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奉和聖製暮春送朝集使帰郡応制(王維)

奉和聖製暮春送朝集使歸郡應制
聖製せいせいしゅん朝集ちょうしゅう使ぐんかえるをおくる」にたてまつる 応制おうせい
おう
  • 五言排律。周・旒・侯・州・溝・憂・州(下平声尤韻)。
  • ウィキソース「奉和聖製暮春送朝集使歸郡應制」参照。
  • 聖製 … 天子の作られた詩歌。ここでは玄宗皇帝の御製ぎょせい
  • 暮春 … 春の終わり頃。晩春。陰暦三月のこと。西晋の張翰「雑詩三首」(其一、『文選』巻二十九)に「暮春に和気応じ、白日は園林を照らす」(暮春和氣應、白日照園林)とある。ウィキソース「昭明文選/卷29」参照。また、東晋の王羲之「蘭亭序」に「暮春の初め、会稽山陰の蘭亭に会す」(暮春之初、会于会稽山陰之蘭亭)とある。ウィキソース「蘭亭集序」参照。
  • 朝集使 … 毎年、各郡から朝廷に集まり、天子や宰相に謁見して、その地方の政務や会計の報告をする使者。通常、都督・刺史などの地方長官またはこれに準ずる者が当たった。『漢制攷』に「漢の朝集使、之を上計吏と謂い、一年の計会けいかい文書及び功状を上ぐるを謂うなり」(漢之朝集使、謂之上計吏、謂上一年計會文書及功狀也)とある。ウィキソース「漢制攷 (四庫全書本)/卷1」参照。また、『旧唐書』太宗紀、貞観五年の条に「五年正月……癸未きび、朝集使封禅を請う」(五年正月……癸未、朝集使請封禪)とある。ウィキソース「舊唐書/卷3」参照。
  • 応制 … 天子の命令によって作られた詩文。南北朝の頃までは「おうしょう」の用例が多い。唐代は則天武后のいみなしょう」の音を避けて「応制」を用いるようになった。皇太子・皇子の場合は「応令おうれい」「おうきょう」を用いる。
  • この詩は、ある年の春の終わり頃、朝集使が任務を終えてそれぞれの郡に帰るにあたり、天子(玄宗皇帝)が送別の宴を開いて詩を作り、臣下に唱和を命じたとき、作者が答えて作ったもの。なお、このときに作られた玄宗皇帝の御製は今に伝わっていない。
  • 王維 … 699?~761。盛唐の詩人、画家。太原(山西省)の人。あざなきつ。開元七年(719)、進士に及第。安禄山の乱で捕らえられたが事なきを得、乱後は粛宗に用いられてしょうじょゆうじょう(書記官長)まで進んだので、王右丞とも呼ばれる。また、仏教に帰依したため、詩仏と称される。『王右丞文集』十巻がある。ウィキペディア【王維】参照。
萬國仰宗周
万国ばんこく そうしゅうあお
  • 万国 … 周代、諸侯が封ぜられた国々。ここでは、唐の各郡になぞらえる。『易経』比卦の象伝に「先王以て万国を建て、諸侯を親しむ」(先王以建萬國、親諸侯)とある。ウィキソース「周易/比」参照。
  • 萬 … 蜀刊本では「方」に作る。方国は、四方の国の意。
  • 宗周 … 周の王都のこと。ここでは、唐の都長安になぞらえる。『詩経』小雅・正月の詩に「赫赫かくかくたる宗周、ほう之を烕ぼす」(赫赫宗周、褒姒烕之)とある。赫赫は、勢いが盛んなさま。褒姒は、周の幽王の寵妃。ウィキソース「詩經/正月」参照。また、また、『礼記』祭統篇に「きゅうに宗周にく」(即宮於宗周)とある。宮に即くは、一室に幽閉されること。ウィキソース「禮記/祭統」参照。『博物志』巻六に「周、こうしょくよりぶんに至って、みなかんちゅうみやこす。号してそうしゅうと為す」(周自后稷至於文武、皆都關中。號爲宗周)とある。ウィキソース「博物志/卷之六」参照。
  • 仰 … 仰ぎ尊ぶ。
衣冠拜冕旒
かん べんりゅうはい
  • 衣冠 … 衣服とかんむりをつけた士大夫。ここでは、朝集使たちを指す。劉宋の顔延之「陵廟に拝する作」(『文選』巻二十三)に「衣冠は終に冥漠めいばくりょうゆううた蔥青そうせいたり」(衣冠終冥漠、陵邑轉蔥靑)とある。蔥青は、草木の青々としたさま。ウィキソース「拜陵廟作」参照。
  • 冕旒 … 冕は、天子がかぶるかんむり。旒は、冠の前後に、流れるように垂らした玉飾り。りゅうべんとも。ここでは天子を指す。『礼記』礼器篇に「てんべんは、しゅりょくそうじゅうゆうりゅう」(天子之冕、朱綠藻、十有二旒)とある。朱緑藻は、朱と緑との飾り玉を貫いた紐。ウィキソース「禮記/禮器」参照。また、『後漢書』輿服志に「顕宗は遂に大業に就き、初めてりゅうべんし、衣裳は文章あり、赤舄せきせき絇屨くくを服して、以て天地を祠り、三老・五更を三雍に養い、時に於いて治平を致す」(顯宗遂就大業、初服旒冕、衣裳文章、赤舄絇屨、以祠天地、養三老五更於三雍、於時致治平矣)とある。赤舄絇屨は、先に飾りの着いた二枚重ねの赤いくつ。舄は、礼装用の重ねくつ。絇は、くつ飾り。屨は、くつ。ウィキソース「後漢書/卷120」参照。
  • 拝 … (天子に)拝謁する。
玉乘迎大客
ぎょくじょう 大客たいかくむか
  • 玉乗 … 玉で飾った天子の御車。周代、諸侯が上京したとき、天子が玉乗に乗って出迎える習慣だったという。南朝梁の江淹「恨みの賦」(『文選』巻十六)に「乃ち趙王既にとりことせられ、房陵に遷さるるがごときは、薄暮に心動き、昧旦まいたんしんおこる。えんと美女とに別れ、きん輿と玉乗とを喪う」(若乃趙王既虜、遷於房陵、薄暮心動、昧旦神興。別豔姫與美女、喪金輿及玉乘)とあり、その李善注に「玉乗は、ぎょくなり」(玉乘、玉輅也)とある。昧旦は、夜明け。玉輅は、珠玉で飾った天子の車。玉路とも。ウィキソース「昭明文選/卷16」参照。
  • 大客 … 大国からの賓客。ここでは、朝集使を指す。『周礼』秋官に「大行人は、大賓の礼、及び大客の儀を掌り、以て諸侯に親しむ」(大行人、掌大賓之禮及大客之儀、以親諸侯)とある。ウィキソース「周禮/秋官司寇」参照。
金節送諸侯
金節きんせつ 諸侯しょこうおく
  • 金節 … 黄金の割符。周代、諸侯の使者が帰国するとき、天子から通行証として賜ったもの。一種の旅券。『周礼』地官に「凡そ邦国の使節、山国には虎節を用い、土国には人節を用い、沢国には龍節を用う。皆金なり」(凡邦國之使節、山國用虎節、土國用人節、澤國用龍節。皆金也)とある。ウィキソース「周禮/地官司徒」参照。
  • 送諸侯 … 地方長官たちの帰国を送られる。
祖席傾三省
せき さんしょうかたむ
  • 祖席 … 送別の宴席。はなむけの宴席。『風俗通義』祀典篇、祖の条に「祖は、徂なり」(祖者、徂也)とある。徂は、行く意。ウィキソース「風俗通義/8」参照。また、中唐の韓愈「祖席」詩に「祖席 洛橋のほとり、親交 共に黯然あんぜん」(祖席洛橋邊、親交共黯然)とある。ウィキソース「祖席」参照。
  • 三省 … 中書省・門下省・尚書省。中央官庁の総称として用いる。ここでは中央官庁の役人全員を指す。
  • 傾 … 杯を横にして酒をついで飲むこと。
褰帷向九州
けん 九州きゅうしゅうむか
  • 褰帷 … 車のとばりをまくり上げること。褰は、かかげる。後漢のそうが刺史として任地を巡行するのに、車のとばりを褰げさせたという故事に基づく。『後漢書』そう伝に「そうくにおよび、くるまのぼりてっていわく、刺史ししまさとおひろき、あくきゅうさつすべし。なんかえりてしょうれ、もっみずか掩塞えんそくするらんや。すなわ御者ぎょしゃめいこれかかげしむ」(及琮之部、升車言曰、刺史當遠視廣聽、糾察美惡。何有反垂帷裳、以自掩塞乎。乃命御者褰之)とある。ウィキソース「後漢書/卷31」参照。
  • 帷 … とばり。垂れ幕。底本(冨山房『漢文大系』)では「惟」に作るが、諸本に従った。
  • 九州 … 禹が中国を九つの州(揚州・荊州・豫州・青州・えん州・雍州・幽州・州・へい州)に区分したという。ここでは中国全土を指す。『周礼しゅらい』に「東南とうなんようしゅうい……」(東南曰揚州……)とある。ウィキソース「周禮/夏官司馬」参照。
楊花飛上路
よう じょう
  • 楊花 … 柳の白い花。風に吹かれて飛ぶ。りゅうじょ
  • 上路 … 都大路。
槐色蔭通溝
かいしょく 通溝つうこうおお
  • 槐色 … えんじゅの葉の緑の色。ウィキペディア【エンジュ】参照。
  • 通溝 … 御苑を流れる御溝ぎょこう。禁中の堀。
來預鈞天樂
きたって鈞天きんてんがくあずかり
  • 来 … 『文苑英華』では「未」に作る。
  • 鈞天楽 … 天上の音楽。鈞天は、天の中央。天帝のいる所。ここでは宮中の音楽に喩える。『列子』周穆王篇に「おうまこと以為おもえらく、せい紫微しび鈞天きんてん広楽こうがくていところなりと」(王實以爲、清都、紫微、鈞天、廣樂、帝之所居)とある。ウィキソース「列子/周穆王篇」参照。
歸分漢主憂
かえって漢主かんしゅうれいをわか
  • 漢主憂 … 天子が地方政治についていろいろ心配すること。漢主は、天子のこと。
  • 分 … 分担する。地方長官が天子の気持ちを汲んで、適切な措置をすること。
宸章類河漢
しんしょう かんるい
  • 宸章 … 天子が作った詩文。御製ぎょせい
  • 類河 … 『全唐詩』『顧起経注本』『趙注本』には「一作在雲」と注する。
  • 河漢 … 天の川。『詩経』大雅・棫樸よくぼくの詩に「たくたる雲漢うんかんしょうてんす」(倬彼雲漢、爲章于天)とある。ウィキソース「詩經/棫樸」参照。「雲漢」も河漢と同様、天の川の意。
垂象滿中州
すいしょう 中州ちゅうしゅう
  • 垂象 … 天界から地上に対して示すさまざまな現象。ここでは天子の民に対する恩徳に喩える。『易経』繋辞上伝に「てんしょうれ、きっきょうあらわして、聖人せいじんこれかたどる」(天垂象、見吉凶、聖人象之)とある。ウィキソース「易傳/繫辭上」(第十一章)参照。
  • 中州 … 中国全土。
  • 中 … 『全唐詩』『顧起経注本』『趙注本』には「一作皇」と注する。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻四(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻一百二十七(中華書局、1960年)
  • 『王右丞文集』巻二(静嘉堂文庫蔵、略称:静嘉堂本)
  • 『王摩詰文集』巻四(宋蜀刻本唐人集叢刊、上海古籍出版社、1982年、略称:蜀刊本)
  • 『須渓先生校本唐王右丞集』巻二(『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:四部叢刊本)
  • 顧起経注『類箋唐王右丞詩集』巻六(台湾学生書局、1970年、略称:顧起経注本)
  • 顧可久注『唐王右丞詩集』巻二(『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、略称:顧可久注本)
  • 趙殿成注『王右丞集箋注』巻十一(中国古典文学叢書、上海古籍出版社、1998年、略称:趙注本)
  • 『唐詩品彙』巻七十四([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩解』巻四十七(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩別裁集』巻十七(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『文苑英華』巻一百七十七(影印本、中華書局、1966年)
  • 陳鐵民校注『王維集校注(修訂本)』巻四(中国古典文学基本叢書、中華書局、2018年)
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