呉子 図国第一
- 01 呉子曰、昔之図国家者……
- 02 呉子曰、夫道者所以反本復始……
- 03 呉子曰、凡制国治軍……
- 04 呉子曰、凡兵之所起者有五……
- 05 武侯問曰、願聞治兵料人……
- 06 武侯問曰、願聞陣必定……
01 呉子曰、昔之圖國家者、必先教百姓、而親萬民。
呉子曰く、昔の国家を図る者は、必ず先ず百姓を教え、而して万民を親しむ。
- ウィキソース「吳子」参照。
- 図国家 … 国家の運営を図り考えること。
- 百姓 … 「ひゃくせい」と読む。人民。万民のこと。農民ではない。
有四不和。不和於國、不可以出軍。不和於軍、不可以出陣。不和於陣、不可以進戰。不和於戰、不可以決勝。
四つの不和有り。国に和せざれば、以て軍を出す可からず。軍に和せざれば、以て出陣す可からず。陣に和せざれば、以て進み戦う可からず。戦いに和せざれば、以て勝ちを決す可からず。
是以有道之主、將用其民、先和而後造大事。不敢信其私謀、必告於祖廟、啓於元龜、參之天時、吉乃後擧。
是を以て有道の主は、将に其の民を用いんとすれば、先ず和して、而る後に大事を造す。敢えて其の私謀を信ぜず、必ず祖廟に告げ、元亀を啓き、之を天時に参じ、吉にして乃ち後に挙ぐ。
- 是以 … 「ここをもって」と読み、「こういうわけで」「このゆえに」「それゆえに」「だから」と訳す。「以是」は「これをもって」と読み、「この点から」「これにより」「これを用いて」と訳す。
民知君之愛其命、惜其死、若此之至、而與之臨難、則士以進死爲榮、退生爲辱矣。
民、君の其の命を愛み、其の死を惜しむこと、此の若くの至れることを知りて、之と難に臨めば、則ち士は進んで死するを以て栄と為し、退いて生くるを辱と為さん。
02 呉子曰、夫道者所以反本復始。義者所以行事立功。謀者所以違害就利。要者所以保業守成。
呉子曰く、夫れ道は本に反り始めに復る所以なり。義は事を行い功を立つる所以なり。謀は害を違け利に就く所以なり。要は業を保ち成を守る所以なり。
若行不合道、擧不合義、而處大居貴、患必及之。是以聖人綏之以道、理之以義、動之以禮、撫之以仁。此四德者、修之則興、廢之則衰。
若し行い道に合わず、挙、義に合わずして、大に処り貴に居らば、患い必ず之に及ぶ。是を以て、聖人は、之を綏んずるに道を以てし、之を理むるに義を以てし、之を動かすに礼を以てし、之を撫するに仁を以てす。此の四徳は、之を修むれば則ち興り、之を廃すれば則ち衰う。
故成湯討桀、而夏民喜説、周武伐紂、而殷人不非。擧順天人。故能然矣。
故に成湯、桀を討ちて、夏の民は喜説し、周武、紂を伐ちて、殷人非とせず。挙、天人に順う。故に能く然るなり。
03 呉子曰、凡制國治軍、必教之以禮、勵之以義、使有恥也。夫人有恥、在大足以戰、在小足以守矣。然戰勝易、守勝難。
呉子曰く、凡そ国を制し軍を治むるには、必ず之に教うるに礼を以てし、之を励ますに義を以てし、恥有らしむるなり。夫れ人に恥有れば、大に在りては以て戦うに足り、小に在りては以て守るに足る。然れども戦いて勝つは易く、守りて勝つは難し。
故曰、天下戰國、五勝者禍。四勝者弊。三勝者霸。二勝者王。一勝者帝。是以數勝得天下者稀、以亡者衆。
故に曰く、天下の戦う国、五たび勝つ者は禍なり。四たび勝つ者は弊る。三たび勝つ者は覇たり。二たび勝つ者は王たり。一たび勝つ者は帝たり、と。是を以て、数〻勝ちて天下を得たる者は稀に、以て亡ぶる者は衆し。
04 呉子曰、凡兵之所起者有五。一曰、爭名。二曰、爭利。三曰、積惡。四曰、内亂。五曰、因饑。
呉子曰く、凡そ兵の起る所の者五有り。一に曰く、名を争う。二に曰く、利を争う。三に曰く、悪を積む。四に曰く、内乱る。五に曰く、饑えに因る。
其名又有五。一曰、義兵。二曰、強兵。三曰、剛兵。四曰、暴兵。五曰、逆兵。
其の名又五有り。一に曰く、義兵。二に曰く、強兵。三に曰く、剛兵。四に曰く、暴兵。五に曰く、逆兵。
禁暴救亂曰義。恃衆以伐曰強。因怒興師曰剛。棄禮貪利曰暴。國亂人疲、擧事動衆曰逆。
暴を禁じ乱を救うを義と曰う。衆を恃みて以て伐つを強と曰う。怒りに因りて師を興すを剛と曰う。礼を棄て利を貪るを暴と曰う。国乱れ人疲れたるに事を挙げ衆を動かすを逆と曰う。
五者之服、各有其道。義必以禮服。強必以謙服。剛必以辭服。暴必以詐服。逆必以權服。
五者之を服するに、各〻其の道有り。義は必ず礼を以て服す。強は必ず謙を以て服す。剛は必ず辞を以て服す。暴は必ず詐を以て服す。逆は必ず権を以て服す。
- 五者之服 … 「五者之数」に作るテキストもある。
05 武侯問曰、願聞治兵料人固國之道。
武侯、問いて曰く、願わくは兵を治め人を料り国を固くするの道を聞かん。
起對曰、古之明王、必謹君臣之禮、飾上下之儀、安集吏民、順俗而教、簡募良材、以備不虞。昔齊桓募士五萬、以霸諸侯。晉文召爲前行四萬、以獲其志。秦穆置陷陣三萬、以服鄰敵。
起、対えて曰く、古の明王は、必ず君臣の礼を謹み、上下の儀を飾め、吏民を安集し、俗に順いて教え、良材を簡募して、以て不虞に備う。昔、斉桓は士五万を募りて、以て諸侯に覇たり。晋文は前行を為すもの四万を召して、以て其の志を獲たり。秦穆は陥陣三万を置き、以て鄰敵を服せり。
故強國之君、必料其民。民有膽勇氣力者、聚爲一卒。
故に強国の君は、必ず其の民を料る。民の胆勇気力有る者を、聚めて一卒と為す。
樂以進戰、效力以顯其忠勇者、聚爲一卒。
楽しみて以て進み戦い、力を効して以て其の忠勇を顕す者を、聚めて一卒と為す。
能踰高超遠、輕足善走者、聚爲一卒。
能く高きを踰え、遠きを超え、軽足にして善く走る者を、聚めて一卒と為す。
王臣失位、而欲見功於上者、聚爲一卒。
王臣の位を失いて、功を上に見さんと欲する者を、聚めて一卒と為す。
棄城去守、欲除其醜者、聚爲一卒。
城を棄て守りを去りて、其の醜を除かんと欲する者を、聚めて一卒と為す。
此五者、軍之練鋭也。有此三千人、内出可以決圍、外入可以屠城矣。
此の五者は、軍の練鋭なり。此の三千人有らば、内より出でては以て囲を決く可く、外より入りては以て城を屠る可し。
06 武侯問曰、願聞陳必定、守必固、戰必勝之道。
武侯、問いて曰く、願わくは陣すれば必ず定まり、守れば必ず固く、戦えば必ず勝つの道を聞かん。
起對曰、立見且可、豈直聞乎。
起、対えて曰く、立ちどころに見んことすら且つ可なり、豈に直に聞くのみならんや。
君、能使賢者居上、不肖者處下、則陳已定矣。民、安其田宅、親其有司、則守已固矣。百姓皆是吾君、而非鄰國、則戰已勝矣。
君、能く賢者をして上に居り、不肖者をして下に処らしむれば、則ち陣已に定まる。民、其の田宅を安んじ、其の有司に親しめば、則ち守り已に固し。百姓皆吾が君を是とし、鄰国を非とせば、則ち戦い已に勝てり。
武侯嘗謀事、羣臣莫能及。罷朝而有喜色。
武侯、嘗て事を謀るに、群臣能く及ぶ莫し。朝を罷めて喜色有り。
起進曰、昔楚莊王嘗謀事。羣臣莫能及。罷朝而有憂色。
起、進みて曰く、昔、楚の荘王嘗て事を謀る。群臣能く及ぶ莫し。朝を罷めて憂色有り。
申公問曰、君有憂色何也。
申公問いて曰く、君、憂色有るは何ぞや。
曰、寡人聞之。世不絶聖。國不乏賢。能得其師者王、能得其友者霸。今寡人不才、而羣臣莫及者。楚國其殆矣。
曰く、寡人之を聞く。世、聖を絶たず。国、賢に乏しからず。能く其の師を得る者は王たり、能く其の友を得る者は覇たり、と。今、寡人不才にして群臣及ぶ者莫し。楚国は其れ殆うからん、と。
此楚莊王之所憂。而君説之。臣竊懼矣。於是武侯有慚色。
此れ楚の荘王の憂うる所なり。而るに君は之を説ぶ。臣窃かに懼る。是に於いて武侯、慚ずる色有り。
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