呉子 応変第五
- 01 武侯問曰、車堅馬良、将勇……
- 02 武侯問曰、若敵衆我寡……
- 03 武侯問曰、有師甚衆、既武……
- 04 武侯問曰、敵近而薄我……
- 05 武侯問曰、若遇敵於谿谷……
- 06 武侯問曰、左右高山、地甚……
- 07 武侯問曰、吾与敵相遇大水……
- 08 武侯問曰、天久連雨、馬陥……
- 09 武侯問曰、暴寇卒来、掠吾……
- 10 呉子曰、凡攻敵囲城之道…
01 武侯問曰、車堅馬良、將勇兵強、卒遇敵人、亂而失行、則如之何。
武侯問いて曰く、車堅く馬良く、将勇にして兵強きも、卒かに敵人に遇い、乱れて行を失わば、則ち之を如何せん。
- ウィキソース「吳子」参照。
呉起對曰、凡戰之法、晝以旌旗旛麾爲節、夜以金鼓笳笛爲節。
呉起、対えて曰く、凡そ戦いの法、昼は旌旗旛麾を以て節と為し、夜は金鼓笳笛を以て節と為す。
麾左而左、麾右而右、鼓之則進、金之則止、一吹而行、再吹而聚。
左に麾すれば左し、右に麾すれば右し、之を鼓すれば則ち進み、之を金すれば則ち止まり、一たび吹きて行き、再び吹きて聚まる。
不從令者誅。三軍服威、士卒用命、則戰無強敵、攻無堅陳矣。
令に従わざる者は誅す。三軍威に服し、士卒命を用うれば、則ち戦うに強敵無く、攻むるに堅陣無し。
02 武侯問曰、若敵衆我寡、爲之奈何。
武侯問いて曰く、若し敵衆く、我寡ければ、之を為すこと奈何。
起對曰、避之於易、邀之於阨。故曰、以一撃十、莫善於阨、以十撃百、莫善於險、以千撃萬、莫善於阻。
起、対えて曰く、之を易に避け、之を阨に邀う。故に曰く、一を以て十を撃つは阨より善きは莫く、十を以て百を撃つは、険より善きは莫く、千を以て万を撃つは、阻より善きは莫し、と。
今有少卒、卒起撃金鳴鼓於厄路、雖有大衆、莫不驚動。故曰、用衆者務易、用少者務隘。
今、少卒有り、卒かに起りて厄路に撃金し鳴鼓すれば、大衆有りと雖も、驚動せざるは莫し。故に曰く、衆を用うる者は易を務め、少を用うる者は隘を務む、と。
03 武侯問曰、有師甚衆、既武且勇、背大阻險、右山左水、深溝高壘、守以強弩、退如山移、進如風雨、糧食又多、難與長守、則如之何。
武侯問いて曰く、師有り甚だ衆く、既に武、且つ勇、大を背にし険を阻て、山を右にし水を左にし、溝を深くし塁を高くし、守るに強弩を以てし、退くこと山の移るが如く、進くこと風雨の如く、糧食又多く、与に長く守り難きは、則ち之を如何せん。
起對曰、大哉問乎。此非車騎之力、聖人之謀也。能備千乘萬騎、兼之徒歩、分爲五軍、各軍一衢。
起、対えて曰く、大なるかな問いや。此れ車騎の力に非ず、聖人の謀なり。能く千乗万騎を備え、之に徒歩を兼ね、分ちて五軍と為し、各〻一衢に軍せよ。
夫五軍五衢、敵人必惑、莫知所加。敵若堅守、以固其兵、急行間諜、以觀其慮。
夫れ五軍五衢なれば、敵人必ず惑いて、加うる所を知る莫し。敵若し堅く守りて、以て其の兵を固くせば、急に間諜を行りて、以て其の慮を観る。
彼聽吾説、解之而去。不聽吾説、斬使焚書、分爲五戰。
彼吾が説を聴かば、之を解きて去らん。吾が説を聴かず、使いを斬り書を焚かば、分ちて五戦を為す。
戰勝勿追、不勝疾走。如是佯北、安行疾闘、一結其前、一絶其後、兩軍銜枚、或左或右、而襲其處。五軍交至、必有其利。此撃強之道也。
戦い勝つとも追うこと勿く、勝たずんば疾く走る。是の如く佯わり北げ、安かに行き疾く闘い、一は其の前に結び、一は其の後ろを絶ち、両軍枚を銜み、或いは左し或いは右して、其の処を襲う。五軍交〻至れば、必ず其の利有り。此れ強を撃つの道なり。
- 走 … 『直解』以外のテキストでは「帰」に作る。
04 武侯問曰、敵近而薄我、欲去無路、我衆甚懼、爲之奈何。
武侯問いて曰く、敵近づきて我に薄り、去らんと欲すれども路無く、我が衆甚だ懼るれば、之を為すこと奈何。
起對曰、爲此之術、若我衆彼寡、分而乘之。彼衆我寡、以方從之。從之無息、雖衆可服。
起、対えて曰く、此を為すの術、若し我衆くして彼寡くば、分ちて之に乗ぜん。彼衆くして我寡くば、方を以て之に従わん。之に従いて息むこと無くんば、衆しと雖も服す可し。
05 武侯問曰、若遇敵於谿谷之閒、傍多險阻、彼衆我寡、爲之奈何。
武侯問いて曰く、若し敵に谿谷の間に遇い、傍に険阻多く、彼衆くして我寡くば、之を為すこと奈何。
起對曰、遇諸丘陵林谷、深山大澤、疾行亟去、勿得從容。
起、対えて曰く、諸に丘陵・林谷、深山・大沢に遇わば、疾く行き亟かに去り、従容たるを得ること勿かれ。
若高山深谷、卒然相遇、必先鼓譟而乘之、進弓與弩、且射且虜。審察其政、亂則撃之勿疑。
若し高山・深谷に、卒然として相遇わば、必ず先ず鼓譟して之に乗じ、弓と弩とを進め、且つ射、且つ虜にす。審らかに其の政を察し、乱るれば則ち之を撃ちて疑うこと勿かれ。
- 審察其政 … 『直解』では「審察其治」に作り、次の句の「乱」までを一句として「審かに其の治乱を察す」と読んでいるが、ここでは諸本に従い改めた。「政」は、統制の意。
06 武侯問曰、左右高山、地甚狹迫、卒遇敵人、撃之不敢、去之不得、爲之奈何。
武侯問いて曰く、左右に高山あり、地甚だ狭迫なるに、卒かに敵人に遇い、之を撃つは敢えてせず、之を去ることも得ざれば、之を為すこと奈何。
起對曰、此謂谷戰。雖衆不用。募吾材士、與敵相當、輕足利兵、以爲前行、分車列騎、隱於四旁、相去數里、無見其兵。敵必堅陳、進退不敢。
起、対えて曰く、此を谷戦と謂う。衆しと雖も用いず。吾が材士を募りて、敵と相当り、軽足利兵、以て前行と為し、車を分ち騎を列ねて、四旁に隠し、相去ること数里、其の兵を見すこと無かれ。敵必ず陣を堅くして、進退敢えてせず。
於是出旌列旆、行出山外營之。敵人必懼。車騎挑之、勿令得休。此谷戰之法也。
是に於いて旌を出し旆を列ね、行きて山の外に出でて之に営す。敵人必ず懼れん。車騎もて之に挑み、休むを得しむること勿かれ。此れ谷戦の法なり。
07 武侯問曰、吾與敵相遇大水之澤、傾輪沒轅、水薄車騎、舟楫不設、進退不得、爲之奈何。
武侯問いて曰く、吾、敵と大水の沢に相遇いて、輪を傾け轅を没し、水は車騎に薄り、舟楫は設けず、進退得ざれば、之を為すこと奈何。
起對曰、此謂水戰。無用車騎。且畱其傍、登高四望、必得水情。
起、対えて曰く、此を水戦と謂う。車騎を用うること無し。且く其の傍に留め、高きに登りて四望せば、必ず水情を得ん。
知其廣狹、盡其淺深、乃可爲奇以勝之。敵若絶水、半渡而薄之。
其の広狭を知り、其の浅深を尽くし、乃ち奇を為して以て之に勝つ可し。敵若し水を絶らば、半ば渡らしめて之に薄る。
08 武侯問曰、天久連雨、馬陷車止、四面受敵、三軍驚駭、爲之奈何。
武侯問いて曰く、天久しく連雨し、馬陥り車止まり、四面に敵を受け、三軍驚駭せば、之を為すこと奈何。
- 驚駭 … 驚き恐れること。
起對曰、凡用車者、陰濕則停、陽燥則起、貴高賤下。馳其強車、若進若止、必從其道。敵人若起、必逐其迹。
起、対えて曰く、凡そ車を用うるには、陰湿なれば則ち停まり、陽燥なれば則ち起ち、高きを貴び下きを賤しむ。其の強車を馳せ、若しくは進み若しくは止まるには、必ず其の道に従う。敵人若し起たば、必ず其の迹を逐う。
09 武侯問曰、暴寇卒來、掠吾田野、取吾牛馬、則如之何。
武侯問いて曰く、暴寇卒かに来りて、吾が田野を掠め、吾が牛馬を取らば、則ち之を如何せん。
- 牛馬 … 『直解』以外のテキストでは「牛羊」に作る。
起對曰、暴寇之來、必慮其強、善守勿應。彼將暮去、其裝必重、其心必恐。還退務速、必有不屬。追而撃之、其兵可覆。
起、対えて曰く、暴寇の来るは、必ず其の強きを慮り、善く守りて応ずること勿かれ。彼将に暮れに去らんとす。其の装必ず重く、其の心必ず恐る。還り退くこと速やかなるを務め、必ず属かざること有らん。追いて之を撃たば、其の兵覆す可し。
10 呉子曰、凡攻敵圍城之道、城邑既破、各入其宮、御其祿秩、收其器物。
呉子曰く、凡そ敵を攻め城を囲むの道、城邑既に破るれば、各〻其の宮に入り、其の禄秩を御し、其の器物を収む。
軍之所至、無刊其木、發其屋、取其粟、殺其六畜、燔其積聚。示民無殘心、其有請降、許而安之。
軍の至る所、其の木を刊り、其の屋を発き、其の粟を取り、其の六畜を殺し、其の積聚を燔くこと無かれ。民に残心無きことを示し、其の降を請う有るは、許して之を安んず。
序章 | 図国第一 |
料敵第二 | 治兵第三 |
論将第四 | 応変第五 |
励士第六 |