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酬趙二侍御使西軍贈両省旧寮之作(張九齢)

酬趙二侍御使西軍贈兩省舊寮之作
趙(ちょう)二(じ)侍(じ)御(ぎょ)の「西軍(せいぐん)に使(つか)いして両省(りょうしょう)の旧寮(きゅうりょう)に贈(おく)る」の作(さく)に酬(むく)ゆ
張(ちょう)九(きゅう)齢(れい)
  • 五言排律。同・雄・空・風・功・中・戎・躬(上平声東韻)。
  • ウィキソース「酬趙二侍御使西軍贈兩省舊僚之作」参照。
  • 趙二 … 趙某。二は、排行。趙二とは、張(ちょう)説(えつ)と交遊があり、張説と同じく岳州に流されていた趙(ちょう)冬(とう)曦(ぎ)と推定される。趙冬曦については、ウィキペディア【趙冬曦】(中文)参照。
  • 侍御 … 官名。侍御史。宮中の文書を掌り、官吏の違法を摘発する検察官のこと。詩題では「侍御史」を「侍御」と略称するのが一般的である。
  • 西軍 … 西方派遣軍。隴西の軍。
  • 使 … 底本では「史」に作るが、『全唐詩』に従った。
  • 両省 … 門下・中書の二省を指す。
  • 旧寮 … もとの同僚。
  • 酬 … お返しをする。ここでは趙侍御が詩を作って贈ってきたので、作者がこの詩を作って答えたもの。
  • 張九齢 … 678~740。初唐の詩人。字(あざな)は子(し)寿(じゅ)。韶州(しょうしゅう)曲(きょく)江(こう)県(広東省韶(しょう)関(かん)市曲江区)の人。長安二年(702)、進士に及第。校書郎・右拾遺・中書侍郎などを歴任。開元二十一年(733)、同中書門下平章事(宰相職)、さらに中書令(宰相職)となり玄宗を補佐したが、李(り)林(りん)甫(ぽ)の讒言(ざんげん)により荊(けい)州(しゅう)(湖北省江陵県)に長史(副官)に左遷された。『曲江張先生文集』二十巻がある。ウィキペディア【張九齢】参照。
石室先鳴者
石室(せきしつ) 先鳴(せんめい)の者(もの)
  • 石室 … 侍御史の役所である御史台の別名。漢代、宮中の書庫を蘭台石室と呼び、御史中丞に管理させたことに基づく。
  • 先鳴 … 人に先だって名をあらわすこと。趙侍御を指す。『春秋左氏伝』襄(じょう)公(こう)二十一年に「平陰(へいいん)の役(えき)にて、二子(にし)に先(さき)んじて鳴(な)く」(平陰之役、先二子鳴)とある。ウィキソース「春秋左氏傳/襄公」参照。
金門待制同
金門(きんもん) 待制(たいせい)同(おな)じ
  • 金門 … 漢代、宮中にあった金馬門のこと。詔勅の下るのを待つ者の詰所があった。
  • 待制 … 詔勅の下るのを待つこと。待詔。唐代では科挙に合格した者がはじめて出仕すること。
  • 同 … 私といっしょの仲であった。このことから、作者と趙侍御とは進士の及第がいっしょであったことが分る。
操刀常願割
刀(かたな)を操(と)りては常(つね)に割(さ)かんことを願(ねが)い
  • 操刀常願割 … 包丁を使って肉をうまく切りたいと思う。地方行政に手腕を発揮したいと希望することに喩える。『春秋左氏伝』襄公三十一年に「今(いま)、吾子(ごし)の人(ひと)を愛(あい)するは、則(すなわ)ち政(まつりごと)を以(もっ)てす。猶(な)お未(いま)だ刀(かたな)を操(と)ること能(あた)わずして割(さ)かしむるがごときなり。其(そ)の傷(きず)つくること実(まこと)に多(おお)からん」(今吾子愛人、則以政。猶未能操刀而使割也。其傷實多)とある。ウィキソース「春秋左氏傳/襄公」参照。また、西晋の潘岳「西征の賦」(『文選』巻十)に「獫狁(けんいん)に密(みつ)邇(じ)し、戎(じゅう)馬(ば)郊(こう)に生(しょう)ず。而(しか)して制(せい)する者(もの)は必(かなら)ず割(さ)き、実(まこと)に刀(かたな)を操(と)るに存(そん)す」(密邇獫狁、戎馬生郊。而制者必割、實存操刀)とある。ウィキソース「西征賦」参照。
  • 常 … 『全唐詩』では「嘗」に作る。
持斧竟稱雄
斧(おの)を持(じ)しては竟(つい)に雄(ゆう)を称(しょう)す
  • 持斧 … 将軍や検察官である御史が地方へ出るとき、断罪の権限を天子から授けられた象徴として斧を持って行くこと。漢の武帝の末、暴(ぼう)勝(しょう)之(し)が直指使者となり、斧を持って盗賊を捕えた故事に基づく。『漢書』雋(しゅん)不疑(ふぎ)伝に「武(ぶ)帝(てい)の末(まつ)、郡国(ぐんこく)盗賊(とうぞく)群(ぐん)起(き)す。暴(ぼう)勝(しょう)之(し)直(ちょく)指(し)使(し)者(しゃ)と為(な)り、繡(しゅう)衣(い)を衣(き)、斧(おの)を持(じ)して、盗賊(とうぞく)を逐(ちく)捕(ほ)す」(武帝末、郡國盜賊羣起。暴勝之爲直指使者、衣繡衣、持斧、逐捕盜賊)とある。ウィキソース「漢書/卷071」参照。
  • 竟称雄 … ついに雄名を称えられることになった。
應敵兵初起
敵(てき)に応(おう)じて兵(へい)初(はじ)めて起(おこ)り
  • 応敵 … 敵の攻撃に応戦すること。『漢書』魏(ぎ)相(しょう)伝に「敵(てき)己(おのれ)に加(くわ)え、已(や)むことを得(え)ずして起(た)つ者(もの)、之(これ)を応兵(おうへい)と謂(い)う。兵(へい)応(おう)ずる者(もの)は勝(か)つ」(敵加於己、不得已而起者、謂之應兵。兵應者勝)とある。ウィキソース「漢書/卷074」参照。
  • 兵初起 … 我が軍は起ち上がったばかりである。
緣邊虜欲空
辺(へん)に縁(よ)りて虜(りょ)空(むな)しからんと欲(ほっ)す
  • 縁辺 … 国境沿いの地帯。『史記』匈奴列伝に「辺(へん)に縁(よ)りて亦(ま)た各〻(おのおの)堅守(けんしゅ)して、以(もっ)て胡(こ)の寇(あだ)に備(そな)えしむ」(緣邊亦各堅守、以備胡寇)とある。ウィキソース「史記/卷110」参照。
  • 虜 … 胡虜。北方の異民族。虜は、罵るときの言葉。ここでは外敵の意。
  • 欲空 … 消滅しかけている。
  • 欲 … 「~(んと)ほっす」と読み、「今にも~しようとする」「今にも~になりそうだ」と訳す。
使車經隴月
使(し)車(しゃ) 隴月(ろうげつ)を経(へ)
  • 使車 … 君が乗る車。使は、使者。
  • 隴月 … 隴山にかかる月。隴山は、陝西省と甘粛省との境にある山。
  • 経 … 通過する。
征旆繞河風
征旆(せいはい) 河(か)風(ふう)を繞(めぐ)る
  • 征旆 … 趙侍御の行列が立てている旗じるし。
  • 河風 … 黄河から吹く風。
  • 繞 … (風にはためきながら)めぐりめぐって進んで行く。
忽枉兼金訊
忽(たちま)ち兼金(けんきん)の訊(じん)を枉(ま)ぐ
  • 兼金 … 見事な。兼金は、もと普通の金(きん)の二倍または数倍の値打ちがある良質の黄金のこと。兼は、兼倍。二倍または数倍の意。『孟子』公孫丑下篇に「前日(ぜんじつ)斉(せい)に於(お)いて、王(おう)、兼金(けんきん)一(いっ)百(ぴゃく)を餽(おく)りしも、受(う)けず」(前日於齊、王餽兼金一百而不受)とある。ウィキソース「孟子/公孫丑下」参照。
  • 訊 … 便り。手紙。ここでは、贈られた詩を指す。西晋の陸機「馮(ふう)文(ぶん)羆(ひ)に贈る」詩(『文選』巻二十四)に「愧(は)ずらくは雑珮(ざっぱい)の贈(おくりもの)無(な)きを、良(りょう)訊(じん)を兼金(けんきん)に代(か)えん」(愧無雜珮贈、良訊代兼金)とあるのを踏まえる。ウィキソース「贈馮文羆」参照。
  • 枉 … まげて。自分がそれに値しないのに、自分にまで詩を贈ってくださったと、謙遜して言ったもの。
非徒秣馬功
徒(ただ)に秣(まつ)馬(ば)の功(こう)のみに非(あら)ず
  • 非徒 … 「ただに~のみにあらず」と読み、「ただ~だけではない」と訳す。範囲・条件が限定されない意を示す。
  • 秣馬功 … 牛馬にまぐさを与えて武功を立てること。秣馬は、牛馬にまぐさを与えて養うこと。『春秋左氏伝』成公(せいこう)十六年に「乗(じょう)を蒐(あつ)め卒(そつ)を補(おぎな)い、馬(うま)に秣(まぐさか)い兵(へい)を利(り)す」(蒐乘補卒、秣馬利兵)とある。ウィキソース「春秋左氏傳/成公」参照。ここでは、趙侍御の才能が武功を立てることだけではないことをいう。
氣清蒲海曲
気(き)は清(す)む 蒲(ほ)海(かい)の曲(くま)
  • 気清 … 君が行けば、清らかな空気に変わるだろう。
  • 清 … 『全唐詩』には「一作凌」と注する。
  • 蒲海 … 湖の名。蒲昌海。今のロプノール湖を指すという。ウィキペディア【ロプノール】参照。『漢書』西域伝に「蒲昌海、一名は塩沢という者なり。玉門・陽関を去ること三百余里、広袤(こうぼう)三四百里。其の水亭居(ていきょ)して、冬夏増減せず」(蒲昌海、一名鹽澤者也。去玉門、陽關三百餘里、廣袤三四百里。其水亭居、冬夏不增減)とある。広は、東西の長さ。袤は、南北の長さ。ウィキソース「漢書/卷096上」参照。
  • 曲 … くま。すみ。
聲滿柏臺中
声(こえ)は満(み)つ 柏台(はくだい)の中(うち)
  • 声満 … 君の名声が満ちわたる。
  • 柏台 … 御史台の別名。漢代、役所の庭に柏の木が植えてあったことから。
顧己塵華省
己(おの)が華(か)省(しょう)を塵(けが)すを顧(かえり)みては
  • 顧己 … 我が身を顧みれば。
  • 華省 … 輝かしい役所。中書省または門下省の美称。
  • 塵 … 汚しているだけの不甲斐なさ。
欣君震遠戎
君(きみ)が遠(えん)戎(じゅう)を震(ふる)わすを欣(よろこ)ぶ
  • 遠戎 … 遠方の戎(えびす)ども。戎は、北西方に住む異民族の蔑称。
  • 震 … 震えあがらせる。震駭させる。
  • 欣 … 喜ぶ。
明時獨匪報
明(めい)時(じ) 独(ひと)り報(むく)ゆるに匪(あら)ず
  • 明時 … 聖明の御代。
  • 匪報 … 天子の御恩に報いることができない。
  • 匪 … 「~ず」「あらず」と読み、「~でない」と訳す。
常欲退微躬
常(つね)に微(び)躬(きゅう)を退(しりぞ)けんと欲(ほっ)す
  • 常 … いつも。『全唐詩』では「嘗」に作る。
  • 微躬 … 取るに足りない微小な身。自分をへりくだっていう言葉。ここでは作者自身を指す。「微(び)身(しん)」「微軀(びく)」も同じ。『詩経』衛風・木(ぼっ)瓜(か)に「我(われ)に投(とう)ずるに木(ぼっ)瓜(か)を以(もっ)てす、之(これ)に報(むく)ゆるに瓊琚(けいきょ)を以(もっ)てせん、報(むく)ゆるに匪(あら)ざるなり、永(なが)く以(もっ)て好(よし)みを為(な)すなり」(投我以木瓜、報之以瓊琚、匪報也、永以爲好也)とある。ウィキソース「詩經/木瓜」参照。
  • 欲退 … 退官したいと思っている。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻四(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻四十九(排印本、中華書局、1960年)
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