酬趙二侍御使西軍贈両省旧寮之作(張九齢)
酬趙二侍御使西軍贈兩省舊寮之作
趙二侍御の「西軍に使いして両省の旧寮に贈る」の作に酬ゆ
趙二侍御の「西軍に使いして両省の旧寮に贈る」の作に酬ゆ
- 五言排律。同・雄・空・風・功・中・戎・躬(平声東韻)。
- 『全唐詩』巻四十九所収。ウィキソース「酬趙二侍御使西軍贈兩省舊僚之作」参照。
- 趙二 … 趙某。「二」は排行。趙二とは、張説と交遊があり、張説と同じく岳州に流されていた趙冬曦と推定される。趙冬曦については、ウィキペディア【趙冬曦】(中文)参照。
- 侍御 … 官名。侍御史。宮中の文書をつかさどり、官吏の違法を摘発する検察官のこと。詩題では「侍御史」を「侍御」と略称するのが一般的である。
- 西軍 … 西方派遣軍。隴西の軍。
- 使 … 底本では「史」に作るが、『全唐詩』に従い改めた。
- 両省 … 門下・中書の二省を指す。
- 旧寮 … もとの同僚。『全唐詩』では「旧僚」に作る。同義。
- 酬 … お返しをする。ここでは趙侍御が詩を作って贈ってきたので、作者がこの詩を作って答えたもの。
- 張九齢 … 673~740。初唐の詩人。字は子寿。韶州曲江(広東省)の人。長安二年(702)、進士に及第。玄宗に仕えて中書令(宰相)となったが、李林甫の讒言により荊州(湖北省江陵)に長史(副官)として左遷された。『曲江張先生集』二十巻がある。ウィキペディア【張九齢】参照。
石室先鳴者
石室 先鳴の者
- 石室 … 侍御史の役所である御史台の別名。漢代、宮中の書庫を蘭台石室と呼び、御史中丞に管理させたことに基づく。
- 先鳴 … 人に先だって名をあらわすこと。趙侍御を指す。『春秋左氏伝』襄公二十一年に「平陰の役にて、二子に先んじて鳴く」(平陰之役、先二子鳴)とある。ウィキソース「春秋左氏傳/襄公」参照。
金門待制同
金門 待制同じ
- 金門 … 漢代、宮中にあった金馬門のこと。詔勅の下るのを待つ者の詰所があった。
- 待制 … 詔勅の下るのを待つこと。待詔。唐代では科挙に合格した者がはじめて出仕すること。
- 同 … 私といっしょの仲であった。このことから、作者と趙侍御とは進士の及第がいっしょであったことが分る。
操刀常願割
刀を操りては常に割かんことを願い
持斧竟稱雄
斧を持しては竟に雄を称す
- 持斧 … 将軍や検察官である御史が地方へ出るとき、断罪の権限を天子から授けられた象徴として斧を持って行くこと。漢の武帝の末、暴勝之が直指使者となり、斧を持って盗賊を捕えた故事に基づく。『漢書』雋不疑伝に「武帝の末、郡国盗賊群起す。暴勝之直指使者と為り、繡衣を衣、斧を持して、盗賊を逐捕す」(武帝末、郡國盜賊羣起。暴勝之爲直指使者、衣繡衣、持斧、逐捕盜賊)とある。ウィキソース「漢書/卷071」参照。
- 竟称雄 … ついに雄名を称えられることになった。
應敵兵初起
敵に応じて兵初めて起り
- 応敵 … 敵の攻撃に応戦すること。『漢書』魏相伝に「敵己に加え、已むことを得ずして起つ者、之を応兵と謂う。兵応ずる者は勝つ」(敵加於己、不得已而起者、謂之應兵。兵應者勝)とある。ウィキソース「漢書/卷074」参照。
- 兵初起 … 我が軍は起ち上がったばかりである。
緣邊虜欲空
辺に縁りて虜空しからんと欲す
- 縁辺 … 国境沿いの地帯。『史記』匈奴列伝に「辺に縁りて亦た各〻堅守して、以て胡の寇に備えしむ」(緣邊亦各堅守、以備胡寇)とある。ウィキソース「史記/卷110」参照。
- 虜 … 胡虜。北方の異民族。「虜」は、罵るときの言葉。ここでは外敵の意。
- 欲空 … 消滅しかけている。
- 欲 … 「~(んと)ほっす」と読み、「今にも~しようとする」「今にも~になりそうだ」と訳す。
使車經隴月
使車 隴月を経
- 使車 … 君が乗る車。「使」は、使者。
- 隴月 … 隴山にかかる月。隴山は、陝西省と甘粛省との境にある山。
- 経 … 通過する。
征旆繞河風
征旆 河風を繞る
- 征旆 … 趙侍御の行列が立てている旗じるし。
- 河風 … 黄河から吹く風。
- 繞 … (風にはためきながら)めぐりめぐって進んで行く。
忽枉兼金訊
忽ち兼金の訊を枉ぐ
非徒秣馬功
徒に秣馬の功のみに非ず
- 非徒 … 「ただに~のみにあらず」と読み、「ただ~だけではない」と訳す。範囲・条件が限定されない意を示す。
- 秣馬功 … 牛馬にまぐさを与えて武功を立てること。「秣馬」は、牛馬にまぐさを与えて養うこと。『春秋左氏伝』成公十六年に「乗を蒐め卒を補い、馬に秣い兵を利す」(蒐乘補卒、秣馬利兵)とある。ウィキソース「春秋左氏傳/成公」参照。ここでは趙侍御の才能が武功を立てることだけではないことをいう。
氣清蒲海曲
気は清む 蒲海の曲
聲滿柏臺中
声は満つ 柏台の中
- 声満 … 君の名声が満ちわたる。
- 柏台 … 御史台の別名。漢代、役所の庭に柏の木が植えてあったことから。
顧己塵華省
己が華省を塵すを顧みては
- 顧己 … 我が身を顧みれば。
- 華省 … 輝かしい役所。中書省または門下省の美称。
- 塵 … 汚しているだけの不甲斐なさ。
欣君震遠戎
君が遠戎を震わすを欣ぶ
- 遠戎 … 遠方の戎ども。「戎」は、北西方に住む異民族の蔑称。
- 震 … 震えあがらせる。震駭させる。
- 欣 … 喜ぶ。
明時獨匪報
明時 独り報ゆるに匪ず
- 明時 … 聖明の御代。
- 匪報 … 天子の御恩に報いることができない。
- 匪 … 「~ず」「あらず」と読み、「~でない」と訳す。「非」と同義。
常欲退微躬
常に微躬を退けんと欲す
- 常 … いつも。『全唐詩』では「嘗」に作る。
- 微躬 … 取るに足りない微小な身。自分をへりくだっていう言葉。ここでは作者自身を指す。「微身」「微軀」も同じ。『詩経』衛風・木瓜の詩に「我に投ずるに木瓜を以てす、之に報ゆるに瓊琚を以てせん、報ゆるに匪ざるなり、永く以て好みを為すなり」(投我以木瓜、報之以瓊琚、匪報也、永以爲好也)とある。ウィキソース「詩經/木瓜」参照。
- 欲退 … 退官したいと思っている。
こちらもオススメ!
歴代詩選 | |
古代 | 前漢 |
後漢 | 魏 |
晋 | 南北朝 |
初唐 | 盛唐 |
中唐 | 晩唐 |
北宋 | 南宋 |
金 | 元 |
明 | 清 |
唐詩選 | |
巻一 五言古詩 | 巻二 七言古詩 |
巻三 五言律詩 | 巻四 五言排律 |
巻五 七言律詩 | 巻六 五言絶句 |
巻七 七言絶句 |
詩人別 | ||
あ行 | か行 | さ行 |
た行 | は行 | ま行 |
や行 | ら行 |