呉子 序章
呉起儒服、以兵機見魏文侯。文侯曰、寡人不好軍旅之事。
呉起、儒服し、兵機を以て魏の文侯に見ゆ。文侯曰く、寡人、軍旅の事を好まず。
- ウィキソース「吳子」参照。
- 儒服 … 儒者の着る服。
起曰、臣以見占隱、以往察來。主君何言與心違。
起曰く、臣、見を以て隠を占い、往を以て来を察す。主君、何ぞ言と心と違える。
今君、四時使斬離皮革、掩以朱漆、畫以丹青、爍以犀象。冬日衣之則不温、夏日衣之則不涼。
今、君、四時に皮革を斬離し、掩うに朱漆を以てし、画くに丹青を以てし、爍かすに犀象を以てせしむ。冬日に之を衣れば則ち温かならず、夏日に之を衣れば則ち涼しからず。
爲長戟二丈四尺、短戟一丈二尺、革車掩戸、縵輪籠轂、觀之於目則不麗、乘之以田則不輕。不識、主君安用此也。
長戟の二丈四尺なる、短戟の一丈二尺なる、革車の戸を掩い、縵輪・篭轂を為る。之を目に観れば則ち麗しからず、之に乗りて以て田すれば則ち軽からず。識らず、主君、安にか此を用うる。
- 田 … 狩りをする。
若以備進戰退守、而不求能用者、譬猶伏雞之搏貍、乳犬之犯虎、雖有鬭心、隨之死矣。
若し以て進戦・退守に備えて、而も能く用うる者を求めずば、譬えば猶お伏雞の貍を搏ち、乳犬の虎を犯すがごとく、闘心有りと雖も、之に随いて死せん。
昔承桑氏之君、修徳廢武、以滅其國家。有扈氏之君、恃衆好勇、以喪其社稷。
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昔、承桑氏の君は、徳を修め、武を廃して、以て其の国家を滅ぼせり。有扈氏の君は、衆を恃み勇を好みて、以て其の社稷を喪えり。
- 承桑氏 … 古代、伝説上の諸侯の名。
- 君 … 君主。
- 有扈氏 … 古代、伝説上の諸侯の名。
- 社稷 … 国家・王朝をいう。社は、土地の神。稷は、五穀の神。この二神を国の守り神として必ず祭った。双声(二字の語頭子音が同じ)語。
明主鑒茲、必内修文德、外治武備。故當敵而不進、無逮於義矣、僵屍而哀之、無逮於仁矣。
明主は茲に鑒みて、必ず内に文徳を修め、外に武備を治む。故に、敵に当りて進まざるは義に逮ぶ無く、僵屍して之を哀しむは、仁に逮ぶ無し。
- 逮 … 及ぶ。そこまで届く。
- 僵屍 … たおれた死体。僵尸。
於是文侯身自布席、夫人捧觴、醮呉起於廟、立爲大將。守西河。與諸侯大戰七十六、全勝六十四、餘則均解。闢土四面、拓地千里。皆起之功也。
是に於いて文侯身自ら席を布き、夫人觴を捧げ、呉起を廟に醮め、立てて大将と為す。西河を守り、諸侯と大いに戦うこと七十六、全く勝つこと六十四、余は則ち均しく解く。土を四面に闢き、地を千里に拓く。皆起の功なり。
- 於是 … 「ここにおいて」と読み、「そこで」と訳す。ちなみに「是以」は「ここをもって」と読み、「こういうわけで」と訳す。「以是」は「これをもって」と読み、「この点から」と訳す。
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