>   漢詩   >   唐詩選   >   巻六 五絶   >   見京兆韋参軍量移東陽(李白)

見京兆韋参軍量移東陽(李白)

見京兆韋參軍量移東陽
京(けい)兆(ちょう)の韋(い)参軍(さんぐん)が東陽(とうよう)に量(りょう)移(い)せらるるを見(み)る
李(り)白(はく)
  • ウィキソース「見京兆韋參軍量移東陽 (潮水還歸海)」参照。
  • この詩は、京兆府の参軍事をしていた韋某が、何かの罪で嶺南に流されていたが、罪を減ぜられて東陽に転任となって帰ってきたので、当時呉の地方にいた作者が彼に会って贈ったもの。安旗主編『新版 李白全集編年注釋』(巴蜀書社、2000年)によると、開元二十七年(739)、三十九歳の作。
  • 詩題 … 二首連作の第一首。『万首唐人絶句』では「見韋參軍量移東陽」に作る。『宋本』『繆本』『蕭本』『郭本』『許本』『劉本』には、題下に「呉中」と注する。
  • 京兆 … 京兆府。長安(現在の西安市)一帯のこと。『旧唐書』地理志、関内道、京兆府の条に「隋の京兆郡、……武徳元年(618)、改めて雍州と為す。……開元元年(713)、雍州を改めて京兆府と為す、隋の旧名に復す」(隋京兆郡、……武德元年、改爲雍州。……開元元年、改雍州爲京兆府、復隋舊名)とある。ウィキソース「舊唐書/卷38」参照。
  • 韋 … 韋は姓。韋某。人物については不詳。
  • 参軍 … 官名。参軍事の略称。府や県の属官。軍事の相談にあたる。軍事参議官。
  • 東陽 … 現在の浙江省金華市東陽市。『元和郡県図志』江南道、婺(ぶ)州、東陽県の条に「本(もと)漢の烏傷県の地、垂(すい)拱(きょう)二年(686)、義烏県を分かちて置く、旧(もと)の東陽郡の名を取るなり」(本漢烏傷縣地、垂拱二年分義烏縣置、取舊東陽郡名也)とある。ウィキソース「元和郡縣圖志/卷26」参照。
  • 量移 … 罪のために辺地に左遷されていた役人が、情状を酌量されて近い所に転任させられること。『旧唐書』玄宗紀、開元二十年十一月の条に「上(しょう)、天下に大赦し、左降の官、近処に量移す」(上、大赦天下、左降官量移近處)とある。ウィキソース「舊唐書/卷8」参照。また、清の顧炎武『日知録』巻三十二、量移の条に「唐朝の人、罪を得て遠方に貶竄(へんざん)せられ、赦に遇い近地に改めらる、之を量移と謂う」(唐朝人、得罪貶竄遠方、遇赦改近地、謂之量移)とある。ウィキソース「日知錄/卷32」参照。
  • 李白 … 701~762。盛唐の詩人。字(あざな)は太白。青蓮居士と号した。生地や家系には諸説あるが、西域の条(じょう)支(し)(アフガニスタンのガズニ周辺)、または砕葉(すいよう)(キルギス共和国のトクマク付近)で生まれ、五歳の時に家族とともに蜀の綿州隆昌県青蓮郷(四川省江油市青蓮鎮)に移住したと考えられる。科挙を受験せず、各地を遊歴。天宝元年(742)、玄宗に召されて翰林(かんりん)供奉(ぐぶ)(天子側近の文学侍従)となった。しかし、玄宗の側近で宦官の高力士らに憎まれて都を追われ、再び放浪の生活を送った。杜甫と並び称される大詩人で「詩仙」と仰がれた。『李太白文集』三十巻がある。ウィキペディア【李白】参照。
潮水還歸海
潮(ちょう)水(すい) 還(めぐ)りて海(うみ)に帰(かえ)り
  • 潮水 … 海水。潮(うしお)。『楚辞』九章・悲回風に「霜雪の倶(とも)に下(くだ)るを悲しみ、潮水の相(あい)撃つを聴く」(悲霜雪之倶下兮、聽潮水之相撃)とある。ウィキソース「楚辭/九章」参照。
  • 還 … めぐりめぐって。「還(ま)た」「還(かえ)って」と読んでもよい。
  • 帰海 … 海に帰ってゆく。『尚書大伝』に「大水・小水は、東流して海に帰す」(大水小水、東流歸海也)とある。ウィキソース「尚書大傳/卷1」参照。
流人卻到吳
流(りゅう)人(じん) 却(かえ)って呉(ご)に到(いた)る
  • 流人 … 流刑(りゅうけい・るけい)に処せられた罪人。ここでは韋氏を指す。『荘子』徐無鬼篇に「子(し)、夫(か)の越の流(りゅう)人(じん)を聞かざるか」(子不聞夫越之流人乎)とあり、その注に「流人は、罪有りて自ら流(りゅう)徙(し)する者なり」(流人、有罪自流徙者也)とある。流徙は、あちこちとさまようこと。ウィキソース「莊子/徐無鬼」「荘子注 (四庫全書本)/卷08」参照。
  • 却 … かえって。予期に反して。ここでは京兆(長安)に帰るはずが東陽までしか帰ることができなかったことを指す。
  • 呉 … 春秋時代の国の一つ。現在の江蘇省のうち長江以南の地を中心とし、浙江省の北の一部までを指す。東陽は「越」の地に属すが、ここでは押韻の関係もあり、「呉越」の地という意から単に「呉」といったものと思われる。ウィキペディア【呉 (春秋)】参照。
相逢問愁苦
相(あい)逢(お)うて愁(しゅう)苦(く)を問(と)えば
  • 相逢 … 君に出会って。古楽府「相逢行(そうほうこう)」(『楽府詩集』巻三十四)に「相逢う狭(きょう)路(ろ)の間(かん)、道隘(せま)くして車を容(い)れず」(相逢狹路間、道隘不容車)とある。ウィキソース「樂府詩集/034卷」参照。
  • 愁苦 … 配所(はいしょ)での愁いや苦しみ。『楚辞』九歌・少司命に「夫れ人には自ずから美子(びし)有り、蓀(そん)何を以て愁(しゅう)苦(く)する」(夫人自有兮美子、蓀何以兮愁苦)とある。美子は、よき配偶者。蓀は、香草の名。ここでは相手の美称。あなた。ウィキソース「九歌」参照。
  • 問 … 尋ねたら。
淚盡日南珠
涙(なみだ)は尽(つ)く 日南(にちなん)の珠(しゅ)
  • 涙尽 … 泣き尽くして涙は枯れてしまった。南朝梁の陶弘景の楽府「寒夜の怨み」に「愁心絶えて、愁(しゅう)涙(るい)尽きぬ」(愁心絶、愁涙盡)とある。ウィキソース「樂府詩集/034卷」参照。
  • 尽 … 「ことごとく」と副詞的に読んでもよい。
  • 日南 … 漢代の郡名。現在のベトナムの首都ハノイの南。『読史方輿紀要』歴代州域形勢、前漢、交州刺史部、日南郡の条に「秦の象郡の地、後に南越に属す、元鼎六年(前111)、郡を置く」(秦象郡地、後屬南越、元鼎六年置郡)とある。ウィキソース「讀史方輿紀要/卷二」参照。ここでは、日南を含む嶺南の地(広東省、広西チワン族自治区とベトナム北部)を指す。
  • 日南珠 … 日南でとれる真珠。珠は、真珠。南海に住む鮫人(こうじん)(人魚)の涙が真珠になったという伝説を踏まえる。『別国洞冥記』巻二(『漢魏叢書』所収)に「吠勒(はいろく)国……長安を去ること九千里、日南に在り。人長(たけ)七尺、被(ひ)髪(はつ)踵(きびす)に至る。犀象(さいぞう)の車に乗り、象に乗りて海底に入り宝を取る。鮫人の舎に宿(しゅく)せば、涙珠(るいしゅ)を得(う)。則ち鮫の泣く所の珠なり。亦た泣(きゅう)珠(しゅ)と曰う」(吠勒國……去長安九千里、在日南。人長七尺、被髮至踵。乘犀象之車、乘象入海底取寶。宿於鮫人之舍、得淚珠。則鮫所泣之珠也。亦曰泣珠)とある。被髪は、ざんばら髪。ウィキソース「洞冥記/卷第二」参照。また『述異記』巻下に「南海の中に鮫人の室有り。水に居ること魚の如く、織(しょく)績(せき)を廃せず。其の眼は泣けば則ち珠を出(い)だす」(南海中有鮫人室。水居如魚、不廢機織。其眼泣則出珠)とある。織績は、糸を紡いだり、布を織ったりすること。ウィキソース「述異記」参照。また、西晋の左思「呉都の賦」(『文選』巻五)に「窮(きゅう)陸(りく)に木(しる)を飲み、極まり沈んで水に居る。泉室に潜(ひそ)み織りて綃(きぬ)を巻き、淵客慷慨して珠(たま)を泣(なみだ)す」(窮陸飮木、極沈水居。泉室潛織而卷綃、淵客慷慨而泣珠)とあり、その李善注に「水居とは、鮫人の水底に居るなり。俗に伝うるに、鮫人水中より出(い)でて、曾て人家に寄寓し、日を積みて綃(きぬ)を売る。綃とは、竹(ちく)孚(ふ)兪(ゆ)なり。鮫人去るに臨み、主人より器を索(もと)め、泣いて珠を出(い)だし盤に満たして、以て主人に与う」(水居、鮫人水底居也。俗傳鮫人從水中出、曾寄寓人家、積日賣綃。綃者、竹孚兪也。鮫人臨去、從主人索器、泣而出珠滿盤、以與主人)とある。窮陸は、高い陸地。竹孚兪は、竹の中にある白い薄皮。ウィキソース「昭明文選/卷5」参照。
詩型・韻字
  • 五言絶句。
  • 呉・珠(上平声虞韻)。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻六(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)
  • 『全唐詩』巻一百六十八(排印本、中華書局、1960年)
  • 『李太白文集』巻八(静嘉堂文庫蔵宋刊本影印、平岡武夫編『李白の作品』所収、略称:宋本)
  • 『李太白文集』巻八(繆(ぼく)曰(えつ)芑(き)重刊、雙泉草堂本、略称:繆本)
  • 『分類補註李太白詩』巻九(蕭(しょう)士(し)贇(いん)補注、内閣文庫蔵、略称:蕭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻九(蕭士贇補注、郭雲鵬校刻、『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:郭本)
  • 『分類補註李太白詩』巻九(蕭士贇補注、許自昌校刻、『和刻本漢詩集成 唐詩2』所収、略称:許本)
  • 『李翰林集』巻六(景宋咸淳本、劉世珩刊、江蘇広陵古籍刻印社、略称:劉本)
  • 『李太白全集』巻九(王琦編注、『四部備要 集部』所収、略称:王本)
  • 『李詩通』巻二十([明]胡震亨評注、内閣文庫蔵、略称:胡本)
  • 『万首唐人絶句』五言・巻一(明嘉靖本影印、文学古籍刊行社、1955年)
  • 『唐詩品彙』巻三十九([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『古今詩刪』巻二十(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
  • 『唐詩解』巻二十一(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐宋詩醇』巻五(乾隆二十五年重刊、紫陽書院、内閣文庫蔵)
  • 松浦友久編『続校注 唐詩解釈辞典〔付〕歴代詩』(大修館書店、2001年)
歴代詩選
古代 前漢
後漢 魏
晋 南北朝
初唐 盛唐
中唐 晩唐
北宋 南宋
金 元
明 清
唐詩選
巻一 五言古詩 巻二 七言古詩
巻三 五言律詩 巻四 五言排律
巻五 七言律詩 巻六 五言絶句
巻七 七言絶句
詩人別
あ行 か行 さ行
た行 は行 ま行
や行 ら行