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鹿柴(王維)

鹿柴
鹿柴(ろくさい)
王(おう)維(い)
  • ウィキソース「鹿柴 (王維)」参照。
  • この詩は、鹿を放し飼いにしておく所の、囲いの柵(さく)がある辺りの優れた景色を詠んだもの。鹿柴は、鹿を囲っておく柵(さく)。「輞川(もうせん)二十景」の第五首。輞川(もうせん)は、長安の南郊の藍田(らんでん)(陝西省藍田県)にあった王維の別荘で、「輞川(もうせん)荘」と名づけられた。輞川荘には、二十か所の景勝の地があり、詩友の裴迪(はいてき)とそれぞれ一首ずつ唱和し、合計四十首の五言絶句の作品を作り、序を冠して「輞川(もうせん)集」と名づけた。「輞川集」序に「余(よ)の別(べつ)業(ぎょう)は輞川の山谷に在り。其の遊(ゆう)止(し)するに、孟(もう)城(じょう)拗(おう)、華子(かし)岡(こう)、文(ぶん)杏(きょう)館(かん)、斤竹嶺(きんちくれい)、鹿柴(ろくさい)、木蘭柴(もくらんさい)、茱(しゅ)萸(ゆ)沜(はん)、宮(きゅう)槐陌(かいはく)、臨(りん)湖(こ)亭(てい)、南(なん)垞(だ)、欹湖(いこ)、柳(りゅう)浪(ろう)、欒(らん)家(か)瀬(らい)、金屑泉(きんせつせん)、白石灘(はくせきたん)、北(ほく)垞(だ)、竹(ちく)里(り)館(かん)、辛(しん)夷塢(いう)、漆園(しつえん)、椒(しょう)園(えん)等有り。裴迪(はいてき)と閑(かん)暇(か)に、各〻絶句を賦して、爾(しか)云(い)う」(余別業在輞川山谷。其遊止、有孟城拗、華子岡、文杏館、斤竹嶺、鹿柴、木蘭柴、茱萸沜、宮槐陌、臨湖亭、南垞、欹湖、柳浪、欒家瀬、金屑泉、白石灘、北垞、竹里館、辛夷塢、漆園、椒園等。與裴迪閑暇、各賦絶句、云爾)とある。別業は、別荘。輞川荘を指す。遊止は、足をとめる場所。ウィキソース「須溪先生校本唐王右丞集 (四部叢刊本)/卷第四」参照。ちなみに裴迪(はいてき)の同題の詩は「日夕(にっせき) 寒山を見る、便ち独往(どくおう)の客(かく)と為る。知らず 深林の事、但だ麏(きん)麚(か)の跡のみ有り」(日夕見寒山、便爲獨往客。不知深林事、但有麏麚跡)。日夕は、夕方。麏麚は、牡(お)鹿(じか)。ウィキソース「輞川集 (裴迪)/鹿柴」参照。
  • 柴 … 柵。まがき。砦に同じ。『全唐詩』には、題下に「柴、士邁の切。本(も)と砦に作る。籬(り)落(らく)なり」(柴、士邁切。本作砦。籬落也)とある。籬落は、生け垣。まがき。
  • 王維 … 699?~761。盛唐の詩人、画家。太原郡祁(き)県(山西省祁県)の人。字(あざな)は摩(ま)詰(きつ)。開元七年(719)、進士に及第。安禄山の乱で捕らえられたが事なきを得、乱後は粛宗に用いられて尚書右(ゆう)丞(じょう)(書記官長)まで至ったので、王右丞とも呼ばれる。また、仏教に帰依したため、詩仏と称される。『王右丞文集』十巻がある。ウィキペディア【王維】参照。
空山不見人
空山(くうざん) 人(ひと)を見(み)ず
  • 空山 … 人(ひと)気(け)のない、静かで物寂しい山。南朝梁の江淹「無錫県歴山の集(つど)い」詩(『古詩紀』巻八十五)に「窃(ひそ)かに悲しむ 杜(と)蘅(こう)の暮、涕(なみだ)を擥(ぬぐ)いて 空山に弔う」(竊悲杜蘅暮、擥涕弔空山)とある。杜蘅は、植物の名。カンアオイ。ウィキペディア【カンアオイ】参照。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷085」参照。また、南朝梁の陶弘景の楽府「寒夜怨」(『楽府詩集』巻七十六)に「空山霜満ちて高煙(こうえん)平らかに、鉛(えん)華(か)沈み照らして帳(ちょう)孤(ひと)り明らかなり」(空山霜滿高煙平、鉛華沈照帳孤明)とある。高煙は、高(たか)嶺(ね)にかかる靄(もや)。鉛華は、おしろい。帳は、とばり。ウィキソース「樂府詩集/076卷」参照。
  • 不見人 … 人の姿を見かけない。三国魏の王粲「七哀の詩三首」(『文選』巻二十三)の第三首に「百里人を見ず、草木誰か当に遅(おさ)むべき」(百里不見人、草木誰當遲)とある。ウィキソース「七哀詩 (王粲)」参照。
  • 見 … 自然に目に入ってくること。「看」「視」は、意識して見ること。
但聞人語響
但(た)だ人(じん)語(ご)の響(ひび)きを聞(き)く
  • 但 … 「ただ」と読み、「ただ~だけ」と訳す。限定の意を示す。
  • 人語 … 人の話し声。「子夜四時歌七十五首 秋歌十八首」(『楽府詩集』巻四十四)の第八首に「中宵(ちゅうしょう)に人の語る無く、羅(ら)幌(こう)に双び笑う有り」(中宵無人語、羅幌有雙笑)とある。中宵は、夜中。羅幌は、薄いカーテン。ウィキソース「樂府詩集/044卷」参照。
  • 響 … (人の話し声が)こだまして聞こえること。
  • 聞 … 自然に耳に入ってくること。「聴」は、意識して聞くこと。
返景入深林
返景(へんけい) 深林(しんりん)に入(い)り
  • 返景 … 「はんえい」「へんえい」とも読む。夕日の照り返しの光。夕日の光。景は、光。日差し。「返照」「反景(はんえい)」の類語。『初学記』巻一に「日西に落ち、光東に返照す。之を反景を謂う」(日西落、光返照於東。謂之反景)とある。ウィキソース「初學記/卷第一」参照。また『山海(せんがい)経(きょう)』西山経に「又た西二百里を、長(ちょう)留(りゅう)の山と曰う。其の神白帝(はくてい)少(しょう)昊(こう)之に居る。……是の神や、主に反景(はんえい)を掌る」(又西二百里、曰長留之山。其神白帝少昊居之。……是神也、主司反景)とあり、晋の郭璞(かくはく)の注に「日(ひ)西に入れば、則ち景(えい)反(かえ)りて東照す。主に之を察するを掌る」(日西入、則景反東照。主司察之)とある。ウィキソース「山海經/西山經」参照。また、南朝梁の劉孝綽「集賢堂に侍宴す 応令」詩に「反景(はんえい)池林に入り、余光泉石に映ず」(反景入池林、餘光映泉石)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷097」参照。
  • 深林 … 奥深い林の中。『楚辞』九章・渉江に「深林杳(よう)として以て冥冥(めいめい)たり、猨狖(えんゆう)の居(お)る所なり」(深林杳以冥冥兮、猨狖之所居)とあり、また、同じく九歎・思古に「冥冥(めいめい)たる深林にして、樹木鬱鬱(うつうつ)たり」(冥冥深林兮、樹木鬱鬱)とある。猨狖は、猿。ウィキソース「楚辭/九章」「九歎」参照。
  • 入 … (夕日の光が)差し込む。
復照靑苔上
復(ま)た照(て)らす 青苔(せいたい)の上(うえ)
  • 復 … 「また」と読み、ここでは単に「そして」と訳す。通常は「もう一度」「再び」と訳す。ほかに「亦」は、「~もまた」「~も同様に」と訳す。「又」は、「そのうえ~」「さらに~」と訳す。
  • 青苔 … 濃い緑の苔。青は、濃い緑色。西晋の張協「雑詩十首」(『文選』巻二十九、『玉台新詠』巻三では第一首のみ)の第一首に「青苔は空(くう)牆(しょう)に依り、蜘(ち)蛛(しゅ)は四屋に網(あみ)す」(青苔依空牆、蜘蛛網四屋)とある。空牆は、人(ひと)気(け)のない垣根。蜘蛛は、クモ。ウィキソース「雜詩 (張協)」参照。
  • 苔 … 『顧起経注本』『趙注本』には「一作莓」と注する。莓も、こけ。
詩型・韻字
  • 五言絶句。
  • 響・上(上声養韻)。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻六(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『唐詩三百首注疏』巻六上・五言絶句(廣文書局、1980年)
  • 『全唐詩』巻一百二十八(排印本、中華書局、1960年)
  • 『王右丞文集』巻四(静嘉堂文庫蔵、略称:静嘉堂本)
  • 『王摩詰文集』巻六(宋蜀刻本唐人集叢刊、上海古籍出版社、1982年、略称:蜀刊本)
  • 『須渓先生校本唐王右丞集』巻四(『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:四部叢刊本)
  • 顧起経注『類箋唐王右丞詩集』巻九(台湾学生書局、1970年、略称:顧起経注本)
  • 顧可久注『唐王右丞詩集』巻四(『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、略称:顧可久注本)
  • 趙殿成注『王右丞集箋注』巻十三(中国古典文学叢書、上海古籍出版社、1998年、略称:趙注本)
  • 『唐詩品彙』巻三十九([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩解』巻二十二(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩別裁集』巻十九([清]沈徳潜編、乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『万首唐人絶句』五言・巻四(明嘉靖本影印、文学古籍刊行社、1955年)
  • 松浦友久編『校注 唐詩解釈辞典』(大修館書店、1987年)
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