• 〔テキスト〕 『唐詩三百首』五言古詩、『宋本杜工部集』巻一、『九家集注杜詩』巻一、『杜陵詩史』巻八、『分門集注杜工部詩』巻十七（『四部叢刊 初編集部』所収）、『草堂詩箋』巻十四、『銭注杜詩』巻一、『杜詩詳注』巻六、『全唐詩』巻二百十六、『文苑英華』巻二百三十、他
• 五言古詩。商・光・蒼・腸・堂・行・方・漿・粱・觴・長・茫（平声陽韻）。
• ウィキソース「贈衛八處士」参照。
• 贈衛八処士 … 乾元二年（759）、華州（現在の陝西省華州区）の司功参軍の任にあった時の作。作者四十八歳。
• 衛八 … 杜甫の友人。「衛」は姓。「八」は排行（はいこう）。「排行」とは、一族中の兄弟やいとこなどの年齢による序列。衛八の人物については不明。
• 処士 … 士の身分でありながら、官に仕えない人。
• 杜甫 … 712～770。盛唐の詩人。襄（じょう）陽（よう）（湖北省）の人。字（あざな）は子美（しび）。祖父は初唐の詩人、杜審言。若い頃、科挙を受験したが及第できず、各地を放浪して李白らと親交を結んだ。安史の乱では賊軍に捕らえられたが、やがて脱出し、新帝粛（しゅく）宗（そう）のもとで左拾遺に任じられた。その翌年左遷されたため官を捨てた。四十八歳の時、成都（四川省成都市）の近くの浣（かん）花（か）渓（けい）に草堂を建てて四年ほど過ごしたが、再び各地を転々とし一生を終えた。中国最高の詩人として「詩聖」と呼ばれ、李白とともに「李杜（りと）」と並称される。『杜工部集』がある。ウィキペディア【杜甫】参照。

人生（じんせい）　相（あい）見（み）ざること

動（やや）もすれば　参（しん）と商（しょう）との如（ごと）し

今夕（こんせき）　復（ま）た何（なん）の夕（ゆう）べぞ

此（こ）の灯（とう）燭（しょく）の光（ひかり）を共（とも）にせんとは

少（しょう）壮（そう）　能（よ）く幾時（いくとき）ぞ

鬢髪（びんぱつ）　各〻（おのおの）已（すで）に蒼（そう）たり

旧（きゅう）を訪（と）えば　半（なか）ばは鬼（き）と為（な）る

驚（きょう）呼（こ）すれば　中腸（ちゅうちょう）熱（ねっ）す

焉（いずく）んぞ知（し）らん　二（に）十（じっ）載（さい）

重（かさ）ねて君（くん）子（し）の堂（どう）に上（のぼ）らんとは

昔（むかし）別（わか）れしとき　君（きみ）未（いま）だ婚（こん）せざりしに

児（じ）女（じょ）　忽（たちま）ち行（こう）を成（な）す

怡（い）然（ぜん）として　父（ちち）の執（とも）を敬（うやま）い

我（われ）に問（と）う　何（いず）れの方（かた）より来（きた）ると

問答（もんどう）　未（いま）だ已（や）むに及（およ）ばざるに

児（じ）女（じょ）　酒（しゅ）漿（しょう）を羅（つら）ぬ

夜雨（やう）に春韭（しゅんきゅう）を翦（き）り

新炊（しんすい）に黄（こう）粱（りょう）を間（まじ）う

主（しゅ）は称（しょう）す　会面（かいめん）難（かた）しと

一挙（いっきょ）　十（じっ）觴（しょう）を累（かさ）ねよと

十（じっ）觴（しょう）　亦（ま）た酔（よ）わず

子（し）の故意（こい）の長（なが）きに感（かん）ず

明（みょう）日（にち）　山岳（さんがく）を隔（へだ）てなば

世（せい）事（じ）　両（ふた）つながら茫茫（ぼうぼう）たらん