奉和聖製送尚書燕国公説赴朔方軍(張九齢)
奉和聖製送尚書燕國公説赴朔方軍
聖製「尚書燕国公説の朔方軍に赴くを送る」に和し奉る
聖製「尚書燕国公説の朔方軍に赴くを送る」に和し奉る
- 五言排律。征・兵・城・旌・京・情・名・平・成・行・聲(平声庚韻)。
- 『全唐詩』巻四十九所収。ウィキソース「奉和聖製送尚書燕國公赴朔方」参照。
- 奉和聖製送尚書燕国公説赴朔方軍 … 『全唐詩』では「奉和聖製送尚書燕国公赴朔方」に作る。
- 聖製 … 天子の作られた詩歌。御製。
- 尚書燕国公説 … 張説(667~730)のこと。張説は、先天元年(712)、玄宗から燕国公に封ぜられ、開元九年(721)、兵部尚書(兵部の長官)に任じられた。ウィキペディア【張説】参照。
- 朔方軍 … 「朔方」は、今の内蒙古自治区のオルドス地方。ウィキペディア【朔方郡】参照。張説は、開元十年(722)、朔方軍節度使となった。「節度使」は、辺境の要地の軍政を司った官職。
- この詩は、開元十年(722)、玄宗皇帝が詠んだ張説への送別の詩「張説が辺を巡るを送る」に、作者が唱和したもの。ただし、和韻はしていない。玄宗皇帝の詩は『全唐詩』巻三に見える。ウィキソース「送張說巡邊」参照。
- 張九齢 … 673~740。初唐の詩人。字は子寿。韶州曲江(広東省)の人。長安二年(702)、進士に及第。玄宗に仕えて中書令(宰相)となったが、李林甫の讒言により荊州(湖北省江陵)に長史(副官)として左遷された。『曲江張先生集』二十巻がある。ウィキペディア【張九齢】参照。
宗臣事有征
宗臣 有征を事とす
廟算在休兵
廟算 兵を休むに在り
天與三台座
天は三台の座を与え
- 天 … 天子。
- 三台 … 太尉・司徒・司空の三公の地位。臣下としての最高の地位。もとは紫微星(北斗星の北東にあり、天帝のいる所という)を守る上台・中台・下台の三つの星のこと。『晋書』天文上に「人に在りては三公と曰い、天に在りては三台と曰う」(在人曰三公、在天曰三台)とある。ウィキソース「晉書/卷011」参照。
- 座 … 地位。
人當萬里城
人は万里の城に当る
- 人 … その人。張説を指す。
- 万里城 … 万里の長城。武略に優れた人物を喩えていう。宋の檀道済は多くの武功を立てたが、文帝はその威勢を恐れ、捕らえて斬ろうとしたとき、道済は激怒して「汝が万里の長城を壊る」といったという故事に基づく。『宋書』檀道済伝に「道済収めらる。幘を脱し地に投じて曰く、乃ち復た汝が万里の長城を壊る」(道濟見收。脫幘投地曰、乃復壞汝萬里之長城)とある。ウィキソース「宋書/卷43」参照。
- 当 … 相当する。
朔南方偃革
朔南 方に革を偃め
- 朔南 … 朔方軍の南部。オルドス地方の南部。
- 方 … 「まさに」と読み、「ちょうどそのとき」と訳す。
- 偃革 … 戦争をやめること。「革」は、兵革(武器や武具)の意。「偃」は、ふせる。道具を置いて一休みすること。『史記』留侯世家に「殷の事已に畢り、革を偃せ軒と為す」(殷事已畢、偃革爲軒)とある。ウィキソース「史記/卷055」参照。
河右暫揚旌
河右 暫く旌を揚ぐ
- 河右 … 黄河の西側の地方。
- 右 … 『全唐詩』には「一作北」とある。
- 揚旌 … 旗指物を振りかざして戦うこと。
寵賜從仙禁
寵賜 仙禁従りし
- 寵賜 … 天子の恩寵によって物を賜わること。ここでは朔方軍節度使の任命を指す。
- 賜 … 『全唐詩』では「錫」に作る。
- 仙禁 … 宮中(禁裡)の美称。
光華出漢京
光華 漢京を出づ
- 光華 … ほまれ。名誉。『詩経』小雅・皇皇者華の詩の小序に「皇皇者華は、君、使臣を遣るなり。之を送るに礼楽を以てし、遠くして光華有るを言うなり」(皇皇者華、君遣使臣也。送之以禮樂、言遠而有光華也)とある。ウィキソース「詩經/皇皇者華」参照。
- 漢京 … 都。長安のこと。
山川勤遠略
山川 遠略を勤め
- 山川 … 山川の続く彼方。
- 遠略 … 遠方の地の経略(攻めとって平定すること)。『春秋左氏伝』僖公九年に「斉侯は徳を務めずして遠略を勤む」(齊侯不務德而勤遠略)とあるのを踏まえる。ウィキソース「春秋左氏傳/僖公」参照。
原隰軫皇情
原隰 皇情を軫らす
- 原隰 … 平原と低湿地。『詩経』小雅・皇皇者華の詩に「皇皇たるは華、彼の原隰に于てす」(皇皇者華、于彼原隰)とある。ウィキソース「詩經/皇皇者華」参照。
- 皇情 … 天子の御心。
- 軫 … 憂うる。心配する。天子が御心を傷める。
爲奏薰琴倡
為に薫琴の倡を奏し
仍題寶劍名
仍お宝剣の名を題す
- 仍 … かさねて。そのうえ。さらにまた。
- 宝剣名 … 玄宗自らが張説の名を記した宝剣を下賜されたことをいう。後漢の尚書令の三人に、粛宗自らそれぞれの名を記した宝剣を下賜された故事を踏まえる。『後漢書』韓稜伝に「粛宗嘗て諸尚書に剣を賜う。唯此の三人、特に宝剣を以てし、自ら其の名を手署して曰く、韓稜は楚の竜淵、郅寿は蜀の漢文、陳寵は済南の椎成」(肅宗嘗賜諸尚書劍。唯此三人、特以寶劍、自手署其名曰、韓稜楚龍淵、郅壽蜀漢文、陳寵濟南椎成)とある。ウィキソース「後漢書/卷45」参照。
- 寶 … 底本では「瑤」に作るが、『全唐詩』に従い改めた。
聞風六郡勇
風を聞いて六郡勇み
計日五戎平
日を計って五戎平がん
- 計日 … 日ならずして。
- 五戎 … 西北にいた五種類の異民族。匈奴・穢貊・密吉・単于・白屋をいう。
- 平 … 平定されることだろう。
山甫歸應疾
山甫 帰ること応に疾やかなるべし
- 山甫 … 周の宣王の臣、仲山甫のこと。宣王が仲山甫に命じて斉に城を築かせた。そのとき尹吉甫が送別の詩を作っている。ここでは張説を仲山甫に喩えている。『詩経』大雅・烝民の詩に「仲山甫出でて祖す、四牡業業たり、征夫捷捷たり、毎に及ぶ靡きを懐う、四牡彭彭たり、八鸞鏘鏘たり、王仲山甫に命じ、彼の東方に城かしむ、四牡騤騤たり、八鸞喈喈たり、仲山甫斉に徂き、式て其の帰を遄かにす、吉甫誦を作す、穆として清風の如し、仲山甫永く懐う、以て其の心を慰む」(仲山甫出祖、四牡業業、征夫捷捷、每懷靡及、四牡彭彭、八鸞鏘鏘、王命仲山甫、城彼東方、四牡騤騤、八鸞喈喈、仲山甫徂齊、式遄其歸、吉甫作誦、穆如清風、仲山甫永懷、以慰其心)とある。ウィキソース「詩經/烝民」参照。
畱侯功復成
留侯 功復た成らん
- 留侯 … 前漢の高祖の功臣、張良のこと。ウィキペディア【張良】参照。これも張説に喩える。
- 功復成 … (張良のような)立派な功績も、また成し遂げられよう。
歌鐘旋可望
歌鐘 旋ち望む可し
- 歌鐘 … 音階を整えるため、十六個の鐘を並べたもの。晋が鄭を攻めたとき、鄭が降伏のしるしとして贈ったものの中に歌鐘があった。晋侯はその半分を臣下の魏絳に与え、戦功を賞したという故事に基づく。『春秋左氏伝』襄公十一年に「鄭人、晋侯に賂うに、師悝・師触・師蠲と、広車・軘車の淳い十五乗の甲兵備わるもの、凡べて兵車百乗と、歌鐘二肆と其の鎛磬、女楽二八とを以てす。晋侯、楽の半ばを以て魏絳に賜いて曰く、子、寡人に教え、諸〻の戎狄を和して、以て諸華を正さしめ、八年の中、諸侯を九合すること、楽の和するが如く、諧わざる所無し。請う子と之を楽しまん、と」(鄭人賂晉侯以師悝、師觸、師蠲、廣車、軘車淳十五乘甲兵備、凡兵車百乘、歌鐘二肆、及其鎛磬、女樂二八。晉侯以樂之半賜魏絳曰、子教寡人、和諸戎狄、以正諸華、八年之中、九合諸侯、如樂之和、無所不諧。請與子樂之)とある。ウィキソース「春秋左氏傳/襄公」参照。
- 鐘 … 『全唐詩』では「鍾」に作る。同義。
- 旋 … もうすぐ。まもなく。
- 可望 … 期待できるだろう。
枕席豈難行
枕席 豈に行き難からんや
- 枕席 … 枕と敷物。転じて寝具のこと。万里の道も寝床に寝ながら楽々と行軍するようなものだという意味。『漢書』趙充国の屯田の疏に「湟陿中道の橋を治めて、鮮水に至る可からしめ、以て西域を制し、威を千里に信べ、枕席の上より師を過さん」(治湟陿中道橋、令可至鮮水、以制西域、信威千里、從枕席上過師)とある。ウィキソース「漢書/卷069」参照。
- 枕 … 『全唐詩』では「衽」に作る。
- 豈難行 … どうして行くのに困難があろうか、いや楽々と進んでゆける。
- 豈 … 「あに~ん(や)」と読み、「どうして~しようか、いやしない」と訳す。反語の意を示す。
四牡何時入
四牡 何れの時にか入りて
- 四牡 … 四頭の牡牛。使者が乗る四頭立ての馬車のこと。『詩経』小雅・四牡の詩の小序に「四牡は、使臣の来るを労するなり。功有って知らるれば則ち説ぶ」(四牡、勞使臣之來也。有功而見知則說矣)とあり、その詩に「四牡騑騑たり、周道倭遅たり、豈に帰るを懐わざらんや、王事盬きこと靡し、我が心傷悲す」(四牡騑騑、周道倭遲、豈不懷歸、王事靡盬、我心傷悲)とある。ウィキソース「詩經/四牡」参照。
- 何時入 … いつ都へ入ってくるだろうか。
吾君聽履聲
吾が君 履声を聴かん
- 吾君 … 天子。帝。
- 履声 … 君(張説)の履物の音。張説が出仕する際の足音をいう。漢の鄭崇が尚書僕射となり、その履物の音を帝が覚えたという故事を踏まえる。『漢書』鄭崇伝に「鄭崇、字は子游。……哀帝擢でて尚書僕射と為す。数〻見えんことを求めて諫争す。上初め之を納用す。見ゆる毎に革履を曳く。上笑いて曰く、我鄭尚書の履声を識れり」(鄭崇字子游。……哀帝擢爲尚書僕射。數求見諫爭。上初納用之。每見曳革履。上笑曰、我識鄭尚書履聲)とある。ウィキソース「漢書/卷077」参照。
- 聴 … 耳をすまして心待ちにしておられるだろう。『全唐詩』では「憶」に作る。こちらは、君の足音を記憶して、心待ちにしておられるだろう。
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