧(すす)む
于(う)武(ぶ)陵(りょう)
  • ウィキソース「勸酒 (于武陵)」参照。
  • この詩は、友人に酒を勧めながら詠んだもの。後半二句から送別の歌と解釈する説もある。
  • 詩題 … 友人に酒を勧める。『全唐詩』巻五百九十五では于武陵の詩として収録されているが、巻六百でも武(ぶ)瓘(かん)の詩として収録。字句に異同はない。
  • 于武陵 … 810~?。晩唐の詩人。杜曲(陝西(せんせい)省西安市の南郊)の人。名は鄴(ぎょう)。武陵は字(あざな)であるが、通常は字(あざな)で呼び慣わされていた。宣宗の大中年間(847~860)に進士に及第したらしいが、書物と琴を携えて各地を放浪。のち、嵩山の南に隠棲した。『于武陵集』一巻がある。ウィキペディア【于武陵】参照。
勸君金屈巵
君(きみ)に勧(すす)む 金(きん)屈(くつ)卮(し)
  • 勧君 … 君に勧める。君に勧めよう。
  • 金屈卮 … 曲がった把(とっ)手(て)のついた黄金の大(おお)杯(さかずき)で、四升入るという。卮は、杯(さかずき)。『説文解字』巻九上に「卮は、圜(かん)器(き)なり」(卮、圜器也)とある。圜器は、丸い大杯。ウィキソース「說文解字/09」参照。また『東京夢華録』巻九に「御筵(ぎょえん)の酒盞(しゅさん)は皆な屈卮、菜碗様(さいわんよう)の如くして、手(しゅ)把子(はし)有り」(御筵酒盞皆屈卮、如菜碗樣、而有手把子)とある。酒盞は、酒杯。ウィキソース「東京夢華錄/卷九」参照。また、劉宋の鮑照の楽府「行路難十八首」(『楽府詩集』巻七十)の第一首に「君に奉ず金(きん)卮(し)の美酒、玳瑁(たいまい)玉(ぎょく)匣(こう)の彫(ちょう)琴(きん)」(奉君金卮之美酒、玳瑁玉匣之彫琴)とある。玳瑁玉匣は、鼈甲(べっこう)飾りの玉(ぎょく)の箱。彫琴は、彫刻のある琴。ウィキソース「樂府詩集/070卷」参照。
滿酌不須辭
満(まん)酌(しゃく) 辞(じ)するを須(もち)いず
  • 満酌 … 杯(さかずき)になみなみと酒を注(つ)ぐこと。南朝梁の徐君蒨(じょくんせん)「初春内人(ないじん)を携(たずさ)えて行〻(ゆくゆく)戯(たわむ)る」詩(『玉台新詠』巻八)に「満酌す蘭英(らんえい)の酒、此(これ)に対して神(しん)を娯(たの)しますことを得(う)」(滿酌蘭英酒、對此得娯神)とある。内人は、自分の妻を謙遜(けんそん)して言うことば。蘭英は、蘭の花。ウィキソース「初春攜內人行戲」参照。また、南朝陳の江総の楽府「梅花落三首」(『楽府詩集』巻二十四)の第三首に「金卮に満酌して玉柱を催(うなが)し、落梅 樹下 宜しく歌舞すべし」(滿酌金卮催玉柱、落梅樹下宜歌舞)とある。玉柱を催(うなが)すとは、早く演奏するよう急き立てること。玉柱は、琴(こと)柱(じ)。ウィキソース「樂府詩集/024卷」参照。
  • 不須辞 … 辞退してはいけない。辞退などしたもうな。不須は、「~(する)をもちいず」と読み、「~する必要はない」「~してはいけない」と訳す。辞は、断る。辞退する。『史記』項羽本紀に「樊噲(はんかい)曰く、臣は死すら且つ避けず。卮(し)酒(しゅ)は安(いず)くんぞ辞するに足らん、と」(樊噲曰、臣死且不避。巵酒安足辭)とある。ウィキソース「史記/卷007」参照。
花發多風雨
花(はな)発(ひら)いて 風(ふう)雨(う)多(おお)し
  • 花発 … 花が開く。花が咲く。南朝梁の劉緩「敬(つつし)んで劉長史が『名士傾城(けいせい)を悦(よろこ)ぶ』を詠ずるに酬(むく)ゆ」詩(『玉台新詠』巻八)に「遥かに見れば花発(ひら)くかと疑い、香を聞けば春に異なるを知る」(遙見疑花發、聞香知異春)とある。長史は、官名。刺史(地方長官)の属官。傾城は、美人。ウィキソース「敬詶劉長史詠名士悅傾城」参照。
  • 風雨 … 風や雨。雨風(あめかぜ)。『詩経』鄭風・風雨に「風雨淒淒(せいせい)たり、鶏鳴(けいめい)喈喈(かいかい)たり」(風雨淒淒、雞鳴喈喈)とある。淒淒は、冷たい風が吹き、雨が降りしきるさま。鶏鳴は、鶏(にわとり)の鳴き声。喈喈は、多くの鳥が一斉に鳴く声の形容。ウィキソース「詩經/風雨」参照。また、西晋の左思の楽府「嬌女詩」(『玉台新詠』巻二)に「華を貪(むさぼ)る風雨の中(うち)、倏(しゅく)忽(こつ)数百適」(貪華風雨中、倏忽數百適)とある。倏忽は、時間の極めて短い様子。たちまち。ウィキソース「嬌女詩」参照。
人生足別離
人生(じんせい) 別(べつ)離(り)足(た)る
  • 人生 … 人の生涯。人の一生。『漢書』蘇武伝に「人生は朝(ちょう)露(ろ)の如し、何ぞ久しく自ら苦しむること此(かく)の如き」(人生如朝露、何久自苦如此)とある。ウィキソース「漢書/卷054」参照。
  • 別離 … 別れ。『楚辞』九歌・少司命に「悲しきは生(い)きながら別離より悲しきは莫(な)く、楽しきは新しく相(あい)知(し)るより楽しきは莫(な)し」(悲莫悲兮生別離、樂莫樂兮新相知)とある。ウィキソース「九歌」参照。
  • 足 … 多い。充分。いっぱいある。たっぷりある。『史記』項羽本紀に「大王の士卒を料(はか)るに、以て項王に当(あた)るに足るか」(料大王士卒、足以當項王乎)とある。大王は、劉邦を指す。士卒は、士卒の力量を指す。ウィキソース「史記/卷007」参照。
余説
 この詩には井伏鱒二の名訳がある。
  コノサカヅキヲ受ケテクレ
  ドウゾナミナミツガシテオクレ
  ハナニアラシノタトヘモアルゾ
  「サヨナラ」ダケガ人生ダ
    (井伏鱒二『厄除け詩集』)
 なお、「ハナニアラシノタトヘ」とは「月に叢雲(むらくも)、花に風(=嵐)」のこと。とかく物事には邪魔が起こりやすいことのたとえ。
詩型・韻字
  • 五言絶句。
  • 巵・辭・離(上平声支韻)。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻六(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻五百九十五(排印本、中華書局、1960年)
  • 『全唐詩』巻六百(排印本、中華書局、1960年)※作者:武瓘として収録
  • 『唐詩解』巻二十四(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩品彙』巻四十四([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩別裁集』巻十九([清]沈徳潜編、乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『万首唐人絶句』五言・巻十三(明嘉靖本影印、文学古籍刊行社、1955年)
  • 『才調集』巻八(傅璇琮編撰『唐人選唐詩新編』、陝西人民教育出版社、1996年)
  • 松浦友久編『校注 唐詩解釈辞典』(大修館書店、1987年)
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