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臨高台(王維)

臨高臺
臨高台りんこうだい
おう
  • 五言絶句。極・息(入声職韻)。
  • ウィキソース「臨高臺送黎拾遺」参照。
  • 詩題 … 楽府題。高台に登って見渡すこと。「漢どう十八曲」の一つ。鐃歌とは、行軍の際、馬上でどらを鳴らして歌う軍楽。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷015」参照。底本には「本集にはれいしゅうきんを送るに作る」(本集作送黎拾遺昕)との注がある。黎拾遺昕とは、拾遺の官にあった作者の友人、黎昕れいきんのこと。黎は姓、昕は名。拾遺は官名。左・右の拾遺があり、天子の言行の誤りを諫める。『元和姓纂』巻三、黎の条に「唐右拾遺犂昕」(黎と犂は通用)とあり、右拾遺を務めた人物であったことがわかる。ウィキソース「元和姓纂 (四庫全書本)/卷03」参照。本集及び『全唐詩』等では「臨高台、黎拾遺を送る」(臨高臺送黎拾遺)に作る(各テキストの詩題については、下記の「テキスト」欄参照)。『趙注本』には題下に「万首唐人絶句には臨高台の三字無し」(萬首唐人絕句無臨高臺三字)との注があり、『万首唐人絶句』では「送黎拾遺」に作る。『四部叢刊本』では「臨高臺黎拾遺」に作る。誤写か? 『唐詩品彙』には題下に「送黎拾遺」との注がある。『唐詩別裁集』には題下に「古楽府に臨高台の曲有り」(古樂府有臨髙臺曲)との注がある。
  • 王維 … 699?~761。盛唐の詩人、画家。太原(山西省)の人。あざなきつ。開元七年(719)、進士に及第。安禄山の乱で捕らえられたが事なきを得、乱後は粛宗に用いられてしょうじょゆうじょう(書記官長)まで進んだので、王右丞とも呼ばれる。また、仏教に帰依したため、詩仏と称される。『王右丞文集』十巻がある。ウィキペディア【王維】参照。
相送臨高臺
あいおくりて 高台こうだいのぞめば
  • 相送 … (友人を)見送る。「相」は、ここでは「互いに」という意味ではなく、動作に対象があることを示す言葉。「ざん」詩(二十五首 其の十九、『楽府詩集』清商曲辞、呉声歌曲)に「相送る労労渚ろうろうしょ、長江まさに満たざるべし、是れが涙の成せるところぞ」(相送勞勞渚、長江不應滿、是儂淚成許)とある。華山畿は、蘇州に近い地名。ウィキソース「樂府詩集/046卷」参照。
  • 高台 … 高い展望台。
  • 臨 … 見渡す。眺める。見下ろす。
川原杳何極
川原せんげん ようとしてなんきわまらん
  • 川原 … 川の流れている平野。日本語の「かわら」の意ではない。『漢書』食貨志に「猶お川原を塞ぎてこう洿を為すがごときなり」(猶塞川原爲潢洿也)とある。潢洿は、たまり水。貯水池。ウィキソース「漢書/卷024下」参照。
  • 杳 … はるかに遠く、かすかにしか見えないさま。
  • 何極 … どうして極まるだろうか、極まることはない。はるかに広がっている。反語形。
日暮飛鳥還
にち ちょうかえ
  • 日暮 … 日暮れ時。
  • 日 … 『静嘉堂本』では「目」に作る。誤刻か?
  • 飛鳥還 … 空飛ぶ鳥もねぐらに帰る。『顧起経注本』では「鳥飛還」に作る。陶淵明「飲酒」詩(二十首 其の五)に「さん日夕にっせきく、ちょうあいともかえる」(山氣日夕佳、飛鳥相與還)とある。ウィキソース「飲酒二十首」参照。
行人去不息
行人こうじん ってまず
  • 行人 … 旅人。黎昕を指す。前漢の李陵「蘇武に与う」詩(三首 其の三、『文選』巻二十九)に「行人久しく留まり難し、各〻言う長く相思うと」(行人難久留、各言長相思)とある。ウィキソース「與蘇武 (攜手上河樑)」参照。
  • 去不息 … とどまることなく、遠ざかっていく。「不息」は「いこわず」とも読むが、この場合も「とどまらない、休止しない」と訳す。南朝梁の沈約「東園に宿しゅくす」詩(『文選』巻二十二)に「驚麏けいくんは去りてまず、せいちょうは時に相かえりみる」(驚麏去不息、征鳥時相顧)とある。驚麏は、物に驚く鹿。麏は、キバノロ。鹿の一種。角がなく、牙がある。ウィキペディア【キバノロ】参照。征鳥は、渡り鳥。ウィキソース「宿東園」参照。
  • 去 … 『顧可久注本』では「厺」に作る。異体字。
  • 『唐詩別裁集』には、結句の下に「離情を写して能く情態をあらわさず」(寫離情能不露情態)との評語がある。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻六(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※詩題:臨高臺※底本
  • 『全唐詩』巻一百二十八(中華書局、1960年)※詩題:臨高臺送黎拾遺
  • 『王右丞文集』巻五(静嘉堂文庫蔵、略称:静嘉堂本)※詩題:臨高臺送黎拾遺
  • 『王摩詰文集』巻九(書韻楼叢刊、上海古籍出版社、2003年、略称:蜀刊本)※詩題:臨高臺送黎拾遺
  • 『須渓先生校本唐王右丞集』巻五(『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:四部叢刊本)※詩題:臨高臺遂黎拾遺
  • 顧起経注『類箋唐王右丞詩集』巻九(台湾学生書局、1970年、略称:顧起経注本)※詩題:臨高臺送黎拾遺
  • 顧可久注『唐王右丞詩集』巻五(『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、略称:顧可久注本)※詩題:臨高臺送黎拾遺
  • 趙殿成注『王右丞集箋注』巻十三(中国古典文学叢書、上海古籍出版社、1998年、略称:趙注本)※詩題:臨高臺送黎拾遺
  • 『唐詩品彙』巻三十九([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)※詩題:臨高臺送黎拾遺
  • 『唐詩別裁集』巻十九(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)※詩題:臨高臺送黎拾遺
  • 『唐詩解』巻二十二(順治十六年刊、内閣文庫蔵)※詩題:臨高臺送黎拾遺
  • 『万首唐人絶句』五言・巻四(明嘉靖刊本影印、文学古籍刊行社、1955年)※詩題:送黎拾遺
  • 『古今詩刪』巻二十(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収)※詩題:臨高臺
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