和許給事直夜簡諸公(張九齢)
和許給事直夜簡諸公
許給事の「直夜、諸公に簡す」に和す
許給事の「直夜、諸公に簡す」に和す
- 五言排律。沈・深・臨・陰・欽・心・林・音(平声侵韻)。
- 『全唐詩』巻四十九所収。ウィキソース「和許給事中直夜簡諸公」参照。
- 許 … 許某。人物については不明。作者の友人、許景先(677~730)という説もあるが、確定されていない。許景先については、ウィキペディア【许景先】(中文)参照。
- 給事 … 官名。給事中。門下省に属し、詔勅を検討する役。
- 直夜 … 宿直の夜。
- 諸公 … 親しい友人たち。諸君。
- 簡 … 詩を手紙に書いて贈ること。
- 和 … ここでは許某が詩を作って贈ってきたのに対し、作者が唱和したもの。
- 張九齢 … 673~740。初唐の詩人。字は子寿。韶州曲江(広東省)の人。長安二年(702)、進士に及第。玄宗に仕えて中書令(宰相)となったが、李林甫の讒言により荊州(湖北省江陵)に長史(副官)として左遷された。『曲江張先生集』二十巻がある。ウィキペディア【張九齢】参照。
未央鐘漏晩
未央 鐘漏晩れ
- 未央 … 漢代の宮殿の名。未央宮。漢の高祖の九年(前198)、丞相の蕭何によって建てられた。ウィキペディア【未央宮】参照。ここでは今の宮中の様子を漢代になぞらえている。
- 鐘漏 … 時を知らせる鐘と、漏刻(水時計)の音。
- 晩 … 日暮れ。
仙宇靄沈沈
仙宇 靄として沈沈たり
- 仙宇 … 仙人の住む所。ここでは宮殿の建物を指す。
- 靄 … 靄がかかること。『全唐詩』では「藹」に作る。
- 沈沈 … 静まりかえっている様子。畳韻(二字が同じ母音で終わる)語。司馬相如「上林の賦」(『文選』巻八)に「沈沈隠隠として、砰磅訇磕たり」(沈沈隱隱、砰磅訇磕)とあり、李善注に「沈沈は、深き貌なり」(沈沈、深貌也)とある。砰磅と訇磕は、どちらも水が激しく流れるときの大きな音の形容。砰磅は、双声(二字の語頭子音が同じ)語。ウィキソース「昭明文選/卷8」参照。
武衞千廬合
武衛 千廬合し
- 武衛 … 宮中を警護する衛士。
- 千廬合 … 宿衛の小屋が幾千も連なり合っている。「千」は、たくさんあることを示す。「廬」は、宿衛の小屋。廬舎。「西都の賦」(『文選』巻一)に「周廬千列」とある。ウィキソース「西都賦」参照。
嚴扃萬戶深
厳扃 万戸深し
- 厳扃 … 扉が固く閉ざされていること。「扃」は、戸のかんぬき。
- 万戸深 … 幾万と奥深く続いている。「万戸」は、宮殿の建物が多いこと。
左掖知天近
左掖 天の近きを知り
- 左掖 … 門下省の別名。給事中は門下省に属す。「左掖」は、元は宮殿の正面の左の小門。
- 知天近 … 天に間近いことが分る。ここは、天子の宮殿がすぐそばにあることを、天にかけたもの。
南窓見月臨
南窓 月の臨むを見る
- 南窓 … 南の窓からは。「窓」は、底本(冨山房『漢文大系』)では「窻」、『全唐詩』では「窗」に作る。ともに異体字。
- 見月臨 … こちらを照り差す月の姿も見えている。
樹搖金掌露
樹には揺ぐ 金掌の露
- 金掌 … 漢の武帝が建てた銅製の承露盤のこと。銅柱の上に仙人の手の平をかたどった盤が置かれ、これにたまった天の露を飲むと長寿を得るとされた。「西都の賦」(『文選』巻一)に「仙掌を抗げて以て露を承け、双立の金茎を擢く」(抗仙掌以承露、擢雙立之金莖)とある。ウィキソース「西都賦」参照。
庭接玉樓陰
庭には接す 玉楼の陰
- 接 … 影が続いている様子。『全唐詩』では「徙」に作る。こちらは「徙る」と読み、月の移動にともない、玉楼の影が移動する意となる。
- 玉楼陰 … 玉のように美しい楼閣の落とす影。天子の宮殿を指す。
他日聞更直
他日聞く 更直して
- 他日 … 後日。「他」は、底本(冨山房『漢文大系』)では「佗」に作るが、『全唐詩』に従い改めた。同義。
- 聞 … 私は聞いた。
- 更直 … 交代して宿直すること。ここではその宿直の番に当たること。
中宵屬所欽
中宵 欽う所に属すと
- 中宵 … 夜中。夜半。
- 属所欽 … 詠じた詩を敬愛する人々へ贈られたと。「所欽」は、敬愛する人。尊び敬う人。「属」は、手紙につけて贈ること。
聲華大國寶
声華 大国の宝
- 声華 … 輝かしい名声。よい評判。
- 大国宝 … 唐王朝の宝。
夙夜侍臣心
夙夜 侍臣の心
- 夙夜 … 朝早くから夜遅くまで。「夙」は、朝早く。早朝。『詩経』大雅・烝民の詩に「夙夜懈らず、以て一人に事う」(夙夜匪懈、以事一人)とある。ウィキソース「詩經/烝民」参照。
- 侍臣 … 君主のそば近く仕える臣下。「侍」は、『全唐詩』では「近」に作る。
- 心 … 忠誠の心。
逸興乘高閣
逸興 高閣に乗じ
- 逸興 … 心に湧いてくる、すぐれた興趣。俗世間を超越した、すぐれた興趣。
- 乗高閣 … 宿直する高殿の高さに力を得て、馳せめぐる。
雄飛在禁林
雄飛 禁林に在り
- 雄飛 … 雄々しく空高く飛ぶこと。「雌伏」の対語。『後漢書』趙温伝に「大丈夫当に雄飛すべし、安んぞ能く雌伏せん」(大丈夫當雄飛、安能雌伏)とある。ウィキソース「後漢書/卷27」参照。
- 禁林 … 宮中にある林。
寧思竊抃者
寧ぞ思わん 窃かに抃する者
- 寧思 … 君は予想していたであろうか。
- 寧 … 「いずくんぞ」「なんぞ」と読み、「どうして~であろうか」「まさか~ではあるまい」と訳す。反語の意を示す。
- 窃抃者 … ひそかに手を打って、君の詩の調子に合わせて喜ぶ者を。「抃」は、両手を叩いて喜ぶこと。魏の曹植の「自ら試みられんことを求むる表」(『文選』巻三十七)に「夫れ博に臨んで企竦し、楽を聞いて窃かに抃する者は、或いは音を賞して道を識ること有ればなり」(夫臨博而企竦、聞樂而竊抃者、或有賞音而識道也)とある。「博」は、ばくち。「企竦」は、爪先立つこと。ウィキソース「求自試表」参照。
情發爲知音
情の発するは知音が為なり
- 情発 … 感情のあふれるあまり、唱和の詩を作らずにいられないのは。『詩経』大序に「情声に発し、声文を成す、之を音と謂う」(情發於聲、聲成文、謂之音)とある。ウィキソース「詩經/關雎」参照。
- 為知音 … 真に自分を理解してくれる人を思えばこそである。「知音」は、自分を理解してくれる人。許給事を指す。
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