>   漢詩   >   唐詩選   >   巻四 五排   >   和許給事直夜簡諸公(張九齢)

和許給事直夜簡諸公(張九齢)

和許給事直夜簡諸公
許(きょ)給(きゅう)事(じ)の「直(ちょく)夜(や)、諸公(しょこう)に簡(かん)す」に和(わ)す
張(ちょう)九(きゅう)齢(れい)
  • 五言排律。沈・深・臨・陰・欽・心・林・音(下平声侵韻)。
  • ウィキソース「和許給事中直夜簡諸公」参照。
  • 許 … 許某。人物については不詳。作者の友人、許景先(677~730)という説もあるが、確定されていない。許景先については、ウィキペディア【许景先】(中文)参照。
  • 給事 … 官名。給事中。門下省に属し、詔勅を検討する役。ウィキペディア【給事中】参照。『漢書』百官公卿表、奉軍都尉の条に「給事中も亦た加官なり。加うる所は或いは大夫・博士・議郎、顧問応対を掌り、位は中常侍に次ぐ」(給事中亦加官。所加或大夫博士議郎、掌顧問應對、位次中常侍)とある。ウィキソース「漢書/卷019」参照。
  • 直夜 … 宿直の夜。
  • 諸公 … 親しい友人たち。諸君。
  • 簡 … 詩を手紙に書いて贈ること。
  • 和 … ここでは許某が詩を作って贈ってきたのに対し、作者が唱和したもの。
  • 張九齢 … 678~740。初唐の詩人。字(あざな)は子(し)寿(じゅ)。韶州(しょうしゅう)曲(きょく)江(こう)県(広東省韶(しょう)関(かん)市曲江区)の人。長安二年(702)、進士に及第。校書郎・右拾遺・中書侍郎などを歴任。開元二十一年(733)、同中書門下平章事(宰相職)、さらに中書令(宰相職)となり玄宗を補佐したが、李(り)林(りん)甫(ぽ)の讒言(ざんげん)により荊(けい)州(しゅう)(湖北省江陵県)に長史(副官)に左遷された。『曲江張先生文集』二十巻がある。ウィキペディア【張九齢】参照。
未央鐘漏晩
未(び)央(おう) 鐘(しょう)漏(ろう)晩(く)れ
  • 未央 … 漢代の宮殿の名。未央宮。漢の高祖の九年(前198)、丞相の蕭(しょう)何(か)によって建てられた。ウィキペディア【未央宮】参照。ここでは、今の宮中の様子を漢代になぞらえている。
  • 鐘漏 … 時を知らせる鐘と、漏刻(水時計)の音。
  • 晩 … 日暮れ。
仙宇靄沈沈
仙(せん)宇(う) 靄(あい)として沈沈(ちんちん)たり
  • 仙宇 … 仙人の住む所。ここでは宮殿の建物を指す。
  • 靄 … 靄(もや)がかかること。
  • 沈沈 … 静まりかえっている様子。畳韻(二字が同じ母音で終わる)語。前漢の司馬相如「上林の賦」(『文選』巻八)に「沈沈(ちんちん)隠隠(いんいん)として、砰磅(ほうほう)訇磕(こうかい)たり」(沈沈隱隱、砰磅訇磕)とあり、その李善注に「沈沈(ちんちん)は、深(ふか)き貌(さま)なり」(沈沈、深貌也)とある。砰磅と訇磕は、どちらも水が激しく流れるときの大きな音の形容。砰磅は、双声(二字の語頭子音が同じ)語。ウィキソース「昭明文選/卷8」参照。
武衞千廬合
武(ぶ)衛(えい) 千(せん)廬(ろ)合(がっ)し
  • 武衛 … 宮中を警護する衛士。
  • 千廬合 … 宿衛の小屋が幾千も連なり合っている。千は、たくさんあることを示す。廬は、宿衛の小屋。廬舎。後漢の班固「西都の賦」(『文選』巻一)に「周(しゅう)廬(ろ)千列(せんれつ)」とある。ウィキソース「西都賦」参照。
嚴扃萬戶深
厳扃(げんけい) 万(ばん)戸(こ)深(ふか)し
  • 厳扃 … 扉が固く閉ざされていること。扃は、戸のかんぬき。
  • 万戸深 … 幾万と奥深く続いている。万戸は、宮殿の建物が多いこと。
左掖知天近
左(さ)掖(えき) 天(てん)の近(ちか)きを知(し)り
  • 左掖 … 門下省の別名。給事中は門下省に属す。左掖は、元は宮殿の正面の左の小門。
  • 知天近 … 天に間近いことが分る。ここは、天子の宮殿がすぐそばにあることを、天にかけたもの。
南窓見月臨
南窓(なんそう) 月(つき)の臨(のぞ)むを見(み)る
  • 南窓 … 南の窓からは。
  • 見月臨 … こちらを照り差す月の姿も見えている。
樹搖金掌露
樹(き)には揺(ゆら)ぐ 金(きん)掌(しょう)の露(つゆ)
  • 金掌 … 漢の武帝が建てた銅製の承(しょう)露(ろ)盤(ばん)のこと。銅柱の上に仙人の手の平をかたどった盤が置かれ、これにたまった天の露を飲むと長寿を得るとされた。後漢の班固「西都の賦」(『文選』巻一)に「仙(せん)掌(しょう)を抗(あ)げて以(もっ)て露(つゆ)を承(う)け、双立(そうりつ)の金茎(きんけい)を擢(ぬ)く」(抗仙掌以承露、擢雙立之金莖)とある。ウィキソース「西都賦」参照。
庭接玉樓陰
庭(にわ)には接(せっ)す 玉(ぎょく)楼(ろう)の陰(かげ)
  • 接 … 影が続いている様子。『全唐詩』では「徙」に作る。こちらは「徙(うつ)る」と読み、月の移動にともない、玉楼の影が移動する意となる。
  • 玉楼陰 … 玉のように美しい楼閣の落とす影。天子の宮殿を指す。
他日聞更直
他(た)日(じつ)聞(き)く 更(こう)直(ちょく)して
  • 他日 … 後日。
  • 聞 … 私は聞いた。
  • 更直 … 交代して宿直すること。ここでは、その宿直の番に当たること。
中宵屬所欽
中宵(ちゅうしょう) 欽(した)う所(ところ)に属(しょく)すと
  • 中宵 … 夜中。夜半。
  • 属所欽 … 詠じた詩を敬愛する人々へ贈られたと。所欽は、敬愛する人。尊び敬う人。属は、手紙につけて贈ること。
聲華大國寶
声(せい)華(か) 大国(たいこく)の宝(たから)
  • 声華 … 輝かしい名声。よい評判。
  • 大国宝 … 唐王朝の宝。
夙夜侍臣心
夙(しゅく)夜(や) 侍(じ)臣(しん)の心(こころ)
  • 夙夜 … 朝早くから夜遅くまで。夙は、朝早く。早朝。『詩経』大雅・烝(じょう)民(みん)に「夙(しゅく)夜(や)懈(おこた)らず、以(もっ)て一人(いちにん)に事(つか)う」(夙夜匪懈、以事一人)とある。ウィキソース「詩經/烝民」参照。
  • 侍臣 … 君主のそば近く仕える臣下。
  • 侍 … 『全唐詩』では「近」に作る。
  • 心 … 忠誠の心。
逸興乘高閣
逸(いっ)興(きょう) 高閣(こうかく)に乗(じょう)じ
  • 逸興 … 心に湧いてくる、すぐれた興趣。俗世間を超越した、すぐれた興趣。
  • 乗高閣 … 宿直する高殿の高さに力を得て、馳せめぐる。
雄飛在禁林
雄(ゆう)飛(ひ) 禁林(きんりん)に在(あ)り
  • 雄飛 … 雄々(おお)しく空高く飛ぶこと。「雌伏」の対語。『後漢書』趙温伝に「大(だい)丈(じょう)夫(ふ)当(まさ)に雄(ゆう)飛(ひ)すべし、安(いず)くんぞ能(よ)く雌(し)伏(ふく)せん」(大丈夫當雄飛、安能雌伏)とある。ウィキソース「後漢書/卷27」参照。
  • 禁林 … 宮中にある林。
寧思竊抃者
寧(なん)ぞ思(おも)わん 窃(ひそ)かに抃(べん)する者(もの)
  • 寧思 … 君は予想していたであろうか。
  • 寧 … 「いずくんぞ」「なんぞ」と読み、「どうして~であろうか」「まさか~ではあるまい」と訳す。反語の意を示す。
  • 窃抃者 … ひそかに手を打って、君の詩の調子に合わせて喜ぶ者を。抃は、両手を叩いて喜ぶこと。三国魏の曹(そう)植(しょく)の「自(みずか)ら試(こころ)みられんことを求(もと)むる表(ひょう)」(『文選』巻三十七)に「夫(そ)れ博(はく)に臨(のぞ)んで企(き)竦(しょう)し、楽(がく)を聞(き)いて窃(ひそ)かに抃(べん)する者(もの)は、或(ある)いは音(おん)を賞(しょう)して道(みち)を識(し)ること有(あ)ればなり」(夫臨博而企竦、聞樂而竊抃者、或有賞音而識道也)とある。博は、ばくち。企竦は、爪先立つこと。ウィキソース「求自試表」参照。
情發爲知音
情(じょう)の発(はっ)するは知(ち)音(いん)が為(ため)なり
  • 情発 … 感情のあふれるあまり、唱和の詩を作らずにいられないのは。『詩経』大序に「情(じょう)声(こえ)に発(はっ)し、声(こえ)文(ぶん)を成(な)す、之(これ)を音(おん)と謂(い)う」(情發於聲、聲成文、謂之音)とある。ウィキソース「詩經/關雎」参照。
  • 為知音 … 真に自分を理解してくれる人を思えばこそである。知音は、自分を理解してくれる人。許給事を指す。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻四(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻四十九(排印本、中華書局、1960年)
歴代詩選
古代 前漢
後漢 魏
晋 南北朝
初唐 盛唐
中唐 晩唐
北宋 南宋
金 元
明 清
唐詩選
巻一 五言古詩 巻二 七言古詩
巻三 五言律詩 巻四 五言排律
巻五 七言律詩 巻六 五言絶句
巻七 七言絶句
詩人別
あ行 か行 さ行
た行 は行 ま行
や行 ら行