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竹里館(王維)

竹里館
ちくかん
おう
  • 五言絶句。嘯・照(去声嘯韻)。
  • ウィキソース「輞川集 (王維)/竹里館」参照。
  • 竹里館 … 竹林の中の建物の名。「輞川もうせん二十景」のうちの一つ。「輞川もうせん」は長安の南郊の藍田らんでん(陝西省藍田県)にあった王維の別荘で、「輞川もうせん荘」と名づけられた。詩友の裴迪はいてきと唱和した作品を収めた「輞川もうせん集」に収められている。ちなみに裴迪の同題の詩は「来り過ぐ竹里館、日〻に道と相親しむ。出入すれば唯だ山鳥、幽深世人無し」(來過竹里館、日與道相親。出入唯山鳥、幽深無世人)。ウィキソース「輞川集 (裴迪)/竹里館」参照。
  • 夏目漱石は、『草枕』の中でこの詩を引用し、「ただ二十字のうちにゆうべつ乾坤けんこんこんりゅうしてる」と評している。
  • 王維 … 699?~761。盛唐の詩人、画家。太原(山西省)の人。あざなきつ。開元七年(719)、進士に及第。安禄山の乱で捕らえられたが事なきを得、乱後は粛宗に用いられてしょうじょゆうじょう(書記官長)まで進んだので、王右丞とも呼ばれる。また、仏教に帰依したため、詩仏と称される。『王右丞文集』十巻がある。ウィキペディア【王維】参照。
獨坐幽篁裏
ひとす 幽篁ゆうこううち
  • 独坐 … ただひとり座る。作者を指す。三国時代、魏の阮籍「詠懐詩」(八十二首其十七、『文選』十七首其十五)に「独り空堂の上に坐す、誰かともに歓ぶ可き者ぞ」(獨坐空堂上、誰可與歡者)とある。ウィキソース「詠懷詩五言八十二首」参照。
  • 幽篁 … 奥深く茂った竹やぶ。幽は、奥深いさま。篁は、竹やぶ。『楚辞』九歌・山鬼に「幽篁ゆうこうに処りてついに天を見ず、みち険難けんなんにして独り後れてきたる」(余處幽篁兮終不見天、路險難兮獨後來)とあり、後漢の王逸の注に「幽篁は、竹林なり」(幽篁、竹林也)とある。ウィキソース「楚辭補註/卷第二」参照。また『文選』五臣注の一人、唐のりょきょうの注に「幽は深きなり、篁は竹叢なり」(幽深也、篁竹叢也)とある。ウィキソース「六臣註文選 (四庫全書本)/卷33」参照。また謝霊運「らい三瀑布を発して両渓を望む」詩に「ようも尚おはねを傾くるに、幽篁も未だかたしと為さず」(陽烏尚傾翰、幽篁未爲邅)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷058」参照。
  • 裏 … 「うち」と読み、「中、その中」と訳す。に同じ。実際、作者は竹やぶの中ではなく、竹やぶの中に建っている建物の座敷に座っていた。
彈琴復長嘯
ことだんじて 長嘯ちょうしょう
  • 弾琴 … 琴をひくこと。琴は、七弦の琴。日本の琴と違い、小さい。ウィキペディア【古琴】参照。弾は、弦をはじいて音を出すこと。晋の陶淵明「貧士を詠ず」詩(七首其三)に「栄叟は老いてなわを帯とし、欣然として方に琴を弾ず」(榮叟老帶索、欣然方彈琴)とある。ウィキソース「詠貧士」参照。
  • 復 … 「また」と読み、ここでは単に「そして」と訳す。通常は「もう一度、再び」と訳す。ちなみに「亦」は「~もまた、~も同様に」、「又」は「そのうえ~、さらに~」と訳す。
  • 長嘯 … 口をすぼめて、息を長くのばして歌うこと。『楚辞』九歎・思古に「深水に臨んで長嘯し、しばらしょうようして氾観はんかんす」(臨深水而長嘯兮、且倘佯而氾觀)とある。倘佯は、あてもなくぶらつくこと。ウィキソース「九歎」参照。
深林人不知
深林しんりん ひとらず
  • 深林 … この奥深い竹林(での楽しみ)。『楚辞』九章・涉江に「深林ようとして以て冥冥めいめいたり、猨狖えんゆうる所なり」(深林杳以冥冥兮、猨狖之所居)とあり、また九歎・思古に「冥冥めいめいたる深林、樹木鬱鬱うつうつたり」(冥冥深林兮、樹木鬱鬱)とある。猨狖は、猿。ウィキソース「楚辭/九章」「九歎」参照。
  • 人 … 世間の人。
  • 不知 … わからない。理解できない。単に「知らない」という意味ではない。
明月來相照
明月めいげつ きたりてあいらす
  • 明月 … 明るく輝く月。魏の曹丕「燕歌行」(二首其一)に「明月皎皎として我がしょうを照らし、星漢せいかん西に流れて夜未だきず」(明月皎皎照我牀、星漢西流夜未央)とある。星漢は、天の川。ウィキソース「燕歌行 (曹丕)」参照。
  • 相照 … 私を照らしてくれる。ここでの「相」は「たがいに」の意味ではなく、動作が一方から他方へと及ぶことをいう。
余説
この詩には、佐藤春夫の訳詩がある。
 竹むらにひとりうずもれ
 琴りてうそぶきれば
 やぶ深み人こそ知らね
 月かげぞおとなひにける
   (佐藤春夫『玉笛譜』)
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻六(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『唐詩三百首注疏』巻六上(廣文書局、1980年)
  • 『全唐詩』巻一百二十八(中華書局、1960年)
  • 『王右丞文集』巻四(静嘉堂文庫蔵、略称:静嘉堂本)
  • 『王摩詰文集』巻六(書韻楼叢刊、上海古籍出版社、2003年、略称:蜀刊本)
  • 『須渓先生校本唐王右丞集』巻四(『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:四部叢刊本)
  • 顧起経注『類箋唐王右丞詩集』巻九(台湾学生書局、1970年、略称:顧起経注本)
  • 顧可久注『唐王右丞詩集』巻四(『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、略称:顧可久注本)
  • 趙殿成注『王右丞集箋注』巻十三(中国古典文学叢書、上海古籍出版社、1998年、略称:趙注本)
  • 『唐詩品彙』巻三十九([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩解』巻二十二(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩別裁集』巻十九(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『万首唐人絶句』五言・巻四(明嘉靖刊本影印、文学古籍刊行社、1955年)
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