>   漢詩   >   歴代詩選:盛唐   >   江村(杜甫)

江村(杜甫)

江村
江村こうそん
杜甫とほ
  • 〔テキスト〕 『分門集注杜工部詩』巻七(『四部叢刊 初編集部』所収)、『杜詩詳注』巻九、『全唐詩』巻二百二十六、『文苑英華』巻三百十九、他
  • 七言律詩。流・幽・鷗・鉤・求(平声尤韻)。
  • ウィキソース「江村」参照。
  • 江村 … 川辺の村。「江」は成都西郊の浣花渓を指す。上元元年(760)、成都での作。作者四十九歳。
  • 杜甫 … 712~770。盛唐の詩人。じょうよう(湖北省)の人。あざな子美しび。祖父は初唐の詩人、杜審言。若い頃、科挙を受験したが及第できず、各地を放浪して李白らと親交を結んだ。安史の乱では賊軍に捕らえられたが、やがて脱出し、新帝しゅくそうのもとで左拾遺に任じられた。その翌年左遷されたため官を捨てた。四十八歳の時、成都(四川省成都市)の近くのかんけいに草堂を建てて四年ほど過ごしたが、再び各地を転々とし一生を終えた。中国最高の詩人として「詩聖」と呼ばれ、李白とともに「李杜りと」と並称される。『杜工部集』がある。ウィキペディア【杜甫】参照。
清江一曲抱村流
清江せいこう いっきょく むらいだいてなが
  • 清江 … 澄んだ川の流れ。長江上流の錦江の支流、浣花渓を指す。
  • 一曲 … ひと曲がりして。
  • 抱村流 … 村を抱きかかえるように湾曲して流れている。
長夏江村事事幽
ちょう 江村こうそん 事事じじゆうなり
  • 長夏 … 日の長い夏。長い夏の日。陰暦六月のこと。
  • 江村 … 川沿いの村。
  • 事事 … すべての物事。
  • 幽 … 奥深く物静か。静寂。
自去自來堂上燕
おのずからおのずからきたる どうじょうつばめ
  • 自去自来 … 自在に行ったり来たりすること。勝手に行き来すること。
  • 來 … 『全唐詩』には「一作歸」とある。
  • 堂上 … 屋敷の中。「堂」は、屋敷の表向きの大広間。表座敷。
  • 堂 … 『全唐詩』には「一作梁」とある。
相親相近水中鷗
あいしたしみあいちかづく すいちゅうかもめ
  • 相親相近 … (鷗が)私に慣れ親しんで近づいてくる。
  • 水中 … 水の上。水面下ではない。
老妻畫紙爲棊局
老妻ろうさいかみえがいてきょくつく
  • 老妻 … 年老いた妻。
  • 画紙 … 紙に線を引いて。
  • 棊局 … 碁盤。「棊」は「棋」の異体字。
  • 棊 … 『全唐詩』では「棋」に作る。『文苑英華』等では「碁」に作る。
  • 為 … 作る。『全唐詩』には「一作成」とある。
稚子敲針作釣鉤
稚子ちしはりたたいてちょうこうつく
  • 稚子 … 幼い子。ここでは杜甫の子を指す。
  • 敲針 … まっすぐな縫い針をたたいて曲げる。「敲」は叩く。
  • 釣鉤 … 釣り針。
多病所須唯藥物
びょう ところ薬物やくぶつ
  • 多病 … 病気がちな私。病弱な身。
  • 所須 … 必要なものは。「須」は、必要とする。「所」は、もの。
  • 唯薬物 … ただ薬だけだ。「薬物」は、漢方薬。
  • 多病所須唯薬物 … 『全唐詩』には「一作但有故人供祿米。供一作分」とある。「但有故人供祿米」は「じん禄米ろくまいきょうするらば」と訓読し、「ただ旧知の人が禄米を分けてくれさえすれば」と訳すことができる。
微軀此外更何求
微軀びく ほかさらなにをかもとめん
  • 微軀 … 卑しい身。自身の謙称。
  • 此 … 穏やかな日々の暮らし。また、漢方薬とする解釈もある。
  • 何求 … 何を求める必要があろうか。いや、何も求める必要はない。反語を表す。
  • 何 … 『全唐詩』には「一作無」とある。
歴代詩選
古代 前漢
後漢
南北朝
初唐 盛唐
中唐 晩唐
北宋 南宋
唐詩選
巻一 五言古詩 巻二 七言古詩
巻三 五言律詩 巻四 五言排律
巻五 七言律詩 巻六 五言絶句
巻七 七言絶句
詩人別
あ行 か行 さ行
た行 は行 ま行
や行 ら行